第872話 ペット最年少コンビの暴走が止まらない件



 ここまでの回収率だが、アビスリングが20個以上、金色の景品交換コインが14枚とまずまず。今までの回収率と、それ程には変っていないねと家族も呑気なモノである。

 そんな事を話し合うのは、先ほど定期連絡が巻貝の通信機で掛かって来たから。どうやら岩国チームの面々は、リングはともかくコインの回収には苦労している模様。


 向こうはミケさんがいないからねと、長女の肩の上のキジトラ猫を見上げて呟く末妹。本気でそう思っているのは、ある意味アッパレな思考なのかも。

 家族の面々もそれには同意して、水エリアに連れ出されて不機嫌なミケを気遣う素振り。ある意味お猫様的な扱いだが、ペットの中では年長者なのでそれも仕方がない。


 ところで、ペット最年少のヒバリの暴挙だが、実はこの28層でも続いていた。それが楽しそうに映ったのか、ムームーちゃんまでボクもあれやるデシと立候補する始末。

 つまりは、例の『魚人型オートマタ』に入り込んで、自分も亀裂に潜んでいる敵を倒す遊びをしたいそう。困った護人だが、子供の自主性を否定する事もしたくはない。


 そこで2度目の起動となった『魚人型オートマタ』だが、その作戦自体は実は悪くない。何しろこの半自律鎧、水属性付与の高性能な魔法アイテムなのだ。

 子供のサイズなので使う者がいないのだが、スライム幼児はこれに自由に出入り出来ると言う。ある意味彼にピッタリな代物だが、癖が強過ぎて完全に扱うには至っていないのが現状である。

 と言うか、軟体幼児は魔法スキルが強過ぎるので後衛向き。


 そこがベストの場所と言うのが、意外にも本人は分かっていないと言う悲劇。彼も父ちゃんの肩の上は嫌いでは無いのだが、そこは薔薇のマントと言う先住民が威張り散らしているのだ。

 しかもムームーちゃんも、冒険したいお年頃……そんな訳で、オートマタを操ってヒバリの隣をご機嫌に歩き始めるムームーちゃんであった。


 そして『擬態』スキルを逆用して、敵の潜んでいる場所をヒバリより早く見つけ出す軟体幼児。そこにいるよと、潜んでいた亀裂に向かおうとした瞬間に悲劇が起きた。

 手柄を横取りされた仔グリフォンが、怒ってオートマタ鎧へと八つ当たりを始めたのだ。それを制止する後衛の紗良や香多奈は、味方をいじめちゃダメでしょと真っ当な台詞を口にしてのお説教モード。


 心に傷を負ったムームーちゃんは、鎧のお陰で身体にはノーダメージである。それでも父ちゃんに慰められて、これは2度目の起用も失敗に終わりそう。

 ただそれも、心情としてはあまりよろしくは無い気が。


「そうだね、このままだと変なトラウマって言うか、自立が遅れちゃうかもだよねぇ。あっ、ヒバリちゃん達が右の壁を探すなら、ムームーちゃんは左側を縄張りにしたら?

 それでお互い、干渉し合わない決まりを作ればどうかなっ?」

「それは良いかもね、でもヒバリったら本当にお転婆だよねっ……あれは妖精ちゃんの手下になった効果なのかな、それとも姫香お姉ちゃんが親代わりのせい?」

「いやまぁ、ヒバリのお転婆はともかくとして……それじゃあ俺が、ムームーちゃんの面倒を見る事にしようか。

 後衛の護衛は、それじゃあルルンバちゃんに頼んだよ」


 心得たと、AIロボは両手を振り上げて頑張るぞのポーズ。ヒバリを叱る役は紗良と香多奈に引き続き任せて、護人はムームーちゃんのお守り役をになう流れに。

 護人の事を父ちゃんと呼ぶ軟体幼児だが、護人も本当に父親になった気分である。そんな訳で、スライム幼児の自立をうながすためのオートマタ鎧の前衛ごっこの開始。


 実際、この28層では両壁の間に潜む待ち伏せ勢の数は意外と多かった。それを嬉々として退治して行く、妖精ちゃん率いる仔グリフォンと兎の人形である。

 そして左の壁側を歩くオートマタ鎧のムームーちゃんも、実は意外と頑張った。キル数は2つと少なかったものの、その内の1匹は4メートル級の大ウツボだったのだ。


 そいつに咬み付かれ、更には巻きつかれた時には内心で大慌ての護人だったのだが。腕に仕込まれた光のソードでの反撃は、強烈で太い敵の胴体を真っ二つにしてしまった。

 これには、割り込みを掛けようと思っていた保護者の護人もビックリ。そもそも、そんな能力が『魚人型オートマタ』にある事さえ知らなかった。


 後衛の紗良と香多奈も驚いて、これまた助けようと銃口を向けていたAIロボも完全にフリーズしている始末。まさか自力で脱出するとは、誰も思っていなかった中での奇跡だった。

 当の本人は、失礼な敵デシとプリプリしながら落ちた魔石(小)を拾っている。そしてサイズが大きいのを知って、嬉しそうに護人に見せびらかす仕草。


 この辺はまだ子供で、実際に生まれてまだ5年も経っていない軟体幼児である。その割には後衛としての実力は秀でているし、このまま前衛デビューしたら万能選手である。

 とは言え、オートマタ鎧の歩みはヨチヨチって感じで、迫力に関してはまるでない。さっきの大ウツボ戦も、恐らくはオートマタの性能が凄かったのだろう。


 そう考えると、それをもらせておくのは少々勿体もったい無い気もして来る。まぁ、護人としては世話焼きが大変なので、肩の上に留まってくれている方が幾分かマシ。

 その気持ちを知らず、ムームーちゃんはご機嫌に崖沿いを歩くのだった。




 ちなみに、この層では人の顔サイズのブイが壁に引っ掛かって浮いているのを発見した。漁業用の品だろうが、他にも色々と絡まって宝物もチラホラ。

 例えば釣り道具だとか救命胴衣だとか、新品っぽいのでそれなりに値打ちはありそう。絡まっていたタコ壷のような壺の中からは、魔玉(水)やリングが10個回収出来た。


 この臨時収入に喜びつつ、この層も無事に踏破は終了の運びに。順調な道のりではあるが、目的地は30層以降なのでこんな所で苦戦してもいられない。

 そんな訳で、いつものように渓谷の突き当りにゲートを発見して階層渡りを決め込む一同。出た先の29層も、深海模様で薄暗い渓谷エリアだった。


 そんな29層も、ムームーちゃんは待ち伏せの敵の撲滅をすると言ってきかない。当然の如く、妖精ちゃんとヒバリのペアも、右側の壁沿いに沿って練り歩く模様。

 仕方なしに、後衛陣はそれぞれ保護者として両者に張り付いての探索を続ける事に。軟体幼児には護人がついて、仔グリフォンの方には紗良と香多奈が目をかけておく流れに。


 ルルンバちゃんに至っては、後衛全体を護衛しながら前衛陣のフォローもこなすと言う高難度ミッション発動中。大変そうだが、《並列思考》を練習するには丁度良いかも。

 そうしてその内に、2体同時操作が叶うようになれば万々歳である。訓練でも猛練習中のAIロボは、真面目なだけあって習得能力も高い気がする。

 きっとその内、来栖家チームに魔導ゴーレム2台同時運用が適う筈。


「本当にもうっ、ウチは我がままな子が多くて困っちゃうよねっ。萌とルルンバちゃん位のモノだよ、私の言う事を素直にちゃんと聞いてくれる子はっ!

 コロ助なんて、私の護衛犬なのに私をからかって遊んでるんだから!」

「そっ、それは良くないねぇ……まぁ、裏返せばそれも愛情表現だよ、きっと。それよりヒバリちゃんも、何とか戦闘に慣れて来た気がするよねぇ。

 《巨大化》は上手く使いこなせないけど、さすが肉食獣って感じだよね」


 そんな事を話し合う紗良と香多奈は、ヒバリの戦闘風景を既に何度も確認済み。妖精ちゃんの操る兎の戦闘ドールは確かに強いが、ヒバリのくちばしと前脚の攻撃もあなどれない威力。

 さすが肉食獣と紗良は評すけど、そもそもグリフォンは幻獣扱いである。わしと獅子のキメラで、そう言われると強いのも納得出来ると言うモノ。


 対するムームーちゃんだが、こちらも水属性のオートマタ鎧の性能をフルに引き出し始めていた。そのセンスは、やはり同じ水属性の為せるわざなのか、適応速度が半端ない。

 鎧に仕込まれたギミックも普通に扱い始めて、今では戦闘も軽くこなし始める始末。アメフラシ程度では、もはや相手にならない貫禄もかもし出し始めている。


 これには、見ている護人も複雑な心境……子の親離れが、嬉しいやら悲しいやらで何とも言えぬ気持ちで見守る始末。とは言え、見守られる軟体幼児は飽くまで無邪気。

 これで父ちゃんが背後にいなければ、こんな戦闘は真っ先に放棄してしまうだろう。スライム幼児にとって、見て貰う事に価値があるので経験値稼ぎなど二のつぎ程度のモノ。


 その頃の前衛陣だが、こちらも順調で出て来る敵を蹴散らして距離を稼いでいた。相変わらず道は良くないが、姫香の指示で渓谷の中央を敢えて選んで進んでいる。

 こうすれば、前衛陣は真横からの不意打ちは受けなくて済むって寸法だ。この水エリアは、真上からの不意打ちも気をつけなければならないので、意外と神経を使うのだ。


「それにしても、弱っちい敵とは言え待ち伏せモンスターを後衛が始末して回るとはねぇ。変な探索になっちゃったけど、チビたちが経験値を稼げるならいいかな。

 そんな訳でハスキー達、両サイドの壁の敵は見付けても無視して進んじゃおう」


 そんな姫香の言葉に、まぁチーム内でも経験値の譲り合いは大事だよねって表情のハスキー達である。そして後衛のおチビたちに、強くなれよって視線を送っている。

 チームとしては、そんな感じで成長を続けて行くのが正しい選択肢には違いない。姫香は護人さんも大変だなぁと、取り敢えず前衛で出来る事は全て処理する予定。


 この層から、マーマンに混じってタツノオトシゴ的なモンスターも出現して来た。馬扱いなのか、手綱がついていて跳ね回る様はまさに暴れ馬であった。

 そんな連中も、全て何事もなくハスキー達が始末してくれて問題は無し。茶々丸が小癪こしゃくな奴らめと反応していたが、萌が上手く操ってくれていた。


 そう言う意味では、この仔竜も少しずつ成長はして行ってるようだ。姫香としても、ずっとヤン茶々丸ばかりに構っていられないので大助かり。

 そうやって進んで行った29層の、そろそろ終点近くで新たなイベントが待っていた。それを見付けたのはツグミで、待ち伏せの敵ではなく宝箱の発見で良い知らせである。


 それは壁の隙間に突っ込まれたように置かれていて、周囲に敵影は無いみたい。やったねと喜ぶ姫香は、萌に手伝って貰いながらそれを亀裂から引っこ抜く。

 そうしている内に後衛陣も近付いて来て、宝箱の発見を一緒に喜んでいる。その中身だが、薬品類や魔石(小)が8個にスキル書が1枚とまずまず。


 他にも強化の巻物やブローチ類が割とたくさん、素材は貝や珊瑚だが魔法の品も混じっているかも。それから定番の、食用の貝類がゴロゴロと底の方に置かれていた。

 肝心のアビスリングとコインも、何枚ずつか入っていてまずは良かった。


「やった、これでコインは20枚になったよっ! リングの方は30枚くらいかな、さっき見たらリング2枚でコインが1枚の価値は変って無かったからね。

 宝珠は無理だけど、魔法の鞄くらいは交換出来そうっ」

「10層行かずして、まずまずの回収率だね……岩国チームもこれくらい回収出来てれば、念願の『ワープ装置』は交換可能かもね。

 何しろ向こうは、4チームで潜ってるもんね」

「そうだねぇ、今回でゲット出来たらそれが1番いいよねぇ」


 ずっと居座られずに済むもんねと、末妹が辛辣しんらつに図星をついて来る。来客の多い来栖家だが、さすがに4チームも居座られたら大変には違いない。

 そこは温和な長女も、違うでしょとは言えない複雑な問題なよう。とにかく敷地内の安寧あんねいに繋がるので、岩国チームには踏ん張って貰いたい所である。

 ちなみにその問題には、敢えて護人もノーコメントの模様。





 ――大人って意気地なしと、香多奈がそれを見て思ったかは不明である。






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