第847話 キッズ達が“沼地ダンジョン”の中ボスを突破する件
ここまで割と順調な、キッズチームの探索はそろそろ中ボスの間が見えて来た。ここを乗り越えたらお昼だよとの、保護者の声掛けに意気も高いキッズ達である。
そして10分余りのエリア捜索に、やっとこさ見つけたのは沼地の中央の浮き島みたいなエリアだった。5メートル四方と広く見えるけど、果たして派手な戦闘に耐えられるかは不明。
そこに君臨しているのは、恐らく中ボスのカエル男とお付きのヤモリ獣人が3匹だった。カエル男は苔だか藻だかの固まったような衣装を着ていて、何となく
それでも仮にも中ボスなのは間違いない、何しろ背後には次の層への階段と宝箱が置いてあるのだ。残念ながら帰還用の魔方陣は無いようで、帰りが歩きなのは確定だ。
それはまぁ良いとして、さて作戦を練ろうとキッズ達は集まって話し合う。前衛が突っ込むのは確定だが、後衛は浮き島に乗らない方が良さげ。
そもそも、そこまで広くない場所にすし詰め状態は
「それじゃあ……
「分かった、頑張るっ!」
「それじゃあ行こうか……お腹空いたし、さっさと終わらせてお昼食べよう」
クールな龍星の言葉に、やや緊張した顔付きでの久遠の頷き。龍星は年下で、キャリアや年齢は久遠の方が上である。それでも度胸は、双子の方があるみたい。
その辺は、今後の成長に期待と言うか、何度も成功体験を繰り返せば解消して行く筈。そんな訳で、キッズ達の中ボス戦のスタートである。
目潰し頑張ってと言われた遼は、闇魔法で雑魚達の視界を
それにタイミングを合わせて、龍星の『辣腕』スキル込みの『伸縮棒』が敵の脳天に見舞われる。あっという間に数を減らす敵、久遠も前衛に出て敵のタゲ取りを頑張る。
そんな感じで、結局は中ボスのカエル男も龍星が倒してしまった。久遠はヤモリ獣人1匹のみで、盾役の動きが抜け切れていない感じ。
後衛の女性陣からも、もっと積極的に行かなきゃと容赦ないアドバイスが飛んで来る。それを
やはり、桃井姉弟をスカウトして来た彼女としては、姉弟の性格もしっかり把握しているようだ。服従根性というか、
積極的に行動出来ないのは、そんな過去を振り払えないからに他ならない。食事の用意をしながら、土屋女史は心からこの姉弟に信頼のおけるチームの出現を願う。
今更ながら思うが、保護者って本当に大変。
そんな感じで、沼のほとりで賑やかな昼食を終えた一行である。紗良姉のお握りは相変わらず美味しいねぇと、陽菜やみっちゃんもご機嫌で食が進んでいた。
年少組も同じく、動いた分お腹も空いていたようで物凄い食欲を発揮していた。そんな感じの昼食も終わり、いざ6層へ出発である。
この工程は、普通の低ランクチームではまず有り得ない無謀なスケジュールだ。まぁ、同伴している保護者達がスパルタなために、毎回こんな感じなのは致し方がない。
これで一気にC級ランクに昇格すれば、いっぱしの探索者として扱われる。普通のチームだと1年は掛かる道のりだが、背後にいる保護者連中は超せっかちみたい。
世間からの認定とそれに見合う実力を、一気につけさせようとの目論見は傍目から見てもスパルタである。ただまぁ、当人たちはさほど気にせず探索を行っている。
遼などは特に何も考えておらず、最年少にも関わらず超元気。それに引っ張られるように、桃井姉弟も6層の探索に気合いを入れて臨む素振り。
ところでそんな6層だけど、沼地の周辺が妙な具合に構成されて一行は戸惑っていた。沼に浮かぶ飛び地は幾つか散見するのだが、そこに至るルートが色とりどりで面白い。
例えば
たまに大きなハスの葉が浮かんでいたり、廃棄物の山が出来上がって障害物になっていたり。ちょっとしたアスレチックエリアに、思い切り戸惑う子供たち。
特に運動神経があまり良くない
「えっと、アッチに大回りするより沼の真ん中を突っ切った方が速いのかな? あっ、お宝っぽい発泡スチロール容器が置かれてる、アレは回収したいね」
「本当だ、敵の待ち伏せはまぁ定番として頭に入れておこうか、龍星。取り敢えず2人が先行して、真ん中の浮き島まで進んでみて頂戴。
久遠お兄ちゃんも頑張って、鎧を着てて重いかもだけど」
「大丈夫、顔色が良くないよ、茜お姉ちゃん……手を繋いであげるから、僕らはゆっくり進んで行こう?」
ジェントルマンの遼は、年上の女性に対する気遣いも良く出来ている。前衛を任された久遠も、自分に与えられた使命を全うすべく蔦の橋を進み始める。
後ろの後衛陣も気掛かりだが、天馬の言う通りに待ち伏せモンスターの襲撃もとっても気掛かり。先頭を進む龍星が、沼を指差して気配を知らせてくれるのが有り難い。
そんなキッズチームの遣り取りを、後ろから眺めている保護者達も気が気ではない。特に6層からのエリア構成を見て、難易度が上がったなとは全員の意見が一致。
進むだけでも神経を削られるのに、ここに敵の襲撃が加わると新米チームは大変である。対処を一歩間違えると、沼ポチャから溺死まであり得るかも。
姫香は念の為に、沼に誰かが落ちたらサポートお願いと相棒のツグミにお願いする。忍犬ツグミなら、そんな要望を叶えるのもお手の物である。
そんなやり取りを含みながら、キッズ達は6層最初の戦闘を始めていた。敵は大蛙と大オタマジャクシの親子コンビで、数は割と大量に見える。
それらを盾でブロックして、剣を振るう久遠は不安定な吊り橋で割とへっぴり腰。それをフォローすべく、双子がスキルを使って敵の数減らしを行っている。
後衛の2人も、水の中の見えにくい敵の殲滅を何とかお手伝い。その戦闘は数分続いたけど、何とかキッズ達に犠牲者も出ずに終了した。
そして悲劇が、たくさん倒した敵のドロップ品が1個も拾えないと言う。
「ああっ、勿体無い……でもまぁ仕方無いか。ドロップ品の魔石を、沼に拾いに潜る訳には行かないもんね」
「10匹以上やっつけたんだけどな、残念っ。あっ、遼君なら闇魔法で水に沈んだ魔石を回収出来ないかな? どんな、遼君?」
「う~ん、無理かも……ツグミなら簡単に出来ると思うけど」
勿体無いねを繰り返すキッズ達に、保護者の方からの助け舟が。と言うより、ツグミが進み出てあっさりと沼に沈んだ魔石やドロップ品を回収してくれたのだ。
やったと喜ぶ現金な子供たち……まぁ、これ位の手助けはねと、保護者達の視線も満更では無さげ。そしてようやく、一行は最初の大きな浮き島へと到着を果たした。
そこで襲い掛かって来たネズミ獣人の群れを倒し、双子が気にしていた発泡スチロールを回収。中には保冷剤と共に、ポーション類や木の実や魔玉(氷)のセットが。
ちなみに、中ボス部屋の宝箱からも似たような品が回収出来て黒字は確定である。もっとも、素材系が大半で魔法アイテムが混じっているかは微妙なライン。
大儲けするには、魔法アイテム系の装備品やスキル書やオーブ珠、この辺のラインがマストである。貴金属も悪くはないが、換金するのに苦労するのでやや微妙。
当然ながら、魔石や魔結晶はランクアップの査定にも響くので一番有り難い。それを拾ってくれたツグミは、キッズ達からしたら救いの神様に他ならず。
小柄なネズミ獣人の群れは、各所で出現して一行の前に立ちはだかって来た。それから大カエルと大オタマのペアも、吊り橋などの不安定な箇所で待ち伏せている。
とは言え、そんなパターンを1度覚えれば怖さも半減すると言うモノ。その後はソツなく、アスレのような沼地エリアを踏破して行くキッズ達であった。
やや時間は掛かって、1層を40分以上掛かったのはまぁ仕方がない。それでも10層をクリアするのに、4時間も掛からない計算である。
夕方過ぎには家に帰れるし、魔石の集まりも上々で問題無し。欲を言えばもう少し宝箱に巡り合いたいが、中ボスを2体も撃破すれば文句はない。
そんな事を考える茜は、チームのリーダー役を割と重く受け止めていた。何しろ子供ばかりの集まりである、チームを締める役割の者はしっかりせねば。
今はまだ、保護者同伴で色々と考える余裕もあるのでその点は問題は無い。ただし、今後の活動を考えると責任はとっても重いし大変だ。
とか思っていたら、突き当たりの浮き島に次の層への階段を発見。6層からは敵の密度も上がって来て、進むのも割と時間が掛かってしまった。
とは言え慎重な性格の茜は、この位のペースで丁度良いと思ってしまう。後ろを振り返って確認するも、保護者連中のお姉さん方は特にペースを上げろとは言って来ない。
「みんないい調子だよ、あと4層このペースで頑張ろうっ! 前衛陣は、敵との戦闘で無理し過ぎないでねっ」
「この位ならまだ大丈夫だよ、姉さんっ。龍星君との連携も、段々取れて来たからね。この調子で行けば、数の多い雑魚の討伐はパターンが練れて来そうだね」
「ああ、そう言う意味じゃ確かに悪くないね……自警団のオッちゃん達と探索するより、ずっと戦闘が楽しいよ。
まぁ、俺と天馬のコンビには劣るけど、本当に悪くないよ」
そうだねと天馬も同意して、揃って階段を降りて7層へ。ここも先程と同じく、浮き島と吊り橋の沼地エリアが広がっていた。
ざっと見渡した感じ、ちゃんと奥へと続くルートは繋がっているようだ。それを確認してホッとする茜と、
今回の宝箱は、ドラム缶の形をしていた……と言うか、どこから見ても山間に放置されたドラム缶である。しかし遼は、その中にきっとお宝が入っていると言って譲らない。
その手の子供の言い分は、末妹の香多奈ですっかり慣れっこの姫香である。確認しておいでと、勢い良くキッズチームを送り出して自分達は見守る態勢。
「遼君って、ちょっと不思議ちゃんっスね……その点は、確かに香多奈ちゃんに似てなくもない感じっスか?」
「茜の性格は、どことなく紗良姉に似てるかな……真面目で慎重で、チームの縁の下になろうって感じとか。
ただまぁ、運動音痴な所まで似なくてもいいのにな?」
「ああっ、言われてみれば確かにそんな感じもするね。それじゃあ久遠は、護人さんかな……まぁ、煮え切らない所とか才能あるのに使い切れない所とかは似てるかも?」
そんな勝手な話で盛り上がる保護者チームは、相変わらず呑気に距離を空けて見守りモード。キッズ達は、この7層も頑張って攻略を続けている。
ツグミに関しては、水の中に落ちた魔石はしっかり回収してあげている。暇過ぎるのも考え物だ、その位しかやる事が無いのでツグミはすっかりその役目に没頭している。
ただまぁ、危ないシーンで助けに入る役目は今の所は回って来ていない。
――その点に関しては、及第点のキッズチームなのであった。
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