第537話 7月最初の探索に家族会議で盛り上がる件
さて、山口方面の遠征や7月の青空市を無事にやり過ごした来栖家であるけど。気がつけば、手を付け損ねていた案件が家の中に幾つも転がっていて。
その言い回しは正確では無いけど、香多奈にとっては放置されているのは罪な事に他ならない。そう力説する少女に、家族の面々も多少気まずい思いに。
それはそうだろう、忙しかったとは言え普通は大人の方が計画立てて物事を始末しなさいと言う立場である。それを小学生の末妹に突かれるとは、立場が逆転してしまっている。
そんな香多奈が特に力説したのは、2枚に増えた宝の地図の件である。その1枚は“アビス”なので、ワープ装置を使えば家から直行で向かう事が可能だ。
そう口にした末妹は、既に週末に向かう場所のリストアップに余念がない。それからもちろん、鬼との盟約による報酬もしっかりと貰わないと。
鬼の深夜の訪問によって、そちらは既に用意がなされているとは教えられている。ただしそれを手にするには、“ダンジョン内ダンジョン”を探索しなければならないのがネックだろうか。
それならば、妖精ちゃんからの報酬を先に貰うのも悪くは無いかも知れない。
そんな感じで、本当にたくさんやる事があって嬉しい悲鳴が止まらない香多奈である。遠征から戻ったばかりで、もう少しで夏休みだからペースを落とそうと
先週は青空市への参加で探索には行けてなかったから、今週末は絶対に行くのだと。ミケを抱きかかえながら熱烈な交渉を行う末妹であった。
その勢いに、姫香からも助け船と言うか追加のアイデアが。
「そう言えば、ルルンバちゃんのメンテもそろそろ行かなきゃじゃなかったっけ、護人さん?
他にも、親方に見せれば使い方の分かる素材やパーツが出て来るかもね?」
「ああ、異界の集落か……確かにそろそろ、メンテに行かなきゃな時期だな。ルルンバちゃんも、ウチの過酷な労働環境に耐えてくれてるんだし。
探索でもそうだし、家の中でも働いてくれてるもんな」
その話題の当人だが、現在はご機嫌にリビングのお掃除中と言う。さっきまでミケが乗っかっていて、得も言われぬ重圧を真上から感じていたみたいだが。
そのニャンコを末妹が掻っ
そして話の流れも、全員が何となく異界の集落に出向く事に同意し始めて。そう言えば呪いの装備系もあったよねと、姫香が荷物係の長女へと問い掛ける。
最近《浄化》スキルを覚えた紗良は、その効果を試そうとの妹達の提案に従って。『鎖に巻かれた拘束具』と『呪いの兎人形』の両方に、その魔法を試してみたのだったが。
生憎とその試みは失敗と言うか、残念ながら呪い解除とはいかなかった。その理由が、紗良のスキルの未熟さなのか、2つのドロップ品の呪いの強さなのかは定かではない。
子供達も、この実験の失敗に多少の落胆はしたモノの。どうせ使う予定の無い、
翌日には、綺麗サッパリ忘れてしまっていたりして。
「アレの解除方法とかも親方だったら知ってるかもしれないね……あっ、それから初回の使用で壊れた『魔法の飛行ランプ』も修理して貰わなきゃ!
毎回、魔法の玉を使うのも効率悪いもんねぇ」
「そうだったね、親方は日本酒が好きだからお土産に持って行ってあげないとね。明らかに機嫌が良くなるから、依頼も受けて貰いやすくなるんだよねぇ」
そんな小ズルい台詞を漏らす紗良だけど、世渡り上手とも言い換えれる訳で。護人がそれじゃあ、明日の計画はそれにしようかと口にすると。
張り切って、明日の準備を始める子供達。持って行く荷物を整理したり、向こうで売れそうな品を分けて準備したり。お金代わりの魔石も用意して、これで前準備は完璧みたい。
ついでに異世界チームにも、明日集落に行くけどどうするかと訊ねてみた所。それじゃあズブガジのメンテに、一緒に行こうと言う話に落ち着いた模様で。
かくして、週末の予定はバッチリと決定したのだった。
開けて翌日の土曜日、朝の毎度の家畜の世話を終えて朝食も食べ終わって。家族でのんびりしていると、ザジが元気に家へと突入して来た。
ぼちぼち準備を始めていた一行は、探索着を着込んで縁側で待機していた異世界チームと合流。もちろんハスキー達&茶々丸も、張り切って集合している。
香多奈が異世界チームに向けて、ハーイと元気に挨拶を飛ばすと。ズブガジが率先して、手を上げての元気な挨拶返し。それにビックリしている、同じチームの面々と言う。
正直、魔導ゴーレムがこんな快活になるなんて思っていなかったのだろう。長年の付き合いのムッターシャも、相棒にこんな一面があったなどとはつゆ知らず。
ルルンバちゃんとの意外な仲の良さも相まって、最近はズブガジも楽しそう。逆に他の面々は、のんびりした異界での生活に馴染み過ぎて困っている感も。
今まで
チームでやっているのはその程度で、後はまぁ夕方の訓練に参加する程度か。山口方面の遠征参加も、地元の協会がA級探索者認定をしてくれるから参加した感じ。
今後もそんな感じで、積極的に探索者活動は増えて行く可能性もあるけれど。食事もお隣の美登利か、年下の小鳩が作ってくれるし恵まれ過ぎた環境である。
とは言え、そろそろ“喰らうモノ”の討伐計画も近付いて来ているし。そろそろ緊張のネジを引き締めようと、チームでも話し合ってたいる所だったり。
ズブガジのメンテも、言ってみればその一環でもある訳だ。
「それじゃあ、みんな準備は出来たかな……親方へのお土産も持ったし、それじゃあ出発しようか。お隣さんには、お出掛けするって伝言はしてあるのかい、香多奈?」
「うん、大丈夫だよ……植松の爺婆にも言ってあるし、紗良お姉ちゃんのお弁当もちゃんと鞄に入れたからねっ。
向こうの食堂に寄れないかもだし、準備はバッチリだよっ!」
「ハスキー達もいるし、絶対無駄にはなんないのが良いよね……それじゃあ行こうか、ザジ。そっちも準備はオッケーかな、今日は宜しくね!」
「バッチリだニャ、それじゃあ出発するニャ!」
そんな訳で、まるで戦いに赴くような勢いで庭先から出発する2チームであった。ハスキー達は行き先を完全に把握しており、“鼠ダンジョン”へと先陣切って進んで行く。
その後に続くルルンバちゃんとズブガジは、仲睦まじく並んでの行進。異世界チームは、もう少しダンジョンに潜ってお金代わりの魔石を集めないとと愚痴っている。
山口遠征で稼いだ魔石は、どうやら協会に言われるまま全てこちらのお金に換えてしまったらしい異世界チームである。
向こうで少し稼ぐかなと、ムッターシャはダンジョン探索に緊張の類いは全く無い模様。さすがベテランの凄腕である、金を稼ぐために漁に出るみたいな感覚なのかも。
メンバー達も同意しているし、向こうで儲かるダンジョンに当てもあるらしい。そんな訳で、一緒に行くのは親方の鍜治場までとなるっぽい。
その後は、お互い自由行動と言う流れだろうか。
それでも同行者の存在は心強くて、道中は何とも和気
それでもお互いのチームリーダーは達観した表情で、特に注意をする事も無し。出て来る敵はほとんどおらず、いてもハスキー達が始末してくれている。
それ以上にあり余る戦力を抱えているので、小言を言う程でも無い。そして4層まで無事に降り立って、いざダンジョン内に出現したゲートの前へ。
そしてリリアラの接続チェックの後に、2チーム揃ってゲートを潜って行くと。すっかり馴染みとなってしまった、異界の集落の景色が目の前に。
そこは変わらず
何しろ異界の隠れ里なのだ、あまり知る者が増えると色々と不都合が。
そんな事は関係ないと、まずは親方の鍜治場を目指す来栖家チームと異世界チーム。熱烈歓迎されたのは、以前からの根回しの結果だろう。
今回も差し出した酒瓶とおつまみに、喜色満面の親方である。最初の仏頂面は見る影もなく、呆れた様子のムッターシャではあるけれど。
紗良は内心で、してやったりのガッツポーズ……そして親方の弟子たちにも、心配りの贈り物を忘れない。ルルンバちゃん関連で、どうせ長い付き合いになるのだ。
ここでケチっても仕方が無いし、先行投資は人心把握の基本でもある。かくして、人見知りの癖に紗良の人気は異界の集落でも爆上がりするのであった。
そんな事はさて置いて、まずは職人たちによってズブガジのメンテが開始された。何しろルルンバちゃん案件は、色々あって時間が掛かりそうなので。
弟子たちにメンテ作業を任せて、ドワーフ親方は来客たちと楽しくお喋りモード。特に香多奈との2ショットは、お爺ちゃんと孫みたいで微笑ましい。
しかし、その孫からのお願いは決して可愛げのある内容では無く。ルルンバちゃんを地上最強兵器にしてとか、呪いの装備を使えるようにしてとか。
それでも親方は、来栖家チームが持参したレア素材に全て目を通して。なるべくそちらの意に沿うように、魔導ゴーレムの改造を頑張ってみようと言ってくれた。
それを喜ぶ香多奈は、果たして無邪気なのかどうかは不明。
「呪いの装備に関しては、ワシにはどうし様も無いがな……ウチの工房にも、冒険者から回って来たアイテムが1つあるんじゃが。
この隠れ集落の近くに、浄化の泉の湧くダンジョンがあるのは分かっておるんじゃがな。何ならワシの依頼で、お前さんらがそこに潜ってくれんかね?
そうすりゃ、待ち時間も有効に使えるじゃろ」
「へえっ、そんなダンジョンがこの集落の近くにあるんだ……幸い、探索の準備はして来てるし受けても良いんじゃないかな、護人さんっ?
もちろんその分の依頼料も貰えるんだよね、親方?」
ちゃっかりと依頼の形式を主張する、こちらは人見知りなど全くしない姫香である。親方はもちろんじゃと、弟子の1人に物置から呪いの装備を持って来させて。
それは確かに、禍々しい形状をした長剣だった。性能自体は良いそうで、呪い解除したらさぞかし高く売れるだろうとの親方の言葉。
もっとも、この工房としては換金するよりも、手本として弟子たちに使わせたいみたいで。上等のお手本は、武具の造り手としてもとっても大事なのだそう。
それなら受けてあげなきゃと、香多奈もその話には大いに乗り気。護人としては、メンテ&改造にルルンバちゃんを置いて行くのがとっても気掛かりではある。
何しろ彼を置いて行く事で、後衛の護衛役が1台減ってしまうのだ。いつもの調子での探索において、これはかなりのハンデである。
もっとも、ルルンバちゃん本人はメンテの機体パーツを隔離して、自身は本体のみでついて行く気満々である。その場合、スキルは使えるけど魔導ゴーレム機体の『波動砲』その他は使えないと言う縛りが。
何しろ今回は、飛行ドローン機体も改造のために置いて行く予定なのだ。
それはかなり不利だと口にする護人に、ドワーフ親方はしばし考え込んで。それじゃあ工房に置いてある、魔導ゴーレム機体を貸し出そうと提案してくれる。
もっともそれは、エネルギー供給機関が故障していて動かない機体なのだそう。それでもルルンバちゃんの《合体》スキルなら、何とか制御は可能だと太鼓判を押してくれ。
そんなこんなで、今から異界のダンジョンへと突入する流れになってしまいそう。その運命に観念する護人だったが、弟子が再び運んで来た機体を目にして顎が外れそうに。
それはほぼ球体で、香多奈でも両手で抱えられそうな大きさしか無かった。戦闘力は皆無だろうが、魔銃を装備すれば何とかなるのだろうか。
その機体の移動方法だが、どうやら両サイドに球形の開閉口を備えていて。それをバカっと開けて、羽根のように使って飛び跳ねながら進むようだ。
そのイメージを伝えるなら、某ロボットアニメに出て来るハ〇のような。と言うか、目の位置とか色々踏まえて、それ以外には見えないと言う。
そのテレビアニメを観た事がある、紗良や姫香は可愛いねと喜んでいるけど。戦闘能力に関しては、やっぱり元から付随する能力は皆無のようだ。
さて、この親方の好意を護人も喜んで受け入れるべき?
――それとも、こんなネタには乗っかれないと怒るのはちょっと違う?
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