第497話 普段の感謝の意を込めて川辺キャンプを計画する件



 この1週間は、護人も家の仕事以外で色々と忙しく動き回る事に。自治会で町内の草刈り行事があったり、自治集会っぽい会議をこなしたり。

 それから“車庫ダンジョン”で回収したカー用品を、早川モータースに持ち込んで売り払ったり。色々と考えたが、回収品はやはり地元で消費が一番望ましい。


 そんな訳で、タイヤのホイールキャップやらタイヤや塗装スプレー、ハンドルや工具類を安値で譲る事に。液体燃料も同じく、熊爺が欲しいと言うので安値で譲って終了の運びに。

 大した量では無かったけど、喜ばれて何よりである。


 他にも香多奈の小学校の行事の手伝いとか、諸々の行事がその週に詰まっており。まぁ、小学校での香多奈や、ついでに和香と穂積の過ごし方を見られたのは良かった。

 3人とも活き活きとしていて、学校生活を満喫している様子で。コロ助と萌は退屈そうだったが、それは仕方が無いと割り切って貰いたい。


 それから夕方の厩舎裏の特訓だが、こちらも盛り上がっていた。ムッターシャはどうやら本気で星羅と土屋と柊木を、4番目のチームとして鍛え上げようとしているようで。

 教え方にも熱が入っていて、それが年少組にも伝播でんぱしている感じが。そして新しいスキル《剣姫召喚》を取得した姫香だが、やはりスキル発動の取っ掛かりに苦労している様子。


 香多奈もそうだったけど、召喚系のスキルってそんな簡単なモノでは無いみたい。ブツブツ文句を言いながら、それでも何とか扱えるように熱心に訓練する姫香だけど。

 その苦労が報われるのは、もう少し先な雰囲気が。


 そして訓練とは関係無いけど、回収品の中から魔法アイテムのエンブレムがあったのを思い出した末妹の香多奈。それをルルンバちゃんの機体につけてあげようと、そんな感じでの軽い提案で。

 『勇猛のエンブレム』は、かくして呆気なく所有者を得る形に。勇猛がアップする効果があるのだが、あまりルルンバちゃんには関係ない気も。


 それでも格好良いエンブレムを機体に貼って貰えた彼は、とっても嬉しそうで超ご機嫌である。後は物騒な魔法アイテム『釣り鐘型の装置』の処遇と言うか性能なのだが。

 何と言うか、作動していた状況からも分かるように、コイツはモンスター召喚の能力を秘めているそうな。ところが召喚されたモンスターは、召喚主に従順な訳では無いそうで。


 要するに、スパーリングパートナーが欲しい際に、この装置に魔石を投入して相手をして貰えと。そんな物騒な装置、来栖家的には手に余る品でしかない。

 手軽に経験値を入手可能とか、良い点を探そうにも。そもそも来栖家の敷地内には、バリバリ稼働しているダンジョンが2つもあるのだ。

 “裏庭ダンジョン”のみ、辛うじて休止させる事が出来ているけど。


「それじゃあ、勿体無いけどこれも封印アイテム行きかな、護人さん? 変な所に売って、不味い事態になっても嫌だもんね。

 それにしても、こんな怖い装置もドロップするんだねぇ」

「本当にダンジョンは洒落が効き過ぎて、逆に洒落にならないな。まぁとにかく、香多奈の手の届かない所にしまっておいてくれ、姫香。

 またいつか、何かの役に立つ事もあるかも知れないし」


 そんな時が来るのかなぁと、疑問符かいっぱいの姫香の返しだけれど。護人だって、それがどんな時なのかなんて分かりはしないと言う。

 とにかくそんな感じで、諸々の仕分けやら計画が6月の間につむがれて行く。そして来栖家が発案した川辺の日帰りキャンプも、どんとん参加者が増えて行って。


 お隣さんの大人から子供まではもちろん、協会の能見さんや林田妹も今年も参加するとの事。前年度と同じ場所なのだが、今回は凛香チームや異世界チームや江川夫婦も参加するそうで。

 ついでにゼミ生チームや星羅と同居チームも、お邪魔じゃ無ければ行きたいと言い出して。かなりの大所帯になるけど、まぁそこは何とかなりそう。


 来栖家にもキャンピングカーの他にバンが1台あるし、凛香チームもキャンピングカーを持ってるし。協会からも1台借りれそうで、移動手段は何とかなりそう。

 そもそもこの行楽計画は、春の田植えのお手伝いのねぎらいの側面が強い。それから、いつもお世話になっている協会の職員さんへのお礼とか。

 なので、基本的にお断りは無しの方向なのだが。


 まさかこんなに参加者が増えるとは、声を掛け始めた時には思いもしていなかった。ホスト役の来栖家としては、特に食事を用意する紗良としては悩ましい所だけれど。

 基本はバーベキューでまかなうので、何とか乗り切れそうかなって所である。姫香やお隣さんの小鳩や美登利も、お手伝いには名乗りを上げてくれてるので。


 とにかく後は、道中の安全運転と天候が持ってくれるかどうかって心配のみ。天候に関しては、6月に入って気温もどんどん上昇してくれているので。

 川遊びをするのに、全く心配は無さそうで何よりである。いざとなったら香多奈と妖精ちゃんで、晴天にしなさいよとの姫香のお達しには。

 頑張るよと、何とも前のめりな末妹の返答だったり。


「天候に関しては、まぁ冗談として……ワイバーン肉とかゲットしに、ダンジョンに行かなくて大丈夫かな、護人さん?

 私とハスキー達で、ワープ装置を利用して行って来ても良いんだよ?」

「そんな怖い事、さらっと提案して来ないでくれ、姫香。ちゃんと精肉店で買い込んだお肉があるし、ワイバーン肉も空間収納に幾らかストックがあるから。

 確か芋虫肉と一緒に、在庫が残っていた筈だよな、紗良?」

「ええ、全員分って訳には行かないけど、それなりに残ってますね。お肉も牛肉と鶏肉を中心に、かなり買い込みましたから平気な筈です。

 野菜もハウスで早めに収穫した夏野菜とか、結構持ち出す予定ですから」


 つまりは紗良のお持て成し計画は、彼女の頭の中ではほぼ完璧に仕上がっている模様。頼もしいブレーン役に、護人もホッと安堵のため息。

 お酒に関しては、協会の仁志支部長やら土屋や柊木からかなりの量を差し入れして貰っていた。土屋も柊木も、あれで割と高給取りみたいでお金を使う時は容赦がない。


 特に趣味の分野に関しては、土屋女史のこだわりは強いようで。山の上の“我が家”のDIYでは、金も時間もつぎ込んで住みやすい拠点に改築していったようだ。

 何しろ自治会案件の麓の春からの改築ラッシュで、大工さんがなかなか捕まらない事態が続いて。それなら自分達でやってやろうと、土屋女史の闘志に火がついて。


 工具から材料まで、全て自費で買い込んでの自宅の改築に。何しろ時間はたっぷりあるのだ、そして柊木と星羅も助手の立場で施工を頑張って。

 今やお隣さんの4軒目は、どの部屋も立派に居心地よく改築されている次第である。その手先の器用さは、山の上ではかなり有名になって。

 お隣さんからも、本棚や机を作ってとの依頼が殺到する事に。


 そして柊木の理髪店と一緒に、手に職のついてしまった協会職員の2人であった。何にしろ、星羅と共に山の上で居場所を見付けられて良かった。

 ストレスフリーの暮らしぶりは、新メンバー達も性に合っているようで自由に日々を過ごしている。子供達の面倒を見たり、一緒に授業を受けたり。


 訓練に参加したり夕食のおかずを分け合ったりと、お隣さん達とも快適な関係を築いて行って。当初の仕事の筈の、異世界チームや“聖女”の監視役など完全に忘れ去っている次第。

 まぁ、それでも毎月それなりの給料が振り込まれているのだから良いのだろう。異世界チームは異界から来た賓客には違いないし、確かに誰かは張り付いているべきだ。


 行方不明扱いの“聖女”星羅についても、同様に腐らせていくには余りに勿体無い人材である。仮にも広島にも数少ないA級ランク、再利用との言葉は言い過ぎだけど。

 何とか社会復帰の手助けをとの指令も、協会本部からは頂いており。その道のりも、来栖家の協力を得て順調に進んでいる感じである。

 とは言え、まさか前衛に転職するとは思っていなかったけど。


 その星羅の前衛デビューだけど、既に何度か探索をこなして順調そのもの。チームとしては割と即席で、異世界チームに顧問として入って貰ったり。

 土屋と柊木も含めて、熊爺の家の双子と組んで軽く地元のダンジョンに潜ってみたり。星羅の前衛能力に関しては、まだまだ前衛スキル持ちの探索者には及ばないけれど。


 少しずつこなれて来ているのも確かで、先生役のムッターシャやザジの教えが余程良いのだろう。スキルの多さも相まって、将来は本当に唯一無二の探索者になるかも知れない。

 そんな事を考えながら、柊木は毎週末の本部への提出レポートを書き上げるのだった。仕事の一環とは言え、身内の情報を切り売りするようで気分は決して良くないが。


 報告に嘘をついている訳でないのは、柊木にとっても救いには違いなく。こんな紙切れの作成に、毎回ストレスを感じてなどいたくないのが彼女の本音だ。

 そんな感じで、山の上の今やポツン集落はおおむね平和で天国だ。そしてイベントも色々と持ち上がって来て、近所の子供達も楽しそう。

 日帰りキャンプも、とっても楽しみな柊木とご近所一同なのであった。




 そしてやって来た川辺キャンプイベント当日、天気は快晴で子供達が総出で作ったテルテル坊主の威力は絶大だった。自分達の成果を喜びながら、朝からハイテンションな年少組。

 それに混じって、茶々丸やルルンバちゃんも無邪気にはしゃいでいる。朝の恒例の家畜の世話を済ませながら、それが終わると一目散に戻ってお出掛けの準備。


 夕方までのお世話に関しては、植松の爺婆に頼んであるので心配はない。来栖家のお出掛けの準備も、朝食後にはすっかり終わっており。

 後はもう、忘れ物が無いかチェックをして車をスタートさせるだけ。


「それにしても、こんな大人数になるとは思わなかったな。協会が車の手配をしてくれて助かったよ……ウチの車には、能見さんと林田妹さんが乗るでいいのかな?」

「そうだね、協会の車は江川さんが運転してゼミ生チームを乗っけてくれる手筈だったかな? そんで凛香チームは自分とこのキャンピングカーで、異世界チームと星羅ちゃんチームがもう1台のキャンピングカーを使うって感じ?

 4台で移動なんて、大規模レイドみたいだよねっ!」

「一般の人が見たらビックリするかもね、今回はズブガジちゃんも参加するって話だし。町の1つくらいは落とせるかも、その位の戦力はあるもんねっ!」


 物騒な言葉を口にしている末妹も、みんなとお出掛けが楽しみで仕方が無いみたい。そんな話をしながら、荷物を空間収納にしまってお出掛けの準備を進めて。

 早くも賑わい始めた庭先に、意識を持って行かれて気もそぞろな状況である。ハスキー達も、今日は探索じゃないと分かっていながらテンションは高いようで。


 庭に集まって来る車をチェックしたり、何か異変が無いかと庭を巡回してくれている。そんな中で車を降りて来た大人たちが、今日は宜しくと挨拶合戦を始め。

 子供達はひたすらはしゃいで、ペット達をキャンピングカーへと誘導している。それから挨拶の長い大人を制して、早く出発しようよと催促の嵐。


 そんな紆余曲折を経て、ようやく出発する4台のキャンピングカーであった。最初からテンションの高い香多奈は、能見さんを相手に喋りまくっている。

 護人は相変わらずの運転手で、助手席には姫香が座っている。騒がしいのが嫌いなミケが、後部からやって来て今は姫香の膝の上で丸まっている。


 先導役の護人の車は、先頭を進みながら去年も立ち寄った山間の川辺を目指す。ちゃんとしたキャンプ場では無いので、現状でどうなっているか不安ではあるけど。

 荒れてたらみんなで整地すれば良いし、他に広くて快適な川辺に心当たりは無いので。今回も半日だけ使わせて貰う予定で、キャンピングカーを走らせる護人である。


 後ろの席では、巻貝の通信機を使って他の車との会話まで始まっており。香多奈の騒がしさはとどまる所を知らない感じ、まぁいつもの事ではあるけど。

 林田さんちの美玖は、紗良と一緒に和やかに世間話に興じていて。到着するまでの楽しみ方は人それぞれ、向こうでやるのはバーベキューと決まっているので。

 そう言う点では、ハスキー達は至って長閑のどかに体力を温存中。





 ――到着まで1時間、それまでの時間の使い方はそれぞれ。






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