第388話 キッズチームの探索が思いがけぬ終焉を迎える件



 ダンジョン探索で一番楽しいイベントが、恐らくこの宝箱の回収作業だろう。不慣れなキッズ達に、香多奈が熱心に教えているのが何とも微笑ましい。

 子供達は宝箱の前で輪になってしゃがみ込んで、その説明を熱心に聞いている。その後ろから囲い込むように、コロ助や茶々丸が顔を突っ込んでいる。


 そしてアンタ達は邪魔しないでと、少女に怒られて全くりないいつものパターン。アイテム解説については、さすがに1年の間チームに同伴しているだけある。

 例えば魔石は魔素を放つから、専用の袋に入れて持ち歩くのだとか。爆破石はデリケートだから、邪険に取り扱ったら危ないよとか。


 鑑定の書は2種類あって、上級は倍の値段するから貴重だとか。ポーション類は見た目は判別しにくいけど、色の具合で何となく区別が可能だとか。

 和香や穂積は、姉や兄が探索者なので何となくは知っている知識ではある。ただ、さすがに値段や取り扱い方まで、詳しい事は知らなかったみたい。

 双子に至っては、ほぼ初めて知った事実も多い模様。


「凄いね、こんなご褒美って誰が用意してくれてるんだろ? いっぱい種類揃えてさ、モンスターにしてもそうだけど」

「あのお喋りな先生が、この前いっぱい話してくれたじゃん、龍星。ダンジョンは生きていて、探索者を誘い込むために宝箱を用意するんだって。

 浅い層で調子に乗らせて、深い層までおびき寄せたりするんでしょ?」

「アレって、子供向けの作り話じゃ無いの? 本当はどうなの、護人の叔父さん?」


 そう和香に振られても、本当のところなど護人にも分からない。偉い大学の教授や企業の研究者が、今なお解明に躍起になっていても判然としないのだ。

 世の中にはそんな事だってあるさと、護人はその場を何とか誤魔化して。それだけに、分かっている部分の情報の共有は大切でもあったりする。。


 子供達は、分かったようなはぐらかされた様な微妙な表情である。ちゃんとした正解を知りたい年頃なのだろうが、大人にだって分からない事はたくさんある。

 それより時間は1時間とちょっと、もう少し進む予定だけど体調はどんなと問うてみた所。子供達は揃って、まだまだ平気と元気な返事。


 ペット達にしても、まだウォームアップにも満たない運動量である。レイジーの指揮で、子供達に手柄を譲っているので当然だけど。

 そんな訳でアイテム回収が終わって、中ボスの間から6層へと移動の準備を始める一行。ちなみに宝箱から回収したアイテムは、鑑定の書が4枚に魔石(中)が3個。

 それから木の実が5個にポーション類が少々と言った所。


 他にも竹編みの篭や熊手、重石や木樽などの農家にありがちな品々が宝箱に入っていて。子供達の感性には合わなかったけど、売れば少しはお金になりそう。

 香多奈は不満そうだが、前にここに潜った時も宝箱には大した物は入って無かった。イレギュラー的に発生した仕掛けで、炎のランプの師匠やらレア種から良品をゲット出来た程度だろうか。


 一応のランクは低いダンジョンだけに、そこまで期待は出来ないよねと。和香はそう言って慰めるのだが、末妹はミケさんに八つ当たり。

 いつもの福の招来効果が足りないよと、とばっちりも良い所の文句の投げ掛けに。少女の肩の上のミケさんは、ニャーと鳴いて2本の尻尾を揺らすのみ。


 他の子供達も、何故かミケを拝んでからの探索再開である。どうやら今月の青空市での救出劇以来、彼女の株は急上昇しているらしい。

 とは言え、福の神扱いまでされるとはミケも罪作りではある。



 その甲斐あってか、6層の支道の突き当りは賑やかな作業部屋の仕様だった。レンガや木の杭、トタンや工具類が乱雑に壁際に大量に置かれてある。

 これは売れるかもねと、早速の福の神効果に喜色満面の末妹。他の子たちも喜びながら、それらを魔法の鞄に回収して行く。何しろトタンみたいな巨大な物も、スルッと小さな口に吸いこまれて行くのだ。


 他にも針金の束やら電動ノコも1台あって、普通に農家には助かる回収品かも。青空市で全部売るよを合言葉に、それらを回収して行くキッズ達。

 この辺のチームワークはバッチリで、乱雑に置かれたアイテム類を回収するのに3分も掛からなかった。驚き顔の護人だが、情熱の高さは感じられて微笑ましい限り。


 ちなみにこの層から、大鶏も大ウサギも姿を消して、モンスターはコボルトとウルフの混成軍に変わっていた。それらを始末する双子の前衛は、今の所何の危なさも無し。

 もちろんレイジーやコロ助がサポートしているが、単体雑魚の相手なら堂々としたものだ。逆に、支道に潜んでいた大ゲジゲジ相手には、少々ひるんでいた双子であった。

 そいつ等も、『自在針』で雁字搦がんじがらめにして、『伸縮棒』で潰して事なきを得たキッズ達。


「……でっかいゲジゲジとか、かなりグロテスクだよねぇ」

「天馬はああ言うの苦手だよな、兄ちゃんたちは虫系は全然平気だけど。俺も苦手な方だけど、大声上げる程でもないかなぁ?」

「田舎じゃよく見るもんね……ウチにもヤモリとか便所コオロギとか、家の中でも時々出るよ?」

「ネコを飼えばいいよ、和香ちゃん……ウチはミケさんが、全部やっつけてくれるよ! たまに手柄を褒めろと、捕まえたのを持って来るけど」


 おおっと再び湧く子供たち、そしてまたもや上昇するミケの株である。田舎あるあるの話は尚も盛り上がるが、そんな話の途中で7層への階段が見えて来た。

 このダンジョンは、1~5層と、6層以降の造りがほぼ変わらない。まずまずありがちな造りだが、出て来るモンスターはそうでは無いみたい。


 動きの素早いウルフ系は、しかしレイジーとコロ助が姿を見せた瞬間に倒してしまっていた。双子は茶々丸のサポートを得ながら、コボルトを倒して行くだけで良い。

 やや過保護な感じもするが、ダンジョンデビュー戦なので無理はさせたくはない。それより既に1時間半が経過したし、そろそろ帰る事を考え始めないと。


 そんな時に限って、何故か宝箱が2層連続で見付かる不思議。今回もやはり支道の突き当りの小部屋に、クーラーボックスがドンと置かれていたのだ。

 近くにいたスライムをサクッと倒して、中身を確認して見ると。サイダー瓶に色とりどりの薬品が、スライムゼリーや毒薬に混じって回収出来た。

 色合いで何となくの理解だが、護人の目に間違いは無さそう。


「えっ、全部薬品って思ったら、毒薬も混じってるのか……凄い意地悪だなぁ、間違って飲んだら大変だよ!」

「おっ、でもこの瓶は恐らく中級エリクサーだな。これは大当たりだよ、100mlが30万円で売れるから、これだと全部で150万円くらいかな?

 何しろ“変質”にも効果のある、凄い薬だからね」

「あっ、ウチのジョンを治してくれた薬っ!? 凄いっ、こんな感じでダンジョンに置いてあるんだ!」


 中級エリクサーの値段を聞いた子供達は、大興奮で凄いねと騒いでいる。ただし、過去にそれを無償で提供して貰った事を思い出した面々は、顔面蒼白になる始末。

 これは来栖家に全部渡した方が良いかなと、変な提案を言い出すに至って。子供がそんな心配をしないで良いと、護人は笑いそうになるのをこらえてそう口にする。


 子供だってお金の価値は知っているし、大金を融通されると遠慮だってするのだ。とは言え、子供の内は遠慮などするなと、大人は思ってしまうのも事実。

 とにかく最後の分け前は、なるべく公平に行わないと。



 そんな7層だが、突き当りの小部屋の大蜘蛛と大ムカデが少々ウザかった程度でクリア出来た。何しろ茶々丸が、子供にゃ負けんとやたらと張り切っているのだ。

 護人も双子の疲労を見抜いていて、茶々丸のガス抜きを優先したと言う理由も。やっぱり子供の体力と精神力では、2時間以上の探索は無理がある。


 そこで時間も丁度良いし、そろそろ戻ろうかと護人は子供達に提案する。ところが、連続しての宝箱の回収に、次もあるかもと欲望丸出しの香多奈は駄々をね始める。

 それに他のキッズ達も呼応して、あと1層だけとのおねだりタイムの突入に。こうなると思い切り弱い保護者の護人、まぁ向こうがもう1層で戻ると約束してくれたのは不幸中の幸いだろうか。


 と言うか、このパターンに思いっ切り嫌な予感が発動したのは、或いは《心眼》の為せる業かも。案の定、8層フロアに降り立った瞬間に、ヒヤッとした空気がうなじを撫でるような感覚が。

 レイジーもほぼ同時に気付いたし、勘の良い香多奈もアレっと言う表情に。先頭を歩いていた双子は、レイジーに行く手をブロックされて不審な表情。

 だがその違和感は、フロアを見渡せばすぐに気付くレベル。


「あれっ、何かおかしいね? 雑魚が全く見当たらないよ……レイジーも通せん坊して来るし、何か言いたいのかな?」

「天馬ちゃんに龍星ちゃん、下がった方が良いよっ! これってレア種の出る雰囲気だ、今の私たちじゃ逆立ちしたって敵わない強さだと思うのっ!

 この先は、叔父さんとレイジーに任せた方が良いよっ」

「えっ、本当に香多奈ちゃん……うわぁ、お姉ちゃん達もほとんど遭遇した事無いのに、凄い確率だよねっ!」


 その確率を引いてしまうのが、何と言うか来栖家クオリティと言うか。これもミケの招き猫パワーなら、少しだけでいいから抑えて欲しいと思ってしまう。

 とは言え、もし本当にレア種が湧いていたのなら、外に出て来られる前に倒すのは必須ひっすだ。護人は覚悟を決めて、相棒のレイジーに行くぞと告げる。


 後衛の香多奈が、レイジーに炎のランプかほむらの魔剣はいるかと大声で騒いでいる。今日はツグミが不在なので、末妹がアイテム管理をになっているのだ。

 魔法の鞄を大急ぎであさって、それから炎のランプに赤色の魔石を投入する末妹。その途端、ランプが大きな炎を発して周囲に炎の狼が数体出現した。


 それから香多奈が差し出した焔の魔剣を、口に咥えて前衛に舞い戻るレイジー。生まれたばかりの炎の軍団を従えて、思わず格好良いと和香と穂積が呟く程だ。

 その頃には、護人とコロ助は目標のレア種を視認していた。超巨大な大ムカデだ、幅の広い通路に割とギチギチなそいつも、同時にこちらを見初みそめたようで。

 嫌な威嚇音を発しつつ、こちらに突っ込んで来た。


 それを挑戦と取った茶々丸が、勇敢にも単身で突っ込む素振り。それを抑えつけて、護人は単身で壁になるべくレア種相手に立ち塞がる。

 コロ助が『牙突』を撃ち込むも、向こうの甲殻は超硬いみたいで全く通じず。ルルンバちゃんも出張って来て、いつでも攻撃出来るよとアピールしている。


 香多奈の応援も、ルルンバちゃんをメインで推している様子。それに後押しされたAIロボが、半分くらいの出力での『波動砲』の射出に踏み切った。

 その一条の光線に焼かれた超巨大ムカデだが、それでもなお突進を止めようとしない。結果、護人の“四腕”ガードに物凄い質量がぶつかって来た。

 後ろに通すと大惨事の持ち場に、護人は意地のブロックをみせる。


 背後からは子供たちの驚いた声が響いて来て、レーザーで倒せなかったルルンバちゃんもショックを受けてる様子。そこにレイジーが躍り出て、レーザーで空いた穴に炎の狼に突撃命令を下す。

 外殻が硬いなら中から燃やせて来な作戦は、何ともダイナミックではある。ただし効果は充分なようで、突然の熱攻撃に大暴れが止まらないレア種である。


 仕舞いにはコロ助も《防御の陣》で通路に蓋をして、向こうが息絶えるのを待つ構え。何しろこの暴れている巨体に近付くのは、10tトラックに裸で突っ込むようなモノ。

 とても正気の沙汰では無いし、レイジーもちょっと困ったなと言う顔で敵が弱るのを待っている。結局は5分近くの大暴れの後、8層のレア種は魔石(大)へと変わって行った。


 それからオーブ珠が1個と、良く分からない瓶入りの薬品がドロップ。ついでに超硬そうなインゴットも2本、それらを子供達が回収して行く。

 大暴れ凄かったねと、香多奈達は興奮も冷めやらぬ模様。やっぱりレイジーは強いねぇと、和香や天馬はモフモフのハスキー犬を撫で回している。

 そう褒められて、満更でも無さそうなレイジー。


 それから護人の戻るよとの掛け声には、みんな素直にハーイと返事をしてくれた。そうして元来たルートを、元気にUターンして戻り始めるキッズ達。

 ペット達も最後のお仕事とばかりに、護衛任務に気抜かりは無い。レイジーとコロ助は、いつものように先行しての安全確保に励んでいる。

 探索と言うのは、ダンジョンを出るまで気は抜けないのだ。





 ――初のキッズ達の探索は、こうして一応の成功に終わったのだった。









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