第243話 凛香チームが初のダンジョンボスと対峙する件
恐らくは出来立てホヤホヤの第6層へと降り立った、凛香チーム&姫香とツグミペア。そして面前に拡がるダンジョンの様相に、暫し唖然となりながらも。
何とか声を出そうと、隣の者と顔を見せ合って前の風景を指差してみたり。姫香も同様で、これはどういう現象なのだろうと主に天井を見上げて呆け顔。
そこには一面に笹の葉が茂っていて、いかにも涼し気なサラサラと言う音を発していた。それは何と、ダンジョンの天井から下に向かって生えていて。
重力を無視した生態環境に、思わず文句も言いたくなる一同。
「こう言うのって、あんまり聞かない現象だな……でもまぁ、何があっても不思議では無い場所ではあるのか。ここは簡単に、時代や空間が湾曲する場所だもんな」
「しかし、竹藪を真上から見る機会があるなんてねぇ……6層からは、遺跡タイプじゃなくて洞窟タイプなのかな?
下は熊笹がびっしり生えてるね、上は普通の竹藪だけど」
壁は剥き出しの土や岩で、天井は高いが逆さに竹藪が生えているヘンな空間。一応は洞窟タイプなのだろうが、割と広くて光源も充分ではない感じ。
小鳩が『光導』で、魔法の光源を発生させてその件はクリア出来たけど。がらりと趣を変えた、6層からの敵の強さは遣り合ってみないと良く分からない。
それでも少し進むと出て来たのは、先程と同じキノコ型のモンスター。多少体格は良くなっているけど、胞子飛ばしや技の種類はほぼ一緒な感じを受ける。
そいつは数匹で群れていて、1つのエリアを独占していたのだけれど。少し進むと、今度は大バッタやイタチ獣人が群れを成して襲い掛かって来た。
コイツ等も、数は割と多いけどそれ程には強くない。
岩の多い洞窟だが、地面は剥き出しの個所は割と少ない感じを受ける。熊笹や苔やシダ類がびっしり生えていて、丈は短いので進むのは苦では無いのだが。
分岐は割と多くて、ツグミの先導で突き当りの小部屋を先に潰して行く作戦に。つまりはマッピングを完璧にして、次以降の探索に活かそうって腹である。
そして最初の突き当りの小部屋には、1匹の大蛇と1本の梅の木が。大蛇はそこそこ強くて、隼人が危うく巻き付かれて窒息させられるところだった。
蛇の筋力を舐めてはいけない、強引に剥がそうとした凛香や姫香の力ではビクともせず。その代わり、慎吾の『混迷の杖』の混乱の術が殊の外良く利いた様子。
ようやく力の抜けた首を、スパッと切って戦闘終了の運びに。
「ふうっ、ビビったぜ……まさか木の上に隠れて襲って来るとは。次からは、ちゃんと気を付けないとな」
「本当だな、しかしこの梅の木……青い梅がたくさん生ってるな」
この時期に果たして梅の需要はあるかなと、姫香は暫し考えて。梅干しにしようにも、何しろ冬なのでシソの葉が全く無い。梅酒も、凛香チームは必要無いだろうし。
そんな訳でこの場はスルーして、ツグミに次に進むようにお願いする。後衛組は真面目にマッピング作業していて、上の層より倍以上広そうな手応えが。
次の小部屋は水浸しで、大サンショウウオが2匹と
ここの守護モンスターも、今までよりは割と強い手応えはあったけど。隼人と凛香で何とか倒し終えて、キッズ達が少しだけ収穫するのを眺めて。
どうやら、この層も食糧確保は出来そうだねと推測を述べる姫香。
同意する凛香だが、やっぱり少しだけ微妙な表情。そしてそれは、次の小部屋で確定的に。今回は大ハリネズミが3体と、立派な山椒の木が1本生えていて。
山椒は薬味としては優秀で匂いも良いが、主食では決してない。姫香も戦いを手伝いながら、植松の婆が有効な活用方法を知らないかなと変な悩みをし始める。
それでも戦闘が終わって収集するキッズ達は、楽し気でこの匂いは気に入った様子。姫香の地元の押し寿司にも、この山椒の葉っぱは必ず使うので。
まぁ、あって困るモノでは無いよねと勝手に納得する始末。
そして次の小部屋は、守護者無しのレモンの木が1本のみ。たわわに実る果実は、見方によっては宝物である。瀬戸内海では生産が盛んだけど、まぁこれも主食では決してない。
ミカンの方が嬉しいよねと、心の本音は辛うじて封じ込めて。嬉しそうに収穫を終えたキッズ達を従えて、次なる部屋へと進み始める。
ってか、どうやら小部屋はアレで最後だった様で。
ツグミが案内したのは、下層への階段が窺える大部屋だった。ここは天井が竹藪では無く、一面のキノコと言う妙な造りの終点で。部屋の主も、2桁のキノコ型モンスターの群れ。
マスク着用で突っ込んで行く前衛陣と、距離を置いてサポートする後衛陣。戦いは割と熾烈だったが、10分後には全て倒し終えてホッと胸を撫で下ろす一行。
有り難いのは、敵を倒せば胞子やら毒ガスやらも一緒に消えてくれる、ダンジョンの仕様である。そんな訳で、後衛組も大広間へと足を踏み入れて。
そこら中に転がっている、茸やら椎茸たちを必死になって拾い集める。
「これ、ちゃんと食べられる奴だよねっ、凛香ちゃん? 凛香ちゃんは分かんないっか、姫姉は分かるかな……1匹が多分、5個くらいランダムで落としてるよっ!」
「凄いね、僕にも椎茸くらいは分かるよ? こっちはひょっとして、舞茸とかしめじじゃないかな、小鳩ちゃん?」
「私にも良く分からないけど、慎吾君の推測は合ってると思うな。まぁ、帰りに植松の爺婆に採った食材を見せに寄ろうか。
爺婆だったら、きっとどの食材も美味しく加工してくれるよ」
他人任せのジャッジだが、植松の爺婆は凛香チームのキッズ達にも優しいし、邪険にはされないだろう。それどころか、お正月はキッズ達全員にお年玉を上げていたし。
そうして階段前で休息を取って、まだ大丈夫との声を頼りに7層へ。この層も6層と同じく、天井は賑やかでサラサラと良い音を響かせている。
そしてツグミの案内で、最初の突き当りの小部屋で再度の大蛇との第2ラウンド。今回は不意打ちを防げたので、割と楽に勝利に漕ぎ付ける事が出来た。
そして3たび目にする、巨大な
残った容器は1個しか無いよと、小鳩はしきりに悔しがるけど。
また今度来ればいいよと、隼人と凛香はそんな彼女を慰める。それよりこの層の雰囲気が、どうにも気に掛かる様子のツグミを何となく察する姫香。
キッズ達へと、どうやらこの層にダンジョンボスがいるかもと警戒の声掛け。それから紗良姉特性の果汁ポーションを、全員に飲んでおくよう指示を出す。
変な所でケチって怪我をしても詰まらないので、素直に従う凛香たち。次の小部屋にも大量のキノコ型モンスターがいて、それをさっきと同じ戦法で片付けて。
さっきと同じくらいの大量のキノコ類を回収して、今夜はキノコ鍋だと軽口を叩いた後。全員での移動中に、その異変は起こったらしい。
キャッと言う悲鳴は、後衛の小鳩が発したのは確かで。
「どっ、どうしたの、小鳩ちゃんっ!?」
「えっ、今……上から竹槍みたいなのが降って来て、途中でフッと消えちゃった。あれっ、気のせいだったのかなっ?」
「……ツグミかな?」
どうやら、皆が気付かない内に作動した罠を、ツグミが皆が気付く前に闇系のスキルで防御してくれていたらしい。何て優秀な犬なのと、場は物凄く盛り上がるのだが。
当のツグミは、いつもしている事なので何とも思っていない様子。姫香や小鳩に頭を撫でられて、嬉しそうに尻尾を振り返すのみである。
縁の下の力持ち、何てその言葉が似合う犬だろうか。
それでも次の探索に備えて、そんな罠もあるのだと地図に書き込みを忘れない後衛陣。そして辿り着いたのは、最後のダンジョンボスの大部屋だった。
扉は無く、天井は何故か松林である。周囲に松ぼっくりが転がっているが、何かの仕掛けの布石では無いと信じたい姫香。そして大ボスは、双頭の大蛇の模様。
それより護衛役の、大熊2頭が厄介かも。その奥には、宝箱とダンジョンコアがしっかり置かれてある。大熊はとっくにこっちを見初めており、2頭揃って突っ込んで来ている。
ボスは任せてとの凛香の言葉に従って、大熊は姫香とツグミで相手取る事に。双頭の大蛇も今までの奴より遥かに巨大で、体長15メートルはゆうにありそう。
大熊も2メートルサイズ、決して侮れる相手ではない。
「コイツ等も動物系だし、混乱系の魔法が効くかもっ!? 試してみるねっ!」
「最終戦だし、出し惜しみ無しで行くよっ! 譲司も遠慮なく、ボスに『氷槍』を撃ち込んでやって!」
「了解っ!」
そして、何とも派手に魔法が飛び交う最終戦。姫香も毎度の『圧縮』で、大熊の突進を止めて愛用の武器を振るってやる。パワーでは敵わない相手だが、魔法の搦め手でこっちが1歩有利に戦闘を進めて行って。
程無く護衛の大熊を、討ち取る事に成功する姫香。ツグミの足止めしている奴の止めも刺して、これで前衛のサポート要員1人と1匹がフリーになった。
隼人と凛香の大ボスチームは、敵を幻惑で翻弄しながらも苦戦していた。片方をとどめても、もう片方の頭がそれを打ち破る異例の解呪法を取って来て。
その上、このボス蛇の鱗はかなり硬質な様子で、隼人の武器も力の入れ具合では弾かれる始末。敵から毒も受けたようで、肌の色も明らかに悪い。
それを見かねて、後衛から小鳩が解毒ポーション瓶を手に前線へ走り寄ろうとしている。譲司が慌ててそれを止めようとしているが、時既に遅しな感じ。
暴れ回る巨大な双頭の蛇は、再び容赦の無い毒液散布の構え。
「ツグミっ……!」
姫香の掛け声に、敏感に反応するサポート名犬のツグミ。次の瞬間、闇のカーテンが双頭の蛇の視界を覆って視界不良状態へと陥れた。
姫香も何とか『圧縮』を展開して、ツグミの《闇操》に実体を持たせる作業。かなりのMPを持っていかれたが、ぶっつけ本番のそれは成功してしまった。
こちらに飛んで来る毒液は無く、小鳩は隼人の解毒作業を慌ててこなし始める。息の荒い隼人だが、幸いにもバーサク状態にも戦闘不能状態も回避出来ている様子。
凛香も素早く声掛けして、隼人の意識をこちらへ戻す作業。そして闇の向こうで暴れ回っている大ボスへの、再度の攻勢のタイミングを計り始めて。
小鳩ももう1度両者へ、『打ち出の小槌』でのステアップ付与。
そして姫香のカウントダウンと共に、今度は譲司も前掛かりに位置取りして。闇が晴れると共に、凛香チームの渾身の一斉攻撃が放たれる。
まずは隼人が、深く敵の懐に突っ込んでの双頭の首の付け根へと薙刀での一撃を見舞う。これは見事に決まって、刃の大半が敵の体内に埋もれる威力。
堪らずその不埒者に咬み付こうと、首を反転させた大蛇に対して。まずは凛香の飛びつき様の一撃が、大蛇の目を抉って行った。
その反対側の首は、譲司の渾身の『氷槍』でほぼ氷漬け状態に。MPが尽きるまで、魔法に注ぎ込んだ結果らしい。それで双頭の片割れは、完全に氷漬けに。
とは言え、絶大な生命力を誇る大蛇はまだ倒れない。
姫香が手助けするかなと見守る中、最後の気力を振り絞ったのは隼人だった。敵の体内に突っ込んだ薙刀が、スッと綺麗に引き抜かれたかと思ったら。
大蛇の背中を道路に見立てて、その上を駆け抜けながら薙刀で真っ直ぐ内臓を切り裂いて行く。どうやら『透過』と『切裂』スキルを融合させたらしいが、これまた全MPをスキル使用に突っ込んだらしく。
最後は相打ちの様に、ダブルノックダウンの格好となってしまった。魔石(中)へと変わって行く双頭の大蛇に、キッズ達はワッと一瞬湧いたかと思ったら。
慌てて倒れている隼人の元へと、全員で駈け寄って行く仲の良さ。来栖家チームも絆は強い方だが、このチーム『ユニコーン』も負けてはいない様子。
とにかくこれで、7層の敵の掃討は全て終了の運びに。
単なるMP切れの隼人が回復してから、改めてドロップ品の確認作業。大熊2匹は魔石(小)をそれぞれ落とし、ダンジョンボスの大蛇は魔石の他にはスキル書1枚と骨素材の牙を2本ドロップした模様。
宝箱はこれまた銅色だったけど、中身はまずまず豊富で。鑑定の書が3枚に魔石(小)が8個、それから蛇皮のベルトに蛇皮の財布が1つずつ。
それから竹筒に入ったポーション600mlとエーテル700ml、後は武器が刃のうねった双剣が1セット。他にも木の実が3つと熊肉らしい塊が笹の葉に包って出て来た。
この回収品を受け、キッズ達は信じられないと言った表情。たった半日も掛かっていない探索で、こんなに儲けて良いのかって感じである。
とは言え、最後のボスは相当苦労したし、危険には見合ってた気も。
そして打ち合わせ通り、ダンジョンコアは壊さず放っておく事に。後はお試しで、1か月後くらいに訪れて再び回収品のチェックなどする予定。
今回は協会依頼の形も付くので、間引きの代金も入るそうだし。これなら何とかやって行けそうだと、探索者としての新たな旅立ちに感無量な表情の凛香たちに。
――姫香も嬉しそうに、仲良しチームに温かい眼差しを向けるのだった。
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