第116話 猫の細道の先に、厄介なモノが待ち受けていた件
唖然としながらも、その強引なフィニッシュを見詰めていた陽菜とみっちゃん。よくあんな突然の指示だけで、そこまでのコンビプレーを完成させたねと。
不思議な生き物を見る眼付きでの問い掛けに、そりゃあずっと一緒に生活してるからと、姫香の答えはあっけらかん。その隙をついて、香多奈が宝箱の中身の確認を始めている。
いつもの事ながら、その無邪気さは周囲の空気を明るくしているのも確か。ミミックのドロップ品は、全部箱の中に集約されていた模様。
ってか、宝箱のお化けが本当の宝箱に戻った感じだろうか。中身も割と豪華で、金貨やら装飾品が結構な数出て来てビックリ!
中には金の燭台や、恐らく金箔仕立ての招き猫とかも。
他にもオモチャっぽい品々も少々、チェス駒のセットとか拳銃みたいな物とか。他にもベーゴマみたいな物や、ボードゲームみたいなのまで入っていて。
香多奈が全部取り出しながら、みんなに自慢げに見せびらかしている。それを紗良が魔法の鞄に回収、素直に感心しながらその豪運を見守るゲスト陣。
何しろ彼女たちは、そんな良ドロップにお目に掛かった事など無いのだ。
「確かに手強かったね、あの食い付いて来る宝箱……大抵の成り済まし生物は、ミケの雷一発でお亡くなりになるんだけどなぁ」
「あぁ、配送センターの時はそうだったな……おっと、今度は爆破石のセットか。えらくたくさん入ってるな、香多奈?」
「えっと、黄色と赤が7個ずつだね! こんなにいっぱい出て来たの、確かに初めてかも?」
妖精ちゃんもチェックには付き合ってくれていて、どうもさっきの拳銃が怪しいとの事。魔法のアイテムの可能性があって、その弾に魔玉を使用するんじゃないのとアドバイスに。
途端に香多奈の顔が生き生きして来て、護人に訴えるように視線を送るけれど。探索を終えてからにしなさいと、渋い顔で窘められてその話は終了に。
ケチンボと途端に
先導するハスキー軍団の足並みには、一切の迷いはない様子。この層の階段も見付けたのかなと、姫香の想像は大当たり。5分後には皆で階段を下り、4層へと辿り着いていた。
ここまで約1時間半、まずまずのペースである。
この層も風景はそんなに変わらず、坂の路地を隊列を組んで進む一行。そして相変わらず、ハスキー軍団は先行して露払い役に余念が無い様子。
お陰で本体は安全なのだが、極端に戦闘機会が減っていて本当に観光気分。たまに空から飛んで来る一行を片付けたり、軒先を覗き込んで変な敵を見付けたり。
一度など、住人を見付けたと驚いた香多奈の発言にビビりまくる一行。下手したら不法侵入だと、ここがダンジョンだと言う事実を忘れて慌てる護人だったけれど。
人影だと思われたのは、何とろくろ首だったと言うオチ。
「わわっ、首が伸びて来るっ……悪いのは香多奈だよっ、勝手に人ん
「ずるいっ、お姉ちゃん……! いいもんっ、叔父さんに助けて貰うからっ!」
何だか余裕のある姉妹の掛け合いだが、実際はミケの何だコイツ的な落雷攻撃で、女性タイプの妖怪は呆気なくお亡くなりに。このダンジョンは妖怪モンスターが多いと聞いていたが、確かにその通りだねと呑気に香多奈が感想を述べる。
そして2度目の空からの襲来にも、妖怪カテゴリーの一反木綿はバッチリ含まれていて。実はさっき、一つ目小僧も見掛けたよとの末妹の証言に、そう言う系統のダンジョンなのは確定っぽい。
だからどうだとか思わないが、トリッキーなタイプの奴が中ボスとかだったら少々厄介かも。それより5層の攻略が大変だぞと、ここも体験済みな陽菜が静かに呟く。
その前にアレ取ってと、全く遠慮の無い末妹のおねだりなのだが。何と電柱に風船の束が引っ掛かっていて、それは小さな籠を運んでいた様子。
少女は
仕方無いなと姫香が電柱を登ろうとするが、そこにドローン飛行のルルンバちゃんが待ったを掛けた。今まで目を付けられるのが嫌で低空飛行をしていたが、取って来てくれるらしい。
献身的な申し出に、子供達からは頑張れとの声援が惜しみなく飛び交う。それに勢いを貰った彼は、香多奈に付けて貰ったアームを駆使して、見事風船の束のゲットに成功。
そして何事もなく、無事に地上へと降りて来る。
「うんっ、これは……ああっ、水風船じゃ無くて風船の中に薬品が入ってるんだ? それが合計3つに鑑定の書が2枚、それから小っちゃい木の実が4つだね」
「何か、普通に凄いアイテム入手率っスねぇ! 何で階層ごとに、アイテムをゲット出来ちゃうのか不思議でたまらないっスよ?」
「……確かにそうだな、姫香のチームはちょっとおかしい」
友達2人にそんな批難をされるものの、姫香にそんな自覚は無いと言う。それよりまたミミックいないかなと、無邪気な香多奈の質問が怖い。
そんなにポンポンあの手の罠モンスターが出現したら、自分達が今まで
この4層も、どうやらあっさりと20分程度でクリアしてしまいそう。恐るべし来栖家チームの探索能力に、ついて行ってるだけのゲスト組は少々肩身の狭い感じ。
リーダーの護人が、MP回復休憩を取るよと階段前でチームに号令を掛けた。紗良がポーションを取り出して、ハスキー軍団へと振る舞って行く。
ついでに怪我のチェックと、後衛の看護の役目を果たし始め。
「えっと、次が中ボス前の難所のお墓エリアなんだっけ、陽菜? あれっ、お寺エリアだっけ?」
「墓とスケルトンは通常エリア扱いだな、その奥の鳥居を潜った先の境内が中ボスエリア扱いになる。だからそこに入らない限り、中ボスはこっちに攻撃して来ない」
「スケルトンが出るんだ~、怖いねぇミケさん……!」
ちっとも怖そうにない香多奈は、ミケを抱っこして大人しく休憩中。次の5層が墓地エリアなのは、ダンジョン構造的に確定の情報らしく。
そこにセットで出て来るスケルトンは、雑魚ながらも結構数が多いと注意を受けた。お寺の山門を潜れば追い掛けては来ないが、結局は戻る際には鉢合わせするので。
護人は素直に、全部を殲滅しようと子供たちに通達して。
薔薇のマントから、白木のハンマーを取り出して姫香に渡す。それから紗良に、前衛陣へのパワーアップ木の実の配布をお願いして。
陽菜とみっちゃんにも、殲滅のお手伝いをお願いする。つまり理想の作戦は、横に長い前線を張ってそのまま前衛陣で突き進む形である。
紗良が魔法の鞄から、木の実と予備のハンマーを取り出してくれた。陽菜の武器は今回から、来栖家にプレゼントして貰った双魔剣である。
みっちゃんは素直に、ハンマーを借りてそれを武器にする事に。念の為にツグミとコロ助がサポートに入ってくれるそうで、何と言うか至れり尽くせりな環境かも。
そうして作戦も決まり、一行はいざ5層へ。
そこは何故か、今までと違って薄暗くてまるで冬の夕暮れのような日差しだった。さすが墓地エリアだと、元気娘の香多奈もどことなく不安そう。
墓地は確かに、一面に広がって不気味さを醸し出していた。その奥に石垣で一段高い位置に、お寺の敷地らしきものが窺える。
そこへと向かう階段までは、結構墓地を突っ切らないと至れない構造で。階段を登り切った場所に、中ボスエリアの境の寺の山門が立っているのがここからも目視出来た。
そして墓地エリアに
パッと見、確かに敵の密度は今までの比でなく濃い感じ。
「うわぁ、多いねぇ……これは全滅させるの、結構大変だぁ」
「うむっ、実はウチのチームもここを突破した事は一度も無いな……リーダー、勝算は?」
「多分平気だろう、ただし強敵がいたら無理せず知らせるようにな。2人とも怪我したら周囲に声を掛けて、紗良の所まで下がるのも忘れずに。
ハスキー軍団が無茶しないよう、紗良が見ててくれ」
「分かりました……頑張ろうね、香多奈ちゃん!」
頑張るよと、声を掛けて欲しそうな少女の元気な返事。まぁ、敵がこれだけ密集していたら、香多奈の爆破石の投擲の機会もあるだろうし。
末妹には『応援』スキルもあるので、その言葉は的外れでは決してない。低空飛行で気配を消していたルルンバちゃんも、魔石拾いを頑張ってくれる筈。
物陰に隠れながら作戦会議をしていた、来栖家チーム+ゲストの娘さん達は早速の行動開始。ちなみにこのお墓やお寺の景色だが、昨日観光した尾道の風景とは全く違っている。
それでもお墓やお寺の景観は、どこかで目にしたような感じではある。しかもどの墓石にも、丁寧に家名が刻まれていると言う。
そんな中、周囲でドタバタ戦闘するのは結構な罰当たりかも?
とか思っている内にも、ハスキー軍団は空気を読まずに敵陣へと突入して行った。途端に反応するモンスター陣営、骨と妖怪の混成軍が一斉に襲い掛かって来て。
姫香が皆に檄を飛ばして、積極的に戦線の構築を担って行く。白木のハンマーを振り回し、ほぼ一撃でスケルトンを屠って進撃するその勇姿。
来栖家チームのムードメーカーには違いない、その隣ではシャベルの平面で敵を粉砕する護人の姿が。陽菜とみっちゃんも、負けじと犬達と共に奮闘している。
背後からは香多奈の、みんな頑張れとの声援が。それに後押しされるように、目の前の敵を片付けながら前進するメンバーたち。厄介な妖怪モンスターも、ハスキー達が片付けて行き。
気が付いたら、敵の数も半数以下に減っていた。
スケルトンも一筋縄のモンスターとは違い、大柄な奴とか元が獣人とか
残りのスケルトンも、実際そんな感じで殲滅にはそれほど手間取らず終い。後衛陣とルルンバちゃんは、後ろでせっせと魔石拾いに余念が無い。
20分程度で、何とか墓地での戦いは終了の運びに。
「ふうっ……やれば出来るモノだな、弟子入りしてみっちり訓練した甲斐もあったぞ、姫香」
「へえっ、そうなんスか……私も今度、姫ちゃん家に遊びに行こうかなっ?」
みっちゃんの言葉に、大歓迎だよと気楽に請け合う姫香だったけど。それは全然構わない護人だが、まだダンジョン探索中だよと気を引き締めるのも忘れない。
は~いと真面目に休憩に入る子供たち、紗良は毎度のハスキー達の怪我チェック中。今回MPを使った香多奈は、ポーションで回復作業に忙しい。
後は中ボス戦だけかなと、階段先まで移動した一同はもう一度集中を高めつつ。短い休憩を挟んで、山門を潜って境内へと足を踏み入れる。
先頭のハスキー軍団は、敵の姿を探して地面をしきりに嗅いでいる。割と広い敷地は建物も多くて、敵が隠れる場所も自然と多い感じ。
姫香と香多奈は、投擲準備バッチリで敵の出現待ち。
それに応じた訳では無いだろうが、中ボスはのっそりと建物の上から顔を見せた。それを唖然と見上げる一同、今まで見て来た敵の中でも一番の大きさかも。
これは
そんな事に構わず、姫香が速攻のシャベル投擲の先制攻撃。しかし驚いた事に、大入道の首がにゅうっと伸びてその攻撃は躱されてしまった。
そして建物の影から近付く本体、それと同時に護衛役の茶釜タヌキが2匹出て来た。この連中も割と大きくて、こたつサイズのサプライズ出演。
何だコイツ等と、慌てる一同だったけど姫香は気にせず2投目を投入。香多奈も炎の爆破石を投げつけて、片方の茶釜タヌキが炎に包まれて行く。
そして茶釜の反撃、真っ白な霧が周囲に出現して。
「わっ、わっ……霧で視界が塞がれちゃうっ! 護人叔父さん、どうしようっ!?」
「みんな下手に動かずに、取り敢えず攻撃はハスキー軍団に任せよう! 後衛の護衛だけはきっちりな、近付いて来た敵には気を付けて対処して!」
その号令の最中も、弓を四腕で装備していた護人は大入道の顔目掛けて矢を射かけ続けていた。命中する度に苦しむ中ボスだが、姫香のシャベル攻撃を含めてもまだ元気そう。
そこにハスキー軍団の攻撃が炸裂する、まずは遠距離からのレイジーの《魔炎》ブレスが。それを目晦ましにして、ツグミとコロ助が足元に噛み付いて行く。
残念ながら喉元は高い位置にあり過ぎるし、あれだけ伸びていたらどこが急所やら分かりはしない。そして向こうの茶釜タヌキ部隊も、自ら生み出した霧を隠れ蓑に接近戦を仕掛けて来た。
それを迎え撃つ姫香と護人、大声を出して接近戦を始めた事を周囲に知らせている。視界はようやく開けて来て、敵の居場所がチーム全員に共有される。
そしていきなりの落雷で、姫香の前の茶釜タヌキが没。横槍を何とも思わないミケの一撃、フリーになった姫香が護人と共にもう1匹の茶釜タヌキを退治する。
硬い茶釜の外皮など物ともせず、2匹目もぺちゃんこに。
そして気付いたら、大入道も伸びた首筋を3匹に咬まれて万事休すの形に。いかに巨体を誇ろうとも、伸ばした首が逆効果だったみたいで。
手で振り払おうにも、払える距離に犬達がいないと言う。頭脳プレイの勝利に、体形の差は関係無かった様子。大入道は塵と消え、後にはドロップ品が。
それを見て、素直に喜ぶ子供たち。
――遠征先のダンジョン攻略、何とか無事に終わりそう。
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