第28話 駅前ダンジョンを順調に潜って行く件



「どんなだったかな、紗良に香多奈……初めてパーティを、2つに分けて行動してみたけど。あまりすべきでは無いかな、例え雑魚しかいないと分かっていても」

「いえ、特に怖いとかも無かったですよ……? 時間節約も大事ですもんね、魔素の濃いダンジョン内の滞在は、なるべく短くが常識っぽいですし。

 まぁ、ベテラン探索者はダンジョンに泊まり込みとかしてる様ですけど」


 そうなんだと、同じく怖くは無かったよと返事をする末妹。何しろ同伴したミケとコロ助は、雑魚モンスターなど歯牙にも掛けない暴虐振り。

 そしてそれは、この第3層でも同じだった。雑兵と化したゴブリンたちを、情け容赦なく蹴散らして行くその勇姿と来たら。ついでに支道の突き当り部屋も、同じく綺麗に掃除済み。

 そして動く敵の姿が無くなった、小部屋に当たりの宝箱が。


 いや、それは宝箱と呼ぶのも烏滸おこがましい、山の峠道によく捨てられている廃棄物そのものだった。車のタイヤである、サイズからして恐らくは普通車のそれだろう。

 それが4つほど、重ねられて部屋の隅に山を作っている。それを宝箱と評したのは、その空洞の中にアイテムが放り込まれていたからに他ならない。

 しかも結構雑多で、今回は武器や装備も多いと来ている。


「えっと、手斧に革の胸当てに、金属製の丸盾に木の棒……ワンドかなぁ? さっきのゴブの中に、1匹だけ魔法使いっぽいのがいたよね。

 そいつが確か、こんな装備持ってなかった?」

「あぁ、確かに持っていたかもな……他には骨製のナイフと、ポリタンクかな? 中身がガソリンだと有り難いけど、多分ポーションだろうな」


 青いポリタンクには、並々と4ℓ程度の液体が入っていた。ガソリンがほぼ輸入出来なくなった現在、その価値は物凄く跳ね上がっているのだが。

 匂いと色合いから、ほぼヒールポーションで間違いなさそう。それでも売れば、4万円以上になる計算だ。有り難く回収しつつ、他に取りこぼしが無いかチェック。

 確認を終えたら、皆で次の層へと移動する。


 盾や手斧やポリタンクなど、持ち歩くにはいかにも重いのだが。どうもダンジョンと言うのは、地面に置かれていた物を勝手に吸収してしまう特性があるらしく。

 帰りにどうせ、同じ道を通るのだから後で回収しようとの手抜きな方法が通用しないらしいのだ。紗良が動画から得た知識だけど、折角得たアイテムで確かめてみたくも無い2人。

 そんな訳で、紗良と香多奈で頑張って持ち去る事に。


 何しろ前衛の2人は、戦いに動き回らないといけないので。重い荷物を背負うなど、割と言語道断な身分だったりする。香多奈も我が儘でついて来ている手前、文句など口にしない。

 それ以上に、換金すれば幾らになるかなとの楽しみが上回るとも。



 そんな思いでの第4層だが、出迎える敵もほぼ前の層と同じ。魔法を使うゴブリンに、コロ助がやや苦戦した程度。ってか、負った火傷を紗良が治療中である。

 他の敵は、既に倒してしまって本道は静かなもの。後は支道だが、張り切った香多奈がミケを連れて行って来るねと叔父に声を掛けている。

 さすがにそれは、許可は下りなかったけれど。


「コロ助の治療を待ちなさいよ、アンタも薄情だね!」

「だって、また宝箱があるかも知れないじゃん……ミケさんさえいれば、雑魚を倒すのなんてあっという間だよ?」

「もうっ、それじゃあ私とツグミがついて行ってあげるよ。それならいいでしょ、護人叔父さん?」


 そんな訳で、支道のお掃除を請け負う姉妹だったのだが。念願かなって、その内の1部屋に今度はスタンダードな木箱の宝箱の設置を発見出来た。

 嬉々として中身を確認する香多奈、しかしその中身も割とスタンダードで。鑑定の書が3枚に白い魔玉が4個、それから黄色い小粒の魔石が4個入っていただけ。

 それでも大喜びの、素直な少女であった。


 そして少女の肩の上で戦利品を眺めていた、妖精ちゃんから有り難い注釈が。今手に入れた石は、光属性の発光石と言うモノらしく……つまりは、魔力を込めれば発光するらしい。

 素直に言われた通りに試す香多奈、そうすると魔玉は宙に浮かび上がり、随分と明るい光で周囲を照らし始めた。凄い光量に、思わず感嘆の声を上げる姫香と香多奈。

 さすがダンジョン産だけはある、何と言うファンタジー。


 このダンジョンは通路に松明が備えられているので、それほど光源には困らないけど。洞窟系のダンジョン攻略には、普通に役に立ちそうである。

 浮かれながらも護人達と合流した2人と2匹、次の層はひょっとして中ボスがいるかなとか話しつつ。降りた先の第5層、予想通りに奥に大きな扉が窺える。

 その手前には、1ダースを超えるゴブの群れが。


 バリケードみたいな柵を設置していて、まるで彼らの拠点である。そこから弓や魔法が飛んで来て、ハスキー軍団も近付くのに苦労している。

 護人も3層で得た丸盾を構えて、後ろに姫香とレイジーを潜ませて。先頭に立って敵の拠点の防壁を突破、そこから躍り出てゴブリンに躍りかかる両者。

 引き篭もる敵の群れを、蹂躙しに掛かる彼女たち。


 局地的な戦いながら、派手に炎を撒き散らすレイジーは左に展開。一方の右側は、姫香と護人で潰しに掛かる。敵の気が逸れたタイミングで、ツグミとコロ助も突っ込んで来て。

 場は一気に密集体形へ、こうなると弓も魔法も使えない。ってか、当たるを幸いなぎ倒す姫香の勇ましい活躍振り。ゴブの耳障りな悲鳴が、周囲に響き渡る。

 大扉の前で、束の間の死闘が繰り広げられ。



 数分後には、ゴブリンの影は全て魔石へと変わっていた。それを甲斐々々しく回収するルルンバちゃん、幸いにもこちらの被害は軽微で済んで。

 それを紗良の魔法で回復中、念の為にとMP回復ポーションも、レイジーやミケや姫香に振る舞われる。2度目の中ボス部屋挑戦に向けて、準備は怠らない。

 作戦は前回と一緒で、速攻掛けるぞと護人の言葉に。


 了解と、元気に返事をする姫香と香多奈の姉妹である。今度も爆破石を使うねと、ボス戦に向けてテンションの上がっている子供たち。

 元気だなと思う護人だが、前回も5層のドロップはとても良かったし。その辺がモチベーションになっているのかも、そんな気がしてならないリーダーだったり。

 そんな中、治療が終わりましたと紗良の声。




 毎度の様に準備と呼吸を整えて、それじゃあ入るぞと護人の号令掛け。子供たちの返事と共に、大きな扉が音を立てて開かれて行く。

 待ち構えていたのは、割と巨体の獣人だった。それから豚顔の獣人が3匹と、ついでの雑魚ゴブリンが5匹。真ん中の巨体は、肌の色は褐色でまるで鬼のよう。

 オーガかなぁとの、後衛の紗良の呟きに。


 良く分かんないとの、香多奈の返事と同時の投擲の動作。姫香も同じく、予備に持って来たシャベルを中ボスに向けて槍の様に投げ付ける。

 派手な炸裂音と、シャベルに胸板をえぐられたボス鬼の絶叫。同時に飛び交った雷槌に、雑魚のゴブリンは一掃されて行く。相変わらず、一切情緒の無いボス戦の戦い振りである。

 気付けばハスキー軍団は、豚顔の獣人と接近戦を行っていた。


 あれはオークかなぁと、相変わらず呑気な分析を行っている紗良の隣で。撮影をしながら、もう一回爆破石を投げ込む猶予はあるかなぁと少女の小言。

 それを受けて、もう接近戦が始まってるから駄目だぞと、リーダーの護人の鋭いツッコミが。さすがに広範囲にダメージを与える石を、敵味方の交わるエリアに放たれたら堪らない。

 しかも香多奈は、それをうっかりやりそうだから怖い。


 姫香の恒例のシャベル投げを待って、護人が盾を構えて突っ込む姿勢を取る。その後ろに素早く陣取る姫香、ついでの様にミケも今回はそれに参加している。

 中ボスはタフなようで、2本のシャベル攻撃を受けても沈む事は無かった。逆に派手に怒らせたようで、大量の血を流しながらこちらに突っ込んで来る構え。

 それを迎え撃つ護人、部屋の中央で両者が衝突する。


 オーガの武器は、人の背丈ほどもある巨大な大剣だった。そんなモノで殴られたら洒落にならないと、素早く敵の懐に潜り込む護人。

 剣の刃を受けるのではなく、オーガの手首に丸盾をブチ当てて攻撃の勢いを殺すナイス戦略。その隙に、ミケの雷攻撃と姫香のスキル込みの一撃が敵の足首に。

 3メートルを超す巨体が、その勢いに負けて派手に横転する。


 その頃には、ハスキー軍団がオーク3匹を揃って始末し終えていた。特に香多奈の応援を受けたコロ助が、絶好調と言うか無双している。

 相手は揃って、槍と丸盾を装備していたのだが。ついでの革鎧すらも、ハスキー軍団の前には役に立たなかった様子。揃って丸焼きにされ、そして首筋を嚙み切られて絶命した模様。

 今度は怪我を負った者も存在せず、元気にリーダー護人の群れに合流を果たす。


 そちらも巨大な敵を相手に、押せ押せの状況である。不甲斐なく血塗れで倒された敵将は、絶叫しながら立ち上がろうと苦労している。

 その鼻面に噛み付く犬達、一方の護人は巨大な武器を奴から手放させようと、手首に向けてシャベルを突き立てる。そして姫香だが、身軽に倒れたオーガの背中に飛び乗って。

 後衛の妹に向けて、応援しろとの手招きアピール。


 それを受けて、頑張れお姉ちゃんとの威勢の良い声が末妹から。それに加えて、自らのスキルで身体能力を上昇させる姫香。愛用の備中鍬を、相手の首筋目掛けて振り下ろす!

 その一撃は、見事に狙い違わずオーガの急所を射止めて。


 派手な闇色の奔流と共に、魔石にと変わって行く哀れな敵の中ボス。ほとんど見せ場が無かったのは、見掛け倒しと言うか護人チームが強過ぎたと言うか。

 そしてピンポン玉大の魔石と一緒に、恒例の嬉しいドロップ品が幾つか。念願のスキル書が魔石の側に、それからオーガが使っていた大剣が1本。

 大剣の方は、残念ながら持って帰る労力の方が大変かもだが。


 姫香もそれは完全に無視して、スキルの書を拾って護人に差し出して。部屋の奥に宝箱を発見した、香多奈の護衛にツグミと一緒に歩いて行く。

 紗良は律儀にも、傷ついた仲間がいないかチェックして回っている。人間は自分で申告出来るけど、動物たちはそうも行かないので。

 犬猫の毛皮をモフモフしつつ、怪我が無いかの確認作業。


 今回の短い戦いでは、幸いにも怪我した者はいなかった様子。ホッと胸を撫で下ろしつつ、リーダーの護人にそう報告して。妹たちの賑やかな宝箱チェックに、そっと加わる。

 宝箱に変な仕掛けは無かったようで、今は入手したアイテムの確認作業中に忙しそうな子供達。中には妙なピンク色の薬品と鑑定の書が2枚、爆破石が4個と鬼の意匠の首飾りが入っていた様子。

 それを一喜一憂しながら、手にする姫香と香多奈。


「あ~ん、数も少ないし良い奴が入ってない気がする……鑑定の書が無いと、魔法の掛かったアイテムかどうかも分かんないしぃ。

 紗良お姉ちゃん、今回の鑑定の書は何枚だっけ?

「えっと、ここで2枚って事は……合計で5枚かな、確かにいつもより少ないかもね? このダンジョンは、武器とか防具の入手率が高いみたいだね。

 そこに落ちてる剣なんて、大き過ぎて持って帰れないよ!」

「うん、アレはここに置いて行こう……この鬼の顔の付いた首飾り、確かに魔法の品っぽい気もするよね? 拾った武器や防具とかにも、ひょっとしたら魔法が掛かってるかもだし。

 今回はルルンバちゃんの鑑定もするなら、確かに鑑定の書はもう少し欲しいね」


 そんな煩悩が、子供たちの原動力となった感は否めないけど。余力も時間もあるから、もう少しだけ潜ってみようとの提案が姫香と香多奈の両者から。

 確かに前回に較べても、この5層までそんなに苦労もしていないし。時間もここまで1時間とちょっと、余力と言われれば有り余っている気もする。

 階段前で皆で休憩しつつ、今後の方針を話し合い。


 結果、家族間の多数決で、もう2階層かそこら降りてみようとの話になって。来栖家パーティ的には、5層以降は実は初の試みだったりする。

 そんな訳で、気を引き締めて行こうを合言葉に、もう少しだけ探索を続ける事に。フォーメーションは元のまま、変に崩さず第6層へと向かう。

 少しだけ緊張しながら、パーティは護人を先頭に階段を降りる。





 ――力を付けて来たパーティの、階層更新の瞬間だった。







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