満月の夜に剣は燃ゆる

@DaIzu_051

プロローグ

完全に日が落ちた闇夜。


周りを山に囲まれた盆地。


轟々と辺り一面を燃やす炎。


瓦礫と化した家屋。


血を流して動かない人々。



そんな中、一人の少年が呆然と立ち尽くしていた。


「なんだ……これ……。……夢……?」


少年の目の前には一人の女性が倒れていた。

その姿を見つけた少年は、ふらつく足で近づくと、力なくしゃがみ込んだ。


「嘘……だろ……」


その女性は腰から下が瓦礫の下敷きになっており、元々白かったであろう服は真っ赤に染め上げられていた。


「起きてよ……」


少年は女性を起こそうと体を揺する。

すでにその体は氷のように冷たく動かなくなっていた。

少年の手にべっとりと鮮やかな血が付く。


生暖かい嫌な感触を感じた手をゆっくりと見る。


その瞬間、少年の中で何かが壊れた。


「―――――――!」


言葉にならない叫びが腹の底から溢れ出す。




辺りを暗闇が囲む火の中、少年の悲しい叫喚だけが響き渡っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る