小春裕貴

 そして数か月が経ち、春になった。


 今日は蒼が異能力者の団体の本部に出かけたということで、三人だけで出かけていた。


 引きこもり二人を引っ張る裕貴は大変そうだった。まあ、出かけるって言ったのは誰でもない、蒼が出かけてくればって言ったからなんだけど。



 そして「そろそろ帰ろう」なんて話をしていると、どこかから爆発音が聞こえた。そしてどこかから銃弾が飛んできて、あまねの体を貫いた。そしてあまねは地面に倒れ込んだ。


「あまね……!」「あまねくん……!」


 二人はあまねに駆け寄る。


「俺は……大丈夫。二人は……逃げろ」

「え……でも……」

「早く! 死ぬぞ」


 あまねにこんなに強く言われちゃったら従うしかない。といった感じで、裕貴と乃彩はその場から離れるように逃げた。


 あまねは二人が逃げたことを確認して、地面に仰向けになった。


「はぁ……はぁ……」


 銃弾が貫いていたのは心臓だった。あまねの能力でも回復には時間がかかるところだった。


 周りで見ていた人たちがあまねに近寄ってきた。


 みんな救急車なり、警察なりを呼ぼうと話していた。


 ◇◇◇


 裕貴と乃彩は逃げれるところまで逃げていたが、謎の集団に行き止まりに追い込まれてしまっていた。


 そしてそのリーダーと思われる人が裕貴たちの前に立った。


「俺は須崎景郁かげくにだ。お前らは?」

「僕は、小春裕貴」

「私は……」


 乃彩はそのあとの声が出なかった。名前を教えてはいけない気がしてたからだ。


「まあいい」


 景郁がそう言うと、仲間の一人が銃を構えた。そしてそいつは引き金を引いた。銃弾が裕貴にはすごくゆっくりに見えた。そのまま乃彩に向かっていくのが見えた。

 そしてもう一発銃弾が発射された。こっちは裕貴に向かってきていた。


 裕貴は乃彩の前に立って、二発の銃弾を同時に受けた。


「あ゛っ……」


 裕貴は後ろに倒れ込んで、乃彩にぶつかった。乃彩も一緒に地面に倒れ込んだ。


「裕貴くん……!」


 乃彩は小さな声でそう言った。


「当たらなかったか……やれ」


 さっきのリーダーは仲間にそう指示した。


 そしてまた銃弾が放たれた。乃彩は、どうにかしようと考えた。


 乃彩はとっさに炎を作り出し、銃弾を爆発させて消した。

 そして冷気を操り、リーダーとその仲間たちを凍らせた。



「はぁ……はぁ……やっ……ちゃっ……た……」


 乃彩はそう呟いた。


「乃彩……」


 裕貴が乃彩に話しかける。


「ありがと」

「裕貴くん……死んじゃダメ……」


 乃彩の言葉に裕貴は優しく笑った。



 ◇◇◇



 部屋には機械が一定に鳴る音が響いている。


 ベッドにはあまねが横たわっている。


 蒼がベッドの近くの椅子に座っている。蒼はうつむいている。



 裕貴は死んだ。

 銃弾を二発受けた。それに、倒れた場所が奥の方だったこともあって、何もできないまま死んでいった。


 乃彩は血だらけになりながら、必死に話しかけてた。でも、裕貴は死んだ。


 裕貴は……死んだんだ。



◇◇◇



あまねは無事だった。

能力も使って、なんとか無事だった。能力がなかったら、多分死んでいた。裕貴と同じように。


小さい体にたくさんの管が繋がれて、少し痛々しかった。



◇◇◇



数週間後、あまねは目を覚ましていた。裕貴が死んだことも、知っていた。


そして、乃彩は、元の家に戻ることになった。



病院の廊下で、あまねと乃彩は話していた。


「あまねくん……ごめんね……私……」

「乃彩。気にしなくていい。裕貴も、乃彩がそんなになることは、望んでない」


「あまねくん……」

「大丈夫、乃彩ならやっていけるよ」


あまねは優しく笑った。あのときの裕貴みたいに。



乃彩は元の家に戻っていった。

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