実力を隠すなんてもったいない!〜チート転生した僕は異世界を自由に生きていく〜

数算

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プロローグ

第1話転生しないなんてもったいない!

「珀斗ー、今日こそ遊びに行かねー?」


「ごめん!今日もすぐに帰らないと行けなくて、また誘って!」


「またかよー」


「次は行くから!」


「分かったよ。次は絶対来いよ!」


「うん」


西日が眩しい中、友人に別れの挨拶をする。

その際に挙げた手の影が西日に照らされて路地の奥に伸びる。


僕、橘 珀斗たちばな はくとはどこにでもいる高校生だ。

高校に進学してから1か月、無事に友達もでき、つつがない生活を送っている。

ただ、僕の家は母子家庭で、母と中学2年生の妹と3人暮らしをしている。母はいつも21時頃に帰ってくるので、家事は僕と妹が協力して行っている。なので、今日のように友達の誘いを断ることが多かった。


(僕も遊びたい気持ちはあるんだけどなぁ)


なんて考えつつも僕が5歳の時に父が交通事故で亡くなってから女手一つで僕と妹を養ってくれている母親のためにも家事くらいはやりたいという思いが強い。


(よし!帰ってご飯の準備だ!)


今日の晩御飯の献立を考えながら帰路についた。


~~~~~~~~


「ただいまー」


「お兄ちゃんおかえりー!!」


玄関を開け、帰宅を知らせる挨拶をすると、廊下の奥から妹の朱里あかりが飛び出してきた。


「会いたかったよー!」


「はいはい。分かったからご飯の準備するよ。」


「もう...お兄ちゃんってば、ほんっと冷たいよね!」


昔から2人で過ごすことが多かったからか妹は僕によく懐いてくれている。所謂ブラコンというやつだろう。ただ、愛情表現が激しい妹に思春期真っ只中の僕は素っ気ない態度をとってしまう。いつものように妹を躱し、晩御飯の準備をするためキッチンへ向かう。


「あっ、醤油切らしてる。」


「私が買ってこようか!?」


「いや、危ないから僕が買いに行くよ。」


「お兄ちゃんはずるいよね!普段そっけないくせに!」


なんてよく分からない文句を言ってくる朱里を躱して僕は醤油を買うために近所のスーパーに向かうことにした。


「コンビニに売ってるよねー?」


「ダメだよ朱里。スーパーの方が安いんだから。お金がもったいないだろ?」


「出た、お兄ちゃんのもったいないオバケ!」


「そんなこと言っても俺はコンビニで済まそうなんて思わないぞ。」


コンビニなら5分、スーパーは15分かかる。値段は少ししか変わらないが削れる所を削らないのはもったいないと思ってしまう。


「せっかくのお兄ちゃんと一緒に居れる時間がぁ...」


「何言ってんだか。すぐに帰ってくるよ」


「分かったぁ。気をつけて行ってきてね!」


「はいよー」


朱里と簡単にやり取りをして家を出た後、何も無い住宅街を抜けてスーパーを目指す。


「珀斗君や、おつかいかい?」


「はい!お醤油切らしちゃってて買いに行く所です!」


「そりゃ大変だね。気をつけて行くんだよ。」


途中、いつも気にかけてくれる近所のおばあちゃんと話をしつつ歩いていると、スーパーが見えてきた。スーパーの目の前にある信号につくと女子高生が1人信号待ちをしていた。電柱に体重を預け、どこか危なげな様子だ。すると突然、僕の前にいる女子高生が糸が切れたように倒れ始めた。車道では大型トラックがこちらに向けて走ってきている。僕は咄嗟に手を伸ばした。


(間に合え!!!!)


必死に伸ばした僕の手は、女子高生の腕を掴むことに成功する。僕は女子高生をそのままこちらへ引き寄せた。


(良かった。助けられる。)


女子高生を引き寄せることに成功した僕だったが、その際にバランスを崩し道路に飛び出してしまう。


(まずい!!)


と思った時には既に遅く、僕はトラックに撥ねられてしまった。僕の下には血溜まりが広がっていき、痛みが全身を支配し、だんだん感覚も無くなってきている。微かに残った意識を外に向けると女子高生が泣きながら僕に声をかけてきている。


(僕、このまま死ぬのかな。醤油も買えてないのに。母さんや朱里に迷惑かけちゃうな。友達とも遊びたかったし、やりたいこともいっぱいあったのに。)


そんなことを考えていると意識が遠のいていく。


(もしも生まれ変われるなら後悔のないように生きてみ...た...い...)


そうして僕は意識を手放した。


~~~~~~~~


「目覚めよ」


聞き覚えのない声で僕は目を覚ます。

周りを見渡すと何もない空間でダンディなおじさんがこちらを見ていた。


(なんだここは)


僕はトラックに轢かれて確かに死んだはず。


「ここは魂流の間。まぁ、簡単に言えば精神世界だ。」


僕は驚きのあまり目を見開く。

するとおじさんは愉快そうに口角を上げる。


「今僕、声に出してました?」


「いーやー。なんの音も発しておらんかったのう」


(これはもしかするともしかするのか?)


現代ではライトノベルというものが文化の一つとして、存在していた。僕も何度か読んだことがあるのだが、それらはこのような展開から始まるものが多かった。


「もしかしてが心が読めるのですか?」


「ああ、その通りだ。なかなか飲み込みが早いな。」


やっぱりだ!そしてそうだとするとこの後の展開は...


「僕は地球で死んで、転生させるためにここに呼ばれたのでしょうか?」


その一言に今度はおじさんが目を見開く。


「どうしてそのことを...」


その様子を見て少し力の抜けた僕はおじさんに説明する。


「僕が生きていた頃、そういった文学が流行していたんですよ。それがあまりにも今の状況と被っていて、もしかしたらと。」


そう説明するとおじさんはまたもニヤリと笑い


「なるほどのぅ。それにしても自分の死を受け入れるのが早いのぅ。まぁ儂としては説明の手間が省けて嬉しい限りじゃが。」


そう言って今度は僕に提案をしてきた。


「儂はウェイストという世界の神である。名は特にない。今回、君を魂流の間に呼んだのは儂の世界に来て欲しいと思ったからじゃ。君を選んだ理由は...」


「行きます!」


「.....へ?」


「ですから、あなたの世界に行きます!」


おじさんは呆気にとられ固まっている。

しばらく無言で見つめ合った後、おじさんは再び僕に話しかけてきた。


「そのー、理由や説明を受けなくてもよいのか?」


「はい!大丈夫です!」


また呆気にとられるおじさん


「わ、儂としてはありがたいんじゃが話を聞いてからでも遅くはないぞ?」


困惑した様子でそう言ってくる。

それでも僕の答えは変わらない。


「いえ、たとえどんなに悪い話を聞こうが僕の答えは変わりません!」


それを聞いたおじさんは少し考えるような仕草をとると今度は真剣な面持ちで尋ねてくる。


「なぜ、そう言いきれる?」


それに対し僕は満を持してこう言った。


「だって...」


「だって?」


「だって!もったいないじゃないですか!」


その瞬間、ただでさえ静かだった空間が本当の静寂に包まれた。しばらく見つめあってからおじさんが思い切ったように口を開く。


「お主、あほじゃろ?」


.....へ?今俺ばかにされた?


「なんで、そう、思ったんですか?」


意を決して聞いてみると


「そんな理由で話も聞かず転生を受け入れるやつ、儂は見たことも聞いたことも無いぞ」


え?そうなの?

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