モフモフパラダイス
明夜 想
第1話 仕事
唐突に前に立っている人から声をかけられたのは、下車する三駅前だった。
「三上さんじゃない?」
座席から見上げると、なんとなく見知っているような顔があった。私の怪訝な表情に気がついたのか、
「ほら、高校で一緒のクラスだった国坂よ」
国坂は、確かおかっぱで真面目な生徒会役員だった。目の前に立っている女性は綺麗なグレーのスーツに品の良いバッグを肩から下げた、ゆるふわ髪の華やかな女性だ。
「生徒会役員だった国坂さん?」
「そうそう、思い出してくれた?」
「ずいぶんと雰囲気が変わってたから」
国坂はにっこり笑った。
「三上さん今、何やっているの?」
「あ、えっと、カフェの店員」
「スタバとか?」
「チェーンじゃないから」
「そうなんだ」
聞いてはまずかった感が伝わってくる。この場合、相手にも聞かないといけなのだろうか。なんとか、気力を振り絞って質問を返す。
「国坂さんは?」
国坂は大手商社の名前を挙げた後、準急も急行も止まる駅でそそくさと降りていった。そこから先は、乗ってきた準急は各駅停車。私が下車するのはそこから後二駅。
私はここで何をやっているのだろう。二十八にもなって、あまり人に自慢できる仕事では無いという事はわかっている。でも、自分の仕事を自慢できる人がどの位いるのだろうか。目立たなくても社会の役に立つ仕事をしていれば、自分の仕事を誇れるようになるのだろうか。人から感謝されたり、人の命を守ることが出来たり、世の中の便利さに貢献出来たりしたら、その末端にでも関わっていれば、自分の仕事を誇れるようになるのだろうか。毎日の生活の中で最初に感じた誇りは消え去り、昨日の延長で今日を続ける。それでも、目標を達成できると、安堵感と小さな満足感を味わう。たとえ、少々普通の仕事とは違っていても……。
---------------------------------------------------------------------------------------------------------
読んで頂き、有難うございます! 感想などいただければ幸いです。
不定期便で短編(多分5話くらい)になります。
注意)タイトルが名前になりますが、その人物の視点ではありません。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます