最初の視覚は植物によって試みられたのではないだろうか

第18話

 ホットラインはないけれど、『臣民宣言』を配信された例の映像に添付されたリンクに送ることで、中には連絡が取れたとの話もある。

 その数パーセントの割合を高めるために、自分の顔写真も一緒に送ることにした。これで少なくとも同姓同名のミーハーだとは思われないはずだ。危険と言えば危険だが、政府を相手にするような奴らだ、もっと前に僕を消すことだって簡単な話。

「来た!」


 <大公閣下との謁見を許可する。また、その際にはどうぞ、新海佳奈様もお連れください。>


 テンプレに不自然に付け加えたような文章が送られてきた。でも流石に上帝とは会えないのか。

「佳奈………どうしよ」

 ここに置いていくのは不安だ。なんせ味方は誰一人としてこの星にはいないのだから。でも、背負って…………

「行くしかないよなぁ」

 思案の末に、帝政派に少しでも権威負けしないように、彼女は車椅子で運ぶことにした。できるだけ彼女にはゆっくりと休んでほしいのだけど、地球の情勢はそれをまだ許してはいない。



 彼らが自宅まで迎えきていないのが幸いだ。それなりに押している内に、車椅子の扱いにも慣れてきた。

 そしてしばらく歩いたところにある小さな公園の前で、僕らは彼らの車に乗り込んだ。カモフラージュのためか、ありふれた大衆車で、帝政派という言葉が少し虚しくも思えたが、服装は史料で観たような儀礼的なものだった。

 彼女は車椅子から僕の隣へと寄り添うように座らせ、沈黙の中、彼らの拠点へと向かっていった。その間、別段、拳銃を向けられたり、拘束されたり、クロロホルムで眠らされることもなかった。

 わずかに当たる佳奈の寝息にドキドキしつつ、僕は彼らの実態が単なる反体制の一つに過ぎないのではと疑いだしたりもした。……まつ毛長いし、肌もきめ細かいし、ぷにぷにしたいけど、流石にそこまで彼らを下に見てはいないし、そもそも、紳士的ではないので、この思いは彼女の目よりも固く閉ざしておくことにしよう。


「閣下はその先にお待ちだ」

 言葉づかいは高圧的だが、彼らの警戒態勢は警護的でもあり、どうにも僕は敵と判断しかねていた。………それは彼らも一緒なのだが。


「やぁ、随分と久しく感じるね、古多ふるた君」

「アルベルト大公」

「おや、しっかりと政見放送は見てくれたようだね」

 まっすぐこちらをうかがっているのに、その関心は車椅子の佳奈に向けられていた。

「単刀直入に言います、上帝に合わせてください」

 まわりの貴族護衛がどよめく。僕はオウムアムアの大使のつもりだ。彼らの作法に従うつもりはない。もちろん、臣下に下るつもりも。

新海にいみ君はまだしも、君を陛下に」

は近衛寮政府との外交関係にあるかもしれませんが、オウムアムアの使徒たる佳奈、そして彼女に僕との外交関係にはないはずです。では誰にあるか。それは最高権力者である上帝であるはずです」

「首脳会談のつもりか」

 彼と対等に話すには、儀礼ではなく技巧によってそれらしい論拠を立てる。これが以前、佳奈が指し示してくれたやり方だ。

「上帝と直に交渉することを要求します」

「無理だよ」

「ではあなた方は本当に敵対なさっているということですね」

「そう急くな。上帝陛下はもはやこの仮の宮には居ないのだ。聞いただろう、『月宮つきのみや』へ動座どうざなさったと」

「で、でも、レーザー光線で運べるのはせいぜい、小型武器のパーツや材料、そして」

「細胞かね。特等生の彼女らしい推察だな。しかし現に陛下は既に月にて勅命ちょくめいをお下しになっている」

「いったいどうやって」

「レーザー光線はひとつの凱旋式だよ。そこに人心を引きつけ、そして電磁波によって乱された宇宙ステーションや地上防衛アンテナは、ロケットの発射を見逃したのだ」

「そんな話!」

「信じられないか?オウムアムアよりも?」

 …………第三次哲学時代現代はなんて平和ボケした恥ずべき時代だったのだろうとつくづく感じる。科学が完成した、などというものは一つのプロパガンダに過ぎなかったんだ。思いもよらないだけで、事実、現実には起こり得る。


「行きます」

「なに!?」

「僕たちを月へと連れて行ってください!」

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