番人のいない牢獄

第7話

「太陽系外の恒星が誕生する際に形成された太陽系外の小惑星が、重力散乱でその恒星系から弾き飛ばされ、太陽系ここにやってきただけの存在だもの」


 彼女の次なる告白もまた、かつてないほどの衝撃だった。


「私は新海佳奈という個にして、識別番号『1I/2017 U1』という全」

「イチアイ……なにそれ」

「別名、オウムアムア。私が人間の域を脱するモノでなければ、あのような力を瞳に宿してはいない」

「カッコいいね」

「冗談では」

「疑ってないけどさぁ」

 ホントだよ?新見さんもといオウムアムアさんの言葉はあの日以来、疑った試しがないですよ?でもちょっと気障きざというか台詞がかっているというか。

「ごめんなさい、私、説明したこと、一度もなくって」

「まぁ、そうだと思うけども。で、オウムアムアってのは本名ってことなの?」

「むしろ、本体かな」

「本体!?」

「オウムアムアはその識別番号にもあるように、2017年10月19日、人類が初めて観測した、太陽系外から飛来した恒星間天体」

「………飛来」

「そう、オウムアムアはハワイ語で『遠方からの初めての使者』を意味するの」

「それで………?」

「私はその思念体をヒトという形に落とし込んだ、対人を目的とする使者。そして斥候せっこう的存在」

「宇宙人ってことなのか!?」

「いいえ」

「あれ」

「言うなれば、私はオウムアムアの魂と、ヒトという肉体を併せ持つ者」

「う、うん」

「人類史上、オウムアムアを捉えたのは、この近代天文学が成立してからのみ。でもオウムアムアはかつて数回、この地上に降り立っている」

「それって」

「ある時は文明を興隆させる存在として。ある時は一方の善の象徴たる天使として。そしてある時は民間において『国見』をする女生徒として」


 僕は改めて自分の愚かさを知った。

 彼女という存在を、ただその年齢と性別と容姿と准特等生という能力と、そして特異稀なる瞳で判断していた。

 彼女の目には文字通り、様々な時の流れが映し出されてきたのであろう。それ故に、彼女は時空を、この宇宙をけるのだろう。


「古多君は『一者いっしゃ』という概念を習ったのを覚えている?」

「難しかったからこそ、何だか残ってるな。確か、世界の根源をなす第一の、最高の原理であり、その『一者』から、一ならざるもの、つまりは多者が発出する、とか何とか」

「流石ね」

「准特等生さまからのお褒めの言葉とは」

「もう、元だけどね」

「オウムアムアも大きな石という形を持つけど、一方で『一者』的な側面がある。そう思ってもらえればいい」

「君はその石清水いわしみずということだね」

「ふふ、あはは」

 喜んでるのか?我ながら、褒め言葉としてはめちゃくちゃ微妙だと思うけども。

 というかもしかしてウケてる??

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