刻みネコ①

 カランカラン…

 どうやら今日最初の客が来たらしい。

 私はいつも通りモニターを覗き込んで客の顔を確かめてからスピーカーのスイッチを入れた。

『あら?あんたは確かこの前の…えっと…すまない。最近めっきり機械頼みになってしまって客の名前を覚えられないんだ。尤も、その機械のデータも消去済みだからまた名前を入力してもらうことになるけど、これは個人情報保護のためだから許してくれよ。ああそうだ。もしもこの入力が面倒なら会員カードを作るかい?会員カードは通常のワンデイカードと違って磁気データの消失期限が二十四時間ではないから返却の必要がなくて便利だよ。そこのモニターの登録ボタンを押せば仮登録が出来る。ただし、仮登録カードの磁気データは三ヶ月しか持たない。そのカードを持っている人が次の来店した際、仮登録から三ヶ月以内ならばそのまま晴れて本会員になれるのさ。本会員カードの有効期限は一年間で来店毎に自動更新されるから年に一回でも来ていればこの先にある正式な店への出入口であるをそのカードでいつでも開けられる。登録する名前は偽名だって有名キャラクターの名前だって構わない。磁気データで管理されるからね。ふふ、ところで今日も二人かい?』

「はい。今日も二人です」

『そうか。今日は早い時間にありがとう。君達二人が今日一番の客だよ』

「あ、やっぱりそうなんですね。開店時間からまだ五分も経っていないからもしかしたら最初かと思ったんですけど、一番乗りでよかったです」

『おや?奇妙おもしろい事を言う子だね。もしも差し支えなければ一番乗りでよかった理由を聞かせてくれるかい?』

「はい。実は今日、彼に本格的な中華料理を作って上げようと考えていたんですけど、私達の家はどちらも…というか一般家庭だとほとんど全てがそうなんですけど、中華料理を作るには火力か足りなくて。それでここのキッチンならと思って来たんです」

『ふふ、それは羨ましい。手前味噌だけどここのキッチンは自慢でね。必ず君の期待に添える筈だよ。もちろん中華料理に必要な食材も安くて良いものを用意しているから安心していい。とはいえ市場に出回ることのない幻の食材とかはないけどね。おっと、少々無駄話が過ぎたかな。さあ、奥へ進んで自ら選んでくれ』

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