ネギトロと豆腐の半殺し①

 カランカラン…

 スピーカーから客が来たことを告げるベル音が鳴った。

 いつも通り別室に待機していた私はモニター越しに応対した。

『いらっしゃい。あら?初めての顔だね。何人だい?』

「二人です」

『オッケイオッケイ。今日は来てくれてありがとね。じゃ、そこの端末に名前を入力してくれたらカードが出てくるからそれを持ってテキトーに上がってくれ。カードの使い方は使う場面ときになったら機械が教えてくれるから。あ、靴は下駄箱に入れるんだよ。次の人が来たら邪魔になるし、もしも靴を踏まれたら嫌だろ?』

 うちの店では客は端末に名前を入力して店内のみで使えるカードを発行して貰う決まりになっている。無論、その名前は本名でなくても構わないが、入力した名前は顔認証システムに自動的に登録され、三日間保存した後で自動的に消去される。

 これは店として最低限の自衛手段だ。

 うちの店には店員がいないため何かトラブルが起きた場合にこの顔認証システムが役に立つ。と言っても今までトラブルは起きたことはない。

『…おっと、初めての客には一応これを伝えておかないとね。矢印に従って進むと大小様々な部屋に繋がる扉があるけど、各部屋の扉に備え付けられているランプの色と数字は中にいる客の数と意思を表しているんだ』

 私はカップルと思われる二人に店のシステムを説明した。この説明は店の前にも中にも書かれているが、初見の客には口頭で伝えておくべきことだ。

 まず私の店に来た客は玄関を過ぎたら個室に入ってもらうことになる。

 個室と言っても大きな部屋では二十畳くらいになる部屋もあるから、その個室は大広間と言っても差し支えないだろう。

 個室にはそれぞれキッチンや調理器具が備え付けてあり、食材や飲み物も置いてある。

 客はその食材や飲み物を自由すきに使って料理をするなり、素材のまま楽しんだりして使った分だけを最後に支払う。部屋にある冷蔵庫などを開ける際には入口で発行したカードか会員カードが必要であり、コンピュータ制御で取り出した食材データを自動的に記録し、使用量によって支払い額が変わる。尚、余った食材は持ち帰る事も可能だが、基本的に全て調理して作り置き用の保存庫へ入れておけばいい。作り置きをした場合はその分だけ支払い額から減額されるので損はしない。

 この作り置きは他の客が自由すきに食べていいことになっていて、たまにがあるらしく、うちの名物となっている。逆になこともあるのだが、作り置きの味と痛み具合は閉店後に私がチェックしているため大外れが次の日以降に据え置かれることはない。

 客が使用する部屋の扉の前には赤または緑に光ランプがある。これらはそれぞれ他者歓迎、非歓迎を表している。

 赤ならば鍵が掛けられていて中にいる人達はプライベートルームとして使用している証であり、緑の場合は赤の他人と束の間のルームシェアをしてもいいという証だ。ちなみにランプが消灯している部屋は未使用の部屋だ。尚、部屋の大きさによっては少人数ではプライベートルームとして使用出来ない事もある。二十畳の部屋に一人きりとかは流石にスペースが勿体ないからだ。その為、大部屋を利用する人は団体客かシェア歓迎の人になる。ちなみにうちの店に二度以上来ている客はこの束の間のルームシェアをする部屋の事をシェアルームと言っている。恐らく世間のルームシェアとの差別化をするためなのだろう。

『…とまあ、ああだこうだ言ったが、二人きりで楽しみたいなら未使用の小部屋を選んで鍵を閉めてくれればいいし、他人と交流したいなら大部屋で誰かを待つか、既に誰かがいる部屋を利用すればいい。…そうそう、客層を心配することはない。が居たら私が摘まみ出しているからね。今いる客もみんな好い人ばかりだよ。さあ、先に進んで自らで選択するんだよ』

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