告白

「あっつー……。そろそろ出よう」


過去のことを振り返っていたら30分がたっていた。

手足もおなかも頭も真っ赤に茹って、浴室を後にして、

バスタオルで頭、体、足と水を拭いていく。


拭き終わったバスタオルを洗濯機の中に入れ、横の棚に置いてある下着に手足を通す。

下着姿になったところでキッチンに移動。冷蔵庫に入ってる麦茶をコップに注ぎ、一気に飲む。

茹った体にキンキンに冷えた麦茶は気持ちいい。体の内側から冷えていく。

もう一度麦茶をコップに注ぎ、飲む。


いい感じに体が冷えたので自室に戻り、パジャマに着替え、スリープ状態になっていたパソコンを起動させ、Youtubeで音楽を流す。

そのまま脇に置いてあるバッグの中から期末考査の問題とルーズリーフ、シャーペンを出して中間考査の解きなおしを始める。


教科は数学で、二次方程式や二次関数など、中学3年の内容を先取りして作られた問題である。

俺が解けなかった問題の1つはこれ。


――問 三角形ABCの辺上を点Pが毎秒1で移動する。三角形ABPの面積が12になる時の時間を答えなさい。


というよくある問題だ。しかし俺は解き方を忘れてしまった。

バッグから数学の教科書を出して、該当する範囲のページを開く。

ふむふむ、そうやって解くのか……。

解き方を頭に入れて、期末考査の問題に取り組む。


解答と照らし合わせて、導き出した答えが正しいことを確認して次の問題に移る。

次はこの問題か……。


数学が終われば、国語、英語……のようにどんどん解きなおしていく。


***


気づけば午後10時を回っていた。

音楽も気づけば終わっている。作業用のBGMだったのに。

数時間机に向かって勉強をしていたから首と腰が固まっている。

椅子から立って体を伸ばす。

バキバキ、としっかり聞こえるほど腰と首を鳴らして、気持ちよくなったあたりでやめる。


「飲み物取りに行くか」


独り言をつぶやいてキッチンに向かう。

棚からタンブラーを出して、中に麦茶を注ぐ。

こぼれるぎりぎりでやめて、少し飲む。


「美味い」


それをもって階段を上り自室に戻り、ベッド脇に置いて、スマホのLINEを起動する。


『久しぶり、未来みらい。元気してた?』


と送って、スマホを置いてベッドの横にある棚から本を取る。

本といってもライトノベル。内容はありきたりなラブコメだ。

何回も読みこんでるので、読みたいところを開いて読む。


――ブーブー。スマホを付けて通知を確認する。


LINE 22:43 未来『久しぶり。まぁまぁ元気よ。そっちは?』


LINEを開いて返信を書いていく。


『いつも通り。成績が低くて親に殴られたくらい』

『うわ、痛くなかったの?』

『痛かったけど、特に何とも思わなかった』

『怪我してないならいいけど』

『心配ありがとうな。そっちはなんもなかったか?』

『私も成績低くて怒られたw』

『お互いに低くなっちゃったか、次は頑張ろ』

『そうだね、頑張ろう。……澪はまだ「天才」って言われる?』

『いわれるね。別に天才じゃないんだけどなw。普通に勉強してるだけなんだよね』

『努力の賜物じゃん。いっつもお疲れ様よ』


僕が求めてた言葉を未来はちゃんと言ってくれる。

あったかいなぁ。


『ありがとよw』

『いえいえ、それじゃ寝るね』

『おやすみなー』


既読だけついて返事は来なかった。

スマホを閉じて充電コードにさす。眼鏡を取って天井を見上げる。

暖色系の光を出している証明とシミ一つない綺麗な天井が見下ろしている。

満足するまで天井を見上げ、スイッチを取って照明を消す。

暖色で満たされていた部屋に一気に暗闇が入ってくる。


暗闇で目が慣れてくると、窓から明かりがさしていることに気づく。

カーテンを閉め忘れていたのだ。

ベッドから降りてカーテンを閉めに行く。

窓の向こう側に目を向けると、光が消えた町と少し欠けた月が見える。

カーテンを閉め。ベッドに横たわり瞼を下ろす。


スゥー……スゥー……。


***


♪♪♪~~~


重い瞼を擦り無理やり開けてスマホのアラームを止める。

10月27日(土) 07:01 と表示されている。

あ、学校行かなきゃいけないわ。と思って体に鞭を打って居間に向かう。


「あ、おはよう澪、朝ごはんできてるから食べちゃいなさい」

「……母さん、おはよう」


階段を降りたところですでに家事を始めている母とすれ違う。

昨日のことなんてなかったかのような態度で接してくる。

俺は気まずいと思ってそのまま止まることなくすれ違う。


朝ごはんはメープルシロップがかかったトーストとサラダ。

それを完食して歯を磨いて自室に戻る。


扉を開けてまずは時間割に沿って荷物をそろえていく。

その上から昼飯を入れて、バッグを閉める。

体育に幾何に英語。土曜日なので午前中で終わるのだ。

午後は部活がある。13時から16時まで。

部活の時に着るウェアとラケット、その他必要なものを用意して、家を出る。


玄関に向かうときに見えた時計は07:25を指していた


***


「おい椿!」


学校に着くなり、見ず知らずの奴が話しかけてくる。それも結構な勢いで。


「……何?」

「お前さ、昨日の夜に3人に告白したんでしょ?天才なくせに女たらしだなお前」

「は?」


素っ頓狂な声が出た。反応はしたけど理解して出た反応じゃない。

目の前で起こっていることが理解できない。ほかの奴も問い詰めてくるが頭に入ってこなくて、

一人で「は?」という顔のまま固まっているのである。

俺が、3人に、同日に?

何を言ってるんだお前。


「――おい!」

「……あ?」

「女がかわいそうだと思わねえの?この女誑し」

「……」


可哀想もなにも俺はやってない。昨日は岡田さんとゲームをして

解きなおしをして未来とLINEをしただけだ。

告白とか告白まがいのこともしてない。


「黙って何とか言えよ」


これはすでに複数人に告白したというレッテルが張られているだろう。

その状態で否定したところで意味はなさない。

俺がとった行動はは目線を落としてそのままその場を去ることだった。


***


キーンコーンカーンコーン。

3時間目の終了を告げるチャイムが鳴っている。

あのあと俺はHRが始まるギリギリに教室に入り、誰とも会話することもせず、授業を受けていた。


担任が教室に入ってきてすぐに終礼が始まった。

内容は頭に入ってこなかった。

部活道具と荷物をまとめて早々に教室を立ち去った。


いつもならテニスコートの脇で部活の仲間と飯を食べる。

けど、俺はコート脇に荷物を置き、飯の総菜パンと飲み物を取ってその場を離れる。

(1人で飯食いたいな・・・)

1人になれる場所を頭の中で挙げていき、決めた。


目的の場所について、フェンスに肘を置いて街を見下ろす。

ここは学校から出て少し山側に上った場所。

山のがけ崩れ防止のためのコンクリートの上の部分で、いい感じの空間とフェンスが設置してあるから快適な場所だ。


「はぁ……。何が起こってるんだよ……」


するりと口からこぼれた。


「――知りたい?」

「ん?まあ現状は把握したい……って葵!?」


付いて来ちゃった、てへ、と少しかがんで下から覗き込んでくる。

さらさらと長い黒髪を肩から流れていく。


「そんで葵。どうなってるの?今」

「教えてあげてもいいけど―、ちょっと……ね?」


ね?ってなんだよと思って見てみたら、親指と人差し指で丸を作って少し揺らしている。

しょうがないからその丸に人差し指を突っ込んでおく。


思い描いた反応は得られなかった。


「まあ、簡単に説明するとね、君が3人の女子に告白したらしいの。昨日の夜に。」

「それは知ってるよ。朝言われた」

「そんで、告白……したの?」


訝しむ、というよりは確認に近いニュアンスだった。

多分俺がそんなことするはずがないと信じているんだろう。


「するわけないだろう?何を考えてそんなこと――」

「――でも証拠はあるらしいよ」

「何の証拠よ」

「告白した証拠。LINEのスクショとしてクラスの人たちに広まってる。私のところにも来た」


そういってポケットからスマホを取り出し、LINEのスクショを見せてくる。

相手はクラスの少しかわいい子、白井雅紀しらいまさきだ。


20:24 澪「ちょっと大事な話があるんだけど、白井」

20:30 白井「ん?どうしたの?」

20:32 澪「あのね、言いにくいんだけど……」

20:34 澪「入学式で見かけて惚れました!付き合ってほしいです!」

20:37 白井「うれしいけど、ごめんね。」


というやり取りが記録されている。

確かにアイコンや名前は俺のラインと変わらないが、俺は一切やり取りをした覚えがない。

それもそうだ、だってやり取りしていないのだから。

そのまま他二人のやり取りも見せてもらった。

流れは大体同じようなもの。パッと見は普通に告白して振られたというやり取り。


「なんだよこれ!」

「私だって知らないよ。で、本当にこれはやってないの?」

「あぁ、やるわけがない!」

「じゃあみんなにそういえばいい?」

「いや、そういうのは否定すればするほど、噂が加速していくから放置したほうがいい」

「なんかやけに詳しいね」

「まあ前にちょっとあったから」


そんな話をしながら腕時計に目を落とすと、部活まで残り5分を切っていた。


「わるい!俺行くわ!」

「えっ?ちょっと!」

「情報ありがと!それじゃ」


俺は葵を残し、走って学校に戻った。

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