百物語になる百日間

海上怜

第一夜 一緒に走ろう

ある所にAとBという二人の少女がいた。

Aは、運動も勉強も出来てとても優秀であり、皆の人気者であった。

Bはどちらとも余りパッとせず、良く言えばおっとりとした、悪く言えばとろいと称されるような子であった。

その正反対の二人は幼馴染であり、学校ではよく二人で行動していた。その為、周囲はAとBの事を親友であると見なしていた。しかしながら、Aは内心何もできないBの事を見下し、そして疎ましく思っていた。

そんなある日、持久走大会が行われる時期がやってきた。Aはこの行事が嫌いであった。何故なら、Bの調子に合わせて走る為、順位が下の方になってしまうからである。

Bを無視して、走り去ってしまえばいい話ではあるのだが、優等生ぶってBに

「いいよ、一緒に走ろうね」

と以前同級生がいる中で言った手前、Bを置いていくことは出来なかった。そんな気遣いを知らず、ヘラヘラとした調子で

「いつも、ごめんね。Aはもっと早いのに。」

と謝ってくるBに、Aは不満を募らせていった。

Aはそんな気持ちを燻ぶらせたまま、持久走大会に参加した。

走り始めてから数十分後、二人は最下位となっていた。他の生徒の姿は周囲に見えない。

これには流石のAも焦り、スピードを上げた。すると、Bが

「ちょっと待って、速いよ~。置いてかないで~。」

と息を切らしながら、そう言ってきた。AはそのBの間延びした、甘えるような言い方についカッとなり、

「元はと言えば、トロいアンタが悪いんじゃん!私は、アンタの面倒なんか見たくない!」

とBに向かって叫んだ。そのAの剣幕に、Bは怯えたような表情を浮かべながら、

「でも、一緒に走ろうって……」

と言った。AはそのBの態度にも腹が立ち、

「そんなの、嘘に決まってるでしょ!これ以上、私の足手まといにならないでよ!」

と、Bの事を強く突き飛ばした。その拍子に、Bは用水路に落ちた。Aは

「そのくらい、自分で上がってね。じゃ、私は先に行くから。」

という捨て台詞を吐いて、立ち去った。

Aはすっきりとした気持ちで、本来の実力で他の生徒を追い抜いていき、真ん中ぐらいの順位でゴールした。

満足感に浸る中、先生が慌てた様子でAに近づいてきた。そして、

「Bが、用水路に落ちて、救急車で運ばれた。どうやら、頭を強く打ったらしい。何か知らないか?」

と告げてきた。その一言にAの顔は真っ青になった。それと同時に、Aの耳元に

「一緒に走ろうって、言ったのに。」

という言葉がBの声で囁かれ、直後、Aは背中が重くなったように感じた。そして、Aは……気絶した。

その日以来、Aは色んな事が上手くいかなくなった。運動も、勉強もすべて何かに引っ張られるように失敗するようになった。そして、何らかの失敗をAがするたびに、色々な人がAの背中に影が見えると噂するようになったが、それが本当かどうかは定かではない。

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