彼女のいなくなったあとで

春嵐

第1話

 街の景色が、好きな彼女だった。夜になるとさんぽにでかけ、ネオンと星空を一晩中眺める。そして、朝になると公園のベンチで通行人をにやにやしながら眺める。昼になるとスーパーに行ってお弁当を買い、それを食べながらまた街を歩く。

 といっても、体力が無尽蔵にあるわけではない。エネルギーが切れると、いつも。


「ねむい」


 そう言ってもたれかかってくる。彼女を背負って、家まで歩く。自分も彼女も子供の線引きをぎりぎり出てないぐらいの年齢なので、彼女の軽い身体を背負うのは苦ではない。

 家まで運んだあとは、彼女をベッドに横たえて毛布をかけて。いちおう次のご飯を作っておく。自分の分を食べて、彼女の分を冷蔵庫に入れて、それで自分のやることはおしまい。家に帰る。

 帰っても、特にやることはない。家族形態は放任主義なので、自分がどこに行って何をしているかも訊かれない。ただし、自分以外の家族全員、壊滅的なほどに家事ができない。洗濯と掃除と、そしてやはりご飯。彼女の分を作ったばかりだけど、今度は家族の分を作る。自分にとっては2倍のご飯。カロリーも多少計算しなければならない。

 そうやって、過ぎる日々。

 彼女が元気に街を歩いている。それだけでよかった。

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