07
*
「兄さんのこと、追い駆けてた班長が止まった」
「ならば、先程のアウトは能登だな。残りは蒼崎達と、バカ二人組か」
「そうだね。兄さんはそのままポイントに向かって」
「了解した」
淡々と頷き、ディートリヒは物陰に隠れながら無事ポイントに辿り着いた。後は息を潜め、獲物がスコープの中に収まる時を待つだけだ。
「……ねえ、兄さん」
「どうした」
エルンストがこういう時、兄に話しかけるのは珍しいことだった。
「兄さんって、何か願い事あったりするのかなって」
「ああ、さっきのバカの話か……」
「……故郷、帰りたかったりする?」
おずおずとした弟の口調に、本当に珍しい事もあるものだとディートリヒは思わず笑いそうになった。
「お前が帰りたいと思わないなら、俺はどうだっていい。日本の方が、とっくに長いからな」
「そう、だね」
少しだけホッとしたような声に、自然と口元が緩む。この弟を守るためならば、何だってしてやると、世間に対して牙を剥いて生きてきた。今更、戦場以外の場所では生きられまい……そして故郷にも、帰れはしないだろう。
ただ一つ願うならば、ほんの少しの平和で良かった。二人でのんびりと過ごす時間。この一年近く、ずっと騒がしかった。最近ではそれも悪くはないと、思う時もあるが。
「……有給と、美味いビールだな」
ポツリと呟いた兄の言葉を理解したエルンストは、声をあげて笑ってしまう。
「くっ、ははははっ……うん、僕もそれがいいかも」
「お互い歳を取った、ということか」
「そうだね……っ、332:415!」
二人だけに分かる座標が叫ばれ、片時も目を離していなかったスコープをピタリとそちらに据えて、引き金を絞ろうとした瞬間だった。
『ニヤリ』
そんな効果音が聞こえそうな表情を浮かべ、スコープの向こうで青鬼が笑っている――
「っ!」
ハッとして振り向いたそこには、既にナイフの切っ先が迫っていた。
*
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます