02


(くそっ、折角つぐちゃんと気分良く遊んでたのに)


 いつもは冷静沈着『ザ・無骨な男』のつぐちゃんが、アドレナリン全開で浮かべるキチガイハッピーフェイスがたまらなく好きだ。まともに組手が出来るような相手も、つぐちゃんくらいしかいない。


 昔から、お互いにそうだった。オールラウンダーで、負けなしで、バトルジャンキー。俺達の関係は幼馴染、なんてカワイイもんじゃないけど、少年兵時代からずっと一緒だ。初めてバディを組んだ瞬間から、俺の相棒はつぐちゃんだけ。


 ウチの会社は『アポカリプス』なんつー大層な名前で国内最大規模のPMCだけど、大組織とかメンドクサそーと敬遠していた俺達が、馴染める程度には『自由人な班』に配属されてかれこれ一年が経とうとしている。




 Private Military Company


 PMC……その名の通り、民間軍事会社。いわゆる『先の大戦』で世界がグチャグチャになり、憲法どころか日本がぶち壊されて軍隊が復活。その軍が表立っては遂行できない任務やら、市街地のゲリラ鎮圧やら、作戦成功率の低い『お仕事』の捌け口がPMCになった。


(最近はちょっと暇でつまんないけどっ)


 腹立ち紛れに壁を蹴って歩く。



「あっ、きたきた。蒼崎、今日はまた一段とご機嫌ナナメだなー」

「はんぞー」


 このホワホワとした気の抜けそうな笑顔で俺を呼ぶ、ガッシリした熊みたいな男こそ、俺達『服部班』の班長である……服部だから、はんぞー。本名はアホみたいに長い。


 作戦投入率トップ。作戦成功率トップ。そして、部下を死なせた数もトップ……おかげで裏では凄まじい陰口が叩かれてるらしい。まあ、巷で言われてるように部下を切り捨てているワケじゃないのは見てれば分かる。俺が入ってからの一年は、一人しか死人出てないし。



「……つぐちゃんと組手してたのに」

「ああ、それは悪かった。この後、外せない用事があってさ……んで、こいつらな」


 ぐい、と彼に押し出された新兵達は……びっくりするくらいガキだった。


「人手不足?」


 思わず聞いてしまった俺に、はんぞーは苦笑して続けた。


「士官学校ツートップの最年少卒業バディ。何故か民間に来たってワケ……理由は」

「オールラウンダー・塚本礼司。蒼崎さんに憧れて入隊しました」

「同じくオールラウンダー・中野洋介。紅蓮さんに憧れて入隊しましたっ!」


 キラキラとした視線をこちらに向けて、ビシリと敬礼を決めるニュービーに目眩がする。


「あの、俺」


 こいつらパスで、と続けようとした瞬間だった。


「うんうん、元気な新人君達が入って来たねー少年兵?」

「げっ、能登」


 思わずこぼれた言葉に、にっこりとした笑みが向けられる。やっぱ、こいつ嫌い。


「ほら、蒼崎。ちゃんと紹介して」

「……こいつは長海能登。服部班の副長で、拷問・暗殺・焼き討ちが大好物の変態眼鏡」

「よくできました」


 ガッシリと俺の肩を掴むと、耳元で『後で覚えてろよ』と囁かれる。そっちがな。


「まあ、模擬戦で早速死なないように頑張って。ほら、服部行こう」


 ポンポン、と気安く新兵の肩を叩くと、二人連れ立って行ってしまう。



「あれが、ウチの司令塔っすか」


 ポツリと呟くマジメそーな塚本君に頷く。



「はんぞー……本名は服部・カールトン・ランズベリー・新三郎。デカイ図体の割に、ちまちました忍者っぽいトリッキーな小技が好きなウチの班長」



「本名長ぇ……」



 遠い目をする新兵を、仕方なく引き連れて歩き出す。




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