第4話 洗浄
私は山口くんと一緒にいたくて、お昼にカレーうどんを選んでしまった。
カレーうどんと書かれた場所に並ぶ。順番にカレーうどんが配られる。
私のトレイに載ってあるカレーうどんを見た同僚が「カレーうどん美味しいよねー」と声をかける。私は作った笑顔で答える。
人が少ないテーブルに着く。いただきます、と手を合わせる。心して食べなくてはならない。
汁が飛ばないよう、白いレンゲにうどんを一本載せてゆっくりとすする。まだ熱いので一本にした。
「いいにおいだな~」
隣の席に山口くんが座る。来た、本当に来た。
「カレーうどんって
私は当たり障りのないコメントを発しておいた。山口くんは笑顔で応えて自分の昼食を食べ始めた。
気になる。隣に山口くんがいると思うと、思い切り麺をすすれない。私は仕方なく、レンゲに二本うどんを載せてゆっくりとすする。時折スープを飲む。熱い。季節はもうすぐ夏になる。どうして私はそんな気候にカレーうどんを食べているのか。
そういえば近頃目がぼやけることがある。ふとした瞬間、視界の一部がもやっとする。数回まばたきをすると治るのだが、気になるので眼科に行っておいた。予知映像のことも気になっていたし。
眼科の結果は異常なしだった。
録画しているドラマを見たり、夏に活躍する日用品を買ったりして休日を終えた。あっという間だった。
また月曜日が来る。今朝もいつも通りコンタクトレンズを装着する。
見える。山口くんと
塩塚さん。同じ職場にいる山口くんと同期の可愛い子。ショートヘアがよく似合う美人と評判だ。同期だから入社してから山口くんと一緒の時間も長いし、何かと話しやすいよね。
私は年上だからか、どうしても踏み出せない。一年だけでも、年上。なんなんだろうな。山口くんはそんなこと気にしないんだろうけれども。
仕事だと邪魔しちゃだめだよね。今日はあの二人が目に入らないように仕事をしよう。でも、気になる……。少しだけ、少しだけ見たらもう気にしないから。
あちらを見ると山口くんがいない。こちらを見ると塩塚さんがいない。だめだ、集中出来ない。
「富士宮さん、このデータは暗号化して送ることになっていますよね?」
えっ? 塩塚さんが紙に印刷されている一部分を指さして言う。私は血の気が引いた。暗号化のルールを忘れてそのまま送信してしまった。
「嘘……私、そのまま送信しちゃった?」
「大丈夫です、私のところで止めてますから。そのためのダブルチェックですから」
塩塚さんは爽やかに言う。助かった……。
あれ、これ敵に塩を送られたってこと? いや勝手に敵だと言っているけれども、塩塚さんは別に敵でも何でもなくて。私が下らないことを考えている間に、塩塚さんはテキパキと動いている。
「山口、ちょっと手伝ってくれる?」
「いいけど、何かあった?」
塩塚さんは山口くんに声をかけて、私のミスを挽回してくれることになった。つまり私のフォローを二人でやるのだ。ああ、今朝見た映像が現実になってしまった。自業自得で、その結果を招いてしまったのか?
「ごめんなさい、私がミスしたの」
私は正直に山口くんに打ち明ける。
「気にしないで、じゃあ富士宮さんは僕のデータ入力お願いします」
「はい……」
とほほ。なんて情けない。年下の子にフォローしてもらって、その子の分の仕事を私がやるのは当然だとしても内容が。入力って。今の私には補助的な仕事しか任せられないってことだよね。確かにその通りです。私は間違わないように、ひたすら数字を打ち続けた。
はあ、今日は本当に災難だった。早く寝よう。帰宅してすぐにコンタクトレンズを外した。
そういえば装着液を買ってからだよね、妙な映像を見るようになったのって。けれど、レンズ自体に原因はないのかな?
私は外したコンタクトレンズを目の前に持ってきて裸眼で見つめた。くもっている。
一日中の目の汚れがレンズに付着しているのだろう。そういえば化粧品の汚れも付くって聞いたことがある。いつもより丁寧にレンズを洗った。
仕上げに目の洗浄もすることにした。小さいゴム製のカップに洗浄液を注ぐ。そのまま目に当ててカップを押すと液が目の表面を洗浄する。目が洗浄液に浸かったまま、まばたきを数回繰り返す。
すっきりした。カップの中を覗くとキラキラしたものが入っている。アイシャドウだろう。こんなに目は汚れているのか。この日はスマホも見ないで早く寝た。
それから二日ほど、映像は見なかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます