推理ゲーム

@yagiden

推理ゲーム

 放課後。一組の男女が夕日の差す教室に居残っていた。


「なあ、推理ゲームしようぜ」

「なにそれ?」

「いや、単にクイズを思い付いたから聞いてほしくて」


 二人とも椅子に座り同じ壁に背を預け、向き合わないでの会話。二人にとって恒例の空間だった。


「言ってみて?」

「おう。今みたいな誰も居ないこの教室の話しだ。俺の机の上に千円札が置いてあったんだよ。でも、少し時間が経ったら無くなった」

「あら」

「で、その少しの時間の中でこの教室に入ったのが三人いる。A、B、Cとしとこうか」

「うん」

「俺はそれぞれに話しを聞いてきたんだ」

「誰が教室に入ったかはわかってるんだね」

「そういう設定だから。まずAが言ったのは、『わからない』」

「わからない?」

「見てない、とかそんな感じだ。この際それぞれが何しに教室に来たのか、とかは無しな」

「それでBは?」

「『あった』千円札が俺の机の上にあった、と」

「うん」

「Cは『なかった』意味がわからない事を聞いてくるな消えろ、とか言った」

「その情報要る?」

「この中の誰かは確実に盗っていて、嘘つきも一人居る」

「あんたのことを嫌いな人も居るね」

「うん。誰が盗ったか当ててみてくれ」


 女はしばらく、頭の中で情報を反芻した。


「Cでしょ。盗ったのも嘘つきもね」

「ああ、そうなんだ」

「そうなんだって、答え用意してなかったの?」

「いやいや、本題はこれからだよ。嘘つきが二人の場合は誰が盗った?」

「二人? 考えるわ」


 ちなみに、嘘つきが一人だった場合の話し。

 Aが嘘つきだとしたら——つまり『わからない』が嘘で『あった』か『なかった』という時、『あった』なら誰が盗ったかはこの問いからは判明できず、『なかった』ならBと食い違い嘘つきが二人いる事になる。

 Bが嘘つきだとしたら、『なかった』となりAの『わからない』と食い違う。『わからない』だったとしても盗んだ人が判明しない。

 Cが嘘つきの場合には食い違いはないので、よってCが嘘つきで盗人だ、というのが女の結論だった。


「二人の場合、ね⋯⋯。これ、問題が破綻してない? 何個か答えがある気がするんだけど」

「破綻してる? じゃあヒント、ていうか条件を追加するか。ついでに嘘つきも三人にしよう」

「はあ? 大丈夫なの?」

「今の話しと同じ事がちょっと前に、実際に起こったんだよ。その時はこの問題の質問に加えてもう一つある事を聞いたんだ」

「ある事?」

「それは彼らの名誉の為に言えないんだけど、それぞれの返答がヒントだ」

「ABCは何て答えたの?」

「それぞれ『お前の嫌がる事ならなんだってやる』『話しかけるな、クズが』『お前を殺す』だったな」

「⋯⋯それ実話?」

「ちなみに順番はABCな」

「わかるよ。それがヒントなの?」

「うん。皆、俺を恨んでるみたいだなあ」

「全然わからないんだけど。答えとかあるの?」

「降参?」

「うん」

「答えはA」

「なんでよ」

「一番最初に教室に入ったからだ。皆俺を恨んでるから一番目の奴が俺の金を盗んでやろうとするんだよ」

「推理ゲームってよりなぞなぞだね」


 女の興味が冷めていく。その代わりに別の事が気になり出した。


「今のって実話なんだよね。⋯⋯何言って恨まれたの?」

「そりゃあ、お前もよく知ってる事だよ」

「私が? ⋯⋯⋯⋯あ。ABCってもしかして山岡、杉野、高橋の事?」

「正解」


 女は手を頭にやり気まずそうに笑う。


「いやーごめんね?」

「いいけどな、好きだし」

「あはは。⋯⋯私も。初めて本気になれたの」


 二人は見つめ合い、キスをした。

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