第101話 交渉
ギルド長との話し合いが終わった僕達は、今回の対応に向かうマリアさんと分かれ、リーゼのいる納品所に向かった。
「おお、ギルド長との話し合いは終わったみたいだな。そこにいた嬢ちゃんなら、後から来た子供達と処理場へ行ったぜ。倉庫の隣だすぐに分かる」ゼンさんに教えられ、僕達は処理場に向かう事になった。
処理場の場所はすぐに分かり、中から作業している人々の声が聞こえてくる。
「よし! そこは傷付き易いから丁寧にな、なかなかいいぞ」
既にティム達も職員の指導を受けながら、レッサーウルフの解体作業に取りかかっているようだった。
僕はリーゼの姿を探していると……さっきの女性職員と何かの作業を行っているリーゼの姿があった。
「ああ、良いわね! 貴女なかなか器用ね。解体後の皮の加工処理も結構大変で困っていたのよね~」
「うちには、他にもこういう作業を出来る子がいますよ」
リーゼは得意の革の処理で実力のアピール中らしい、さりげなく他の子達も宣伝していて、女の子達のリーダーらしい所を発揮している。
「う~ん、魅力的ね……ここは実作業が多い割には人手不足なのよね~、解体後の肉の処理だって結構な作業なのよ」
「それって、小さい子供とかでも出来そうです? 勿論あまり幼い子は無理でしょうけど」
「そうね……力作業じゃないからいけるかな」女性職員は考え込みながらそう言った。
僕は、ルナとキャロに先に帰る事を告げた。二人もリーゼの元で作業を手伝うつもりらしい。
(この様子だと、孤児院はもう僕が世話を焼かなくても問題無さそうだ。探索者ギルドと良い縁が出来て良かった)
まだまだこれからだろうけど、これからは皆の頑張り次第だろう。
僕は、三層に四人を連れていった事を後悔していた。僕自身が助けられ、結果的に四人は更に強くなれたのでそれで良しとすべきかもしれないが、四人を危険に晒したのも事実だった。
(この問題が片ずくまで三層には行かないように言ったので当面それで良いとして……今後どうするかだな……出来れば三層迄にしておくべきだろうな)
彼等がもう少し大きくなる迄は、安全な道を選ぶべきだと僕は考えた。
◻ ◼ ◻
ガザフ領主館で滞在中のミリアを尋ねたギルド長のレイラは領主館内の応接室に案内された。
現在、今回の件のエルフィーデの意向を確認するための話し合いが持たれている。
あくまでもレイラの私的な訪問という事にしてある為、立席者はミリアと、そのお付きのエルフ二名、そしてレイラだけである。
「それでは、探索者ギルドには、この件から手を引けと?」レイラの厳しい声が部屋に響いた。
「いえ、そうは言っていません。人員はエルフィーデの査察団の者を出しますと、申し上げただけです」ミリアはしれっとした表情で、事もなげに言ってのけた。
「我々が信用ならないと?」レイラの目付きが険しくなった。
「調査隊に探索者を使うというのが問題なのです。勿論、実力を疑っている訳ではありません。ですが今回の件は相手の正体が判明する迄は、出来るだけ情報が拡散するのを防ぎたいのです」
レイラは黙り込んだ、情報漏洩の問題はこのような案件の場合、組織内に独自戦力を持たない探索者ギルドの弱みでもあったがらだ。
「分かりました。ですが、うちからも一名、職員を派遣いたします。構いませんよね?」
有無を言わせぬ口調でレイラは告げた。そこには譲歩はここまでだという強い意思が感じられた。
「いいでしょう、その方の身の安全は我々が保証致します」
相手の譲歩を引き出せた事に満足そうに頷くミリアに、
「いえ、それには及びません。彼女なら自分の身くらい守れるでしょうから」
少し皮肉げに唇の端を吊り上げレイラは言い放った。
「あら、もしかして、それって例の二つ名持ちの方かしら?」
好戦的な表情のレイラとは対照的に、仲の良い友人の噂でも聞いた様に愉しげにミリアが尋ねる。
「ええ、探索者ギルドからは、【氷雪】のマリアを派遣いたします」
これで、この件は決まりだと言いたげな挑戦的な笑顔で、レイラはその名を告げたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます