第32話 錬金術師の少女

 女の子は、僕から薬草粉末の瓶を受けとると、ポーチから浄化水の容器を取りだし、水魔法の錬成を開始した。


 容器から浄化水が吸い上がり玉のようになり、空中で小さな玉の渦巻きが起こった。


 そして次に、薬草粉末が吸い上がり空中の玉にすいこまれていき、薬草粉末が半分まで減った辺りで、用意していた容器に完成したポーション液が注がれ、一本のポーションが完成した。


 女の子は十歳くらいの少女とは思えない熟練した腕を持っていたし、魔力操作も年齢から考えれば、かなり幼い頃から訓練を積んだ事が見てとれた。


 いつの間にか人が集まって来ていて口々に、「ポーション錬成するのなんか初めて見た綺麗なもんだ」とか「あんな幼い少女が錬金術師だとは……」色々な声が聞かれた。


 僕は完成したポーションを手に取り確認を行った。

 

「うん、良い出来だ」僕がそういうと女の子はホッとしたように笑顔を見せた。


 結果的に探索者四人がそれぞれ二本買い、他にも野次馬で見ていた人達が買ってくれて作り貯めていた二十本近くが全て売れ、大銀貨一枚の売上になった。


 随分な勢いで売れるのを驚いていると、探索者が教えてくれた。


「近頃は、低級ポーションでも新市街で買えば大銅貨七枚はするからな……露天売りでも効果があるポーションがこの値段なら売れるのは当然だ」


 最初は少しやり過ぎかなと感じていた僕のお節介も、蓋を開けてみれば女の子のパフォーマンスを引き出しポーションが全て売れたので、満足のいく結果だった。


 ここでのやり取りを見てポーションを買ってくれた行商人が、女の子にポーションの買い取り交渉をしていた、街では奥さんが雑貨屋を営んでいるらしく納品は雑貨屋にして欲しいらしい。


 僕は薬草粉末の代金として大銅貨二枚を受け取り、次はどこに行こうかと考えていると、女の子が質問してきた。


「薬草粉末はどうやって作られたのですか?」


 どうやら綺麗な粉末で魔力もしっかり含まれていて、とても使い易かったらしい。


「錬金用の石臼があって、それを使ったからかな」


 じいちゃんの持ち物だったが、魔力操作の練習として主に僕が使用していた。


 錬金用の石臼というのは、形は小麦粉を引くものと似ているが、素材が只の石ではなく魔硝石と呼ばれる石材で出来ている。


 僕が持っているのは、とても小さく手のひらに乗る程度の大きさだが、名前の通りの魔力素材としての効果があり、薬草を粉末にする時に魔力を込め易くある種の魔法具ともいえた。


 ポーション瓶は魔硝石を錬成して作るらしい、貴重ではないが常に必要とされる素材である。


 ダンジョンの四層以降で採掘可能で、錬金術ギルドが探索者を護衛に雇い、定期的に大量採掘を行っているそうだ。


「あの……もし今もお持ちでしたら使わせて頂けませんか?」と遠慮がちに聞いてきたのだった。

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