第6話 自由都市ガザフ
幌馬車は街道を順調に進んでいる。
僕はというと、コナさんの隣に座り馬車に揺られながら話をしている。
時刻はお昼で夜の見張りを日の出までで交代し、荷台で眠っていた僕をもうすぐ到着だからと起こしてもらっていた。
僕は、商団が一つの商会の集団だと思ってたんだけど、そうではなく行商人達の寄合集団だそうだ。
護衛代を共同負担する為の仕組みらしい。特に、都市への帰還ルートは同じになる事が多く、顔馴染みで寄合商団を組む事が多くなるそうだ。
「ある程度の規模で護衛付きの集団は、盗賊や山ウルフなどの群れも警戒して滅多に襲ってこないですからねえ……だからユーリさんもそこまで心配する必要はなかったんですよ」コナさんの顔は、愉しそうだった。
「えぇ、そういう事は前もって言っといてくださよ! 初の実戦が人間相手になるのかと、かなり緊張してましたよ」
僕は少し拗ねたように肩を竦めた。
「まあまあ、何事もなかったんですから良しとしましょうよ。しかし、緊張は良くないですが警戒心は常に必要ですよ。旅の間も都市の中に居るときもね……都市も人口が増えるにつれてどこにトラブルの種があるかわかりませんよ」コナさんは少し重くなるような口調で話していたが、
「ああ見えて来ました、あれが独立自由都市ガザフですよ。ガザフ辺境伯が治め、ダンジョン遺跡と共に発展してきた周辺諸国との自由交易が保証された夢の都市……」
僕の目にも都市の城壁が見えてきた。
「昔は辺境と呼ばれていたそうですが、今や世界の中心とも呼ばれるくらいの発展ぶりです。独立都市となるには、色々な経緯があったようですがね、しがない行商人には、係わりない事です。大切なのは、そこに求めるものがあるかどうかですよ!」
コナさんは熱心にそう語った。
僕はというと、初めて見る巨大な城壁にただ言葉を失っていた。
◻ ◼ ◻
暫くすると城壁の南門に到着した。
ガザフは交易が盛んで北と南に二つの門が存在し、それぞれで検問が行われているらしい。
僕達は馬車に乗ったまま検問所にむかった。
コナさんは門衛と手続きを行い、銀貨一枚を支払った。
隣の僕の事は「村で雇った見習いの子です」と説明してそのまま通過してしまった。
僕は、恐る恐る「たしか通行税、大銅貨一枚」と言い終わる前に、
「かまいませんよ、見習いの分は馬車の通行料に含まれます。それに、この都市はとても潤っています。ダンジョン産の魔石や素材、鉱石などは、この都市の探索者ギルドが握っていますからね。大銅貨一枚くらいで、いちいち難癖をつけたりしてきませんよ」
僕は多少良心が咎めたが、それ以上は何も言わなかった。
これから、この都市で自分の力を試していくことになる。生活の基盤ができるまでは、銅貨一枚、無駄にはできなかった。
「さあさあ、あなたの目的地の探索者ギルドは、この中央通りの先にある大きな建物です。すぐにわかりますよ。ですが、ギルドに向かう前に宿は決めておいたほうがいいですよ」
そう言ってコナさんは左手で指差しながら
「あの中央道りに交差する、一つ目の通りを真っ直ぐ歩くと[猪鹿亭]という名前の老夫婦が営む小さな宿屋があります。ギルドからは少し遠い場所なのであまり知られていませんが、街はずれなので街の喧騒のない良い宿ですよ。まあ、気に入らなければギルド周辺に新しい宿も沢山ありますし……試しに一度覗いてみて下さい」
「はい、そうします! ここまでお世話になりました」僕は急いで馬車から降りた。
「いえいえ、こちらこそ、貴方のお祖父様には長い間、良い取引をさせて頂きました。そのお孫さんの門出に立ち会えた事を嬉しく思いますよ」
コナさんから差し出された手と僕は握手した。
「それでは、また次にお会いする時までお元気で」
コナさんはそう言って、片手を挙げて、そのまま馬車で去っていった。
「ありがとうございました!」
僕は元気よく答え、コナさんの馬車が道の角を曲がり見えなくなるまで見送った。
あらためて、初めてのこの都市の街の様子を眺めた。
街の通りは石で舗装されており、街並みも石積みやレンガ作りの建物が軒を連ねている。
レンガの建物は比較的新しいものが多く、最近、普及し始めた物かもしれない。
(あれがもしかしたら魔法で作られた[魔精レンガ]かな? それにしても人が多いな……)
村との規模の違いに圧倒されそうになるくらい、人で溢れている。
そして人の数程ではないが獣人と呼ばれる種族も普通に歩いている。
軽く観察しただけで、耳と顔の雰囲気から狼や猫耳族らしい者達や、ヒゲの濃い小柄だがゴツい体格は……
(ドワーフだろうか?)
そして、背が高く細身で特徴的な耳の形のエルフだろう者達が見受けられた。
(すごい! コナさんが言ってたように、ここは世界の中心なのかも……)
僕は暫くぼんやりと、人の流れを見つめていた。
今の僕がいる場所は、門前広場と呼ばれる場所らしい。
出発前の馬車の見送りの人や、到着して荷物の確認を行っている人など結構雑然としている。
僕がのんびりと街の観察をしていても邪魔にならないのは、通りを外れた広場の隅に突っ立っていたからだ。
「いつまでもここでぼんやりしてる場合じゃないな! 今はとにかく行動しないと」
僕はそう呟いて、コナさんに教えてもらった[猪鹿亭]に取り敢えず行ってみる事にした。
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