第2話 自由都市ガザフへの道1
僕は昔のじいちゃんとの会話を思いだしながら、暫く物思いに耽っていたが、現実に引き戻そうとするかのように、荷馬車はゴトゴトとかなり揺れた。
もともと乗り心地などあって無いようなものだが、村道の整備されていない道だから尚更、揺れが酷かった。
やがて村道は広く整備された街道筋にさしかかり、荷馬車は街道を進む事になった。
村からガザフへは街道に入れば一本道で迷う心配もない。
出発して暫くは黙々と荷馬車を駆っていたモルおじさんだったが、村の狭い村道から街道筋に入る頃には少し退屈に成ったのだろう僕を相手に、あれこれと話し始めた。
「うーん、出発日が天気でよかったな、この調子で天候に恵まれれば、今日の夕方にはトネ村に到着しそうだ。あそこならガザフへ向かう街道乗り合い馬車か最悪、街に麦を運ぶ荷馬車が見つかるだろうよ」
そう言うとモルおじさんは、機嫌よさげに軽く馬に鞭を宛てた。
モルおじさんは、家も近く村では、親しくしていた人だ。
「そうだね、天気がよくてホントに助かったよね」
それに同意するように、頷きかえした。モルおじさん相手の気安さに、つい本音が飛び出してしまった。
「それにしても、モルおじさんが今回の交易番で助かったよ、他の人だとちょっとなあ」
普段あまり付き合いの無い、他の村人には遠慮があったのだ。
交易番とは、村で取れた素材等をトネ村で現金や、食糧に換えにくる交代制の村での役割だ。
役を果たす為に、[トネ村]に向かうモルおじさんの予定に、僕のガザフ行きの出発日を合わせたのだ。
「ああ、まあな……いや! 仮に俺以外だったとしても遠慮なんかする必要ねえよ、結果的にお前を村から追い出すみたいになっちまってよう」
モルおじさんは、情けなさそうな表情で最後は呟きになって黙りこんでしまった。
(あー、余計な事を言っちゃったなあ)
僕は後悔しながらも、口に出しては努めて明るく返事した。
「モルおじさん、その事だったら、全然問題ないよ。ガザフ行きは、じいちゃんの遺言みたいなものだし、僕もガザフには興味があるからさ」
(空元気に聞こえるかもだけど、結構、本音だったりするんだよな、それにこのまま村にいても錬金術も出来ない僕じゃな)
「うーん、そうだったな。でもなユーリ、今回の件では俺の家族も恩恵を受ける事になるし、感謝もしている。しかし……そうさ、俺も他の村の連中と同罪って訳だ!」
「同罪って……うちが面倒みてた薬草畑は、村中で集めたお金で買い取ってもらえたし、そのお陰で、街へいっても暫くは余裕を持ってやっていけそうだよ」
「だがな」
さらに、何か言おうとするモルおじさんを、僕は言葉で畳み掛けた。
「それに、村の食糧不足は深刻だよ。薬草畑を潰して農作物を作る。この考えに僕は賛成だし、村の為に必要な事だと思うよ。だからモルおじさんがそんなに気に病むことはないんだよ」
「そうだな……わかった! お前がそこまで言うんだ、俺がいつまでもグダグダ言うわけにはいかねえな!」
そう言った後は、いつものモルおじさん戻ってくれた。
僕とモルおじさんは、他愛のない村での思い出話しをしながら、ひたすら街道を荷馬車で進んで行った。
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