第3話 自由都市ガザフへの道2

 その後も荷馬車は順調に街道を進み、夕方にはトネ村に到着した。


 モルおじさんは、顔見知りの門番に挨拶した。


 今晩は村の広場にある屋根付きの馬止めの側で、野宿する許可を取るつもりのようだ。


 宿の整備されていない村なので、旅人にこういう場所が提供されているらしい。


「よお、今回の交易番はあんたか遠いとこ御苦労さん……ん~見ない顔だが、新顔か?」


 門番が僕の顔を見ながらモルおじさんに尋ねる。


「ああ、うちの村のユーリって言う。明日、巡回馬車が見つかればガザフに向かうつもりだ。それで今晩、広場の馬止め使いたいんだが?」


「ああ構わんよ、奥がまだ空いてる筈だよ」


 門番も毎度のやり取りなのだろう簡単に許可してくれた。


「ありがとう、それじゃ」


 モルおじさんは、軽く手を挙げて挨拶し、そのまま左手に見える広場に向かい奥の馬止めに停車した。


 馬止めには、雨宿り出来そうな屋根と馬用のワラと水飲み場まであった。


「ユーリ、俺は馬の世話するから、広場の中央でやってる屋台で串焼きでも買って来てくれ」


 モルおじさんは、馬の世話をしながらそう言った。


 広場の中央を見ると、旅人を当て込んで商売しているようだ。


 僕は、とりあえず屋台に向かう事にした。


「いらっしゃい、幾つにしやす?」やって来た僕が何か言う前にそう尋ねてきた。


「一本いくらです?」恐らくウサギ肉だと思われる。


 串焼きの暴力的な香りに、かなり空腹だった事を思い出さされた。


「銅貨1枚でさ」愛想よく答える男に、「じゃあ10本下さい」少し多いかとも思ったがモルおじさんの体格を考えて注文した。

 

 品物と引き換えに大銅貨を1枚渡し、その場を離れた。


 焚き火の準備をしているモルおじさんに串焼きを渡し、僕も焚き火の前に座った。


 待っていたようにモルおじさんは話し始めた。


「明日は朝一番に馬車探しだ。俺の用事はその後だ。巡回馬車は早朝に出発する事が多いからな、明日は日が昇る前に起きなきゃならん。今日は飯食ったらさっさと寝るぞ。それから串焼き代だ」といって大銅貨を渡してきたた。


「おじさん、自分の分は払うよ」


「お金は大切にしろ、ガザフにいけば誰も助けてくれないと思っておいたほうがいい」


僕は黙って頭を下げた。


 (じいちゃんが死んで一人でやってきたつもりだったけど、村では、みんなに見守られていたんだな……でも明日からは一人だ)


 馬車旅は日中の明るい時間しか出来ない、だから時間を無駄には出来ないのだ。僕は明日の出発に備え、早々に眠る事にした。


◻ ◼ ◻

 

 翌朝は日が昇る前に目が覚めた。広場の喧騒で目が覚めたのだ。


 周りを見回して、モルおじさんが居ない事に気が付いた。


「おーい、ユーリ自分の荷物を持ってこっちに」


 モルおじさんが、広場の入り口付近で手を挙げているのが見えた。


 僕は慌てて立ち上がり、食糧の入った袋を持った。荷物といってもそれだけだった。


 貴重な物は左のポーチバックに入れ常に身につけている。僕はモルおじさんのいる場所へ急いで向かった。


◻ ◼ ◻


 あれから僕は、モルおじさんの手配で商団の荷物として運ばれる事になった。

 

 食事は自分持ち夜営での交代の見張り番をする条件で、格安で運んでくれるそうだ。


 正直、銀貨一枚程度は覚悟していたけど、大銅貨三枚の出費で済んだのはありがたかった。


 歩いて行く事も考えたが、慣れない一人旅は危険だとモルおじさんに強く反対された。


「ユーリさん、そろそろ出発します」そう丁寧な口調で声を掛けてきたのは、顔見知りの人物だった。


 村へ定期的に行商にくる、行商人のコナさんだった。偶然に商団に参加していたコナさんを、モルおじさんが見かけ声を掛けたらしい。


 知り合いの馬車でガザフまで行けると分かり、かなり安心した。コナさんからの口利きのお陰で、すんなり商団に参加できた幸運に感謝した。


「はい、僕はいつでも大丈夫です。モルおじさん、ここまでありがとうございました」僕は、モルおじさんに頭を下げた。


「なに、元気でな……くれぐれも無理だけはするなよ」


「はい! それじゃ、おじさんも、お元気で!」


 僕は元気に答え幌馬車の荷台に乗り込んだのだった。

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