チェンジ! ドレスアップ!
シヨゥ
第1話
服に対する興味のない青春時代を過ごしてきた。着やすさと好みを重視した服選びをしていたように思う。今でも『何か着ていれば十分だろう』という声が頭の中で聞こえることがあるので、それが顕著に出ていたのだろう。
服に対して強くはないまでも、そこそこの興味を持つべきだ。今ではそう思う。
「きみ変わったよね?」
大学時代のサークル仲間と久しぶりに会うことになり、隣に座った恵子にそう言われた。
「服に対してちょっと興味を持とうと思って」
ぼくはそう返す。
「たしかにかっこいいし、清潔感がある。でもそれだけじゃないんだよ。なんというか顔つきが変わった感じがあるというか」
「きっと君みたいにほめてくれる人がいるから自信がついたんだと思うよ」
「なるほど。もしかして好きな子でもできたとか?」
「そういうわけじゃないんだけどね」
たしかな目的があったわけじゃない。仕事に忙殺される中で起こった変身願望があったぐらいだ。今のままじゃだめだと。なにかに変わりたい。そんな思いがぼくの服への興味となった。
「化粧もしてるよね?」
「気づいたか」
「そりゃあ女子ですから。なんだか大人になっちゃったな。残念」
「残念がるなよ。ぼくだって大人なんだからさ」
そう大人になったのだ。大学という狭い世界から、社会という広い世界へぼくらは住む世界を変えた。見るもの聞くもの感じるものが変わっていく。変化は当然ぼくら自身にも影響を与えていた。
飲み会が終わり、『またやろう』なんて声を掛け合いつつ駅へと向かう。
ひとり違う駅へと向かうぼくはみんな途中で別れることにした。
次は何年後か。また同じメンバーで集まれるのか。そんなことをぼんやりと考えつつ歩く。すると、
「ねぇ!」
と声をかけられた。振り返ると恵子がいる。
「もう1件、行かない?」
そんな誘いに、
「いいよ」
と二つ返事で返した。
「良かったー。断られるかと思った」
そう言いつつ恵子が横に並ぶ。
「嫌じゃない?」
「嫌じゃないよ。だって今日はほめてくれたからね」
「ほめといて良かったー」
「まぁそれだけじゃないけど」
「えっ?」
「いやなんでも」
あの頃に起こせなかった変化を今は起こせている。そんなたしかな感覚。服への興味が起こした少しの変化。それをぼくは今体感しているのだ
チェンジ! ドレスアップ! シヨゥ @Shiyoxu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます