第28話 課題11 野球の神様に学ぶ ~臍下丹田に力を

 私が尊敬している打撃の神様・赤バットの川上哲治氏をして、

「野球の神様というなら、榎本喜八こそがふさわしい」

とまで言わしめた打者のお話。


 この榎本喜八選手は、元毎日オリオンズの一塁手で、早実こと早稲田実業高校からプロ入り、1年目の1955年に新人王を獲得。その後、毎日オリオンズ改め大毎オリオンズとなった球団の売りとなった「ミサイル打線」の中核として大活躍。後に2000本安打も達成した大選手です。

 ただ、傍から見ると「奇行」としか言いようのない行動に出ることが多かったといわれております。

 彼を打撃指導して一流に育て上げた早実・早大の先輩である荒川博氏、もちろんこの方、あの王貞治選手の一本足打法の考案者であり世界の王の育ての親としても有名なお方でありますけど、若き日の王選手をビシビシ鍛え上げたような感じで榎本選手にあたったのかと思いきや、さにあらず、彼の「求道者的」なまでの打撃へののめり込みように、「息抜きさせようとしても、それが息抜きにならん・・・」とまでぼやかせるほど、打ち込まれた。

 この荒川氏、合気道もたしなまれていて、それを用いた練習も彼らにさせていたという。それを得て、榎本氏がひたすら述べていたことが、こう。


  臍下丹田(せいかたんでん)に力を入れる。


 これは、へその下から数センチの場所を意識して、呼吸することから始まるようでしてね、これ、赤ちゃんがしている「呼吸」なのだけど、成長してそれを我々忘れてしまっているから、そこからスタートしなおす、というか、「呼吸の基本」をしっかりしようということらしい。

 まあその、私も合気道へのたしなみはないしかじったこともなく、荒川さんや榎本さんなどの本を通してかじっただけなので、多くのことは言えんのですけど、かれこれネットサーフィンを軽くしているうちに出会ったあるサイトでは、なんと!


 正しい呼吸は、悟りへの道。


 かく、お釈迦様が仰せであるぞとの由。

 ~詳しくは、検索してみてください。

 私も、その記事を読んで見様見真似レベルで試しにやってみたのですけど、なるほど、肺にたくさんの空気が入って、そして、出ていくことが実感できました。

 なんか、心も現れていくような感触を得ました。


 さて先ほどの榎本氏、選手生活の晩年は先ほども申した通り「奇行」としか言いようのない言動が多くなり、かの荒川さんさえもてこずったほどだとか。で、引退後はいつコーチに呼ばれてもいいようにとトレーニングを欠かさなかったそうですが、結局はどこからも声がかからないまま。

 まだ榎本氏がご存命だった1987年頃、私が高校生の頃、とある雑誌で榎本喜八氏のインタビューが掲載された記事を読んだ覚えがあって、そこでは、「大家業」をして生計を立てておられる旨の弁が掲載されいたことを覚えています。


 さて、何でまた、こんなことを延々書いて参ったかと申しますとね、実は、昨日10月10日付のプリキュアの放送を観ておりまして、途中で、今回主役の涼村さんごちゃんが、ファッションショーに出るべくいわゆる「ランウェイ」を歩いていて、コケるシーンが出たわけ。そこからまた敵キャラとやりあって云々のいつものパターンで、最後は予定調和的に終わるわけですけど、それはまあ、正味20分の物語なのだから、まあ、いいでしょう。

 さんご君がこけたのを見て、私ね、ふと、榎本喜八さんのことを思い出したわけですよ。それで、かれこれ改めて調べなおしてみましたってこと。

 彼女がランウェイでこけたのは、「臍下丹田」に力を入れられておらず、身体が浮ついていた故のことであったのです。まさに、地に足がついていない状態になっていたわけ。それができてこその、「かわいい」を、彼女は演じて、人々に届けねばならないわけね。もっとも、そのくらいのことができる人物であると見抜いたコニーさんという演出家さんは、立派ですな。

 コニーさんに、あっぱれだ!


 さて、さんご君の話はここまでとして、私なりに得た所見は、以下のとおりです。


 臍下丹田とは、確かに人体で言うへその下数センチ程度の場所のことを言うのであるが、これは、すべての物事に通じる概念ではないだろうか。


 そこから翻って、さんご君の部活仲間のみのりん先輩に目を向けます。

 みのりんにとって今一番必要なのは、その、臍下丹田に意識を向けることである。これは何も呼吸法がどうこうという話ではなく、これから表現していく上で、生きていく上で、最も肝要なものをきちんと意識して、そこに集中する術を学び、得たものを自ら実践していくことなのであります。


 さて、そういう視点から、いつぞやの「マーメイド物語」の先輩少女の評価を思い出してみまして、それとの整合性を分析・検討してみましょう。

 彼女がみのりんに述べた内容のうち、一番の肝となるのは何かというと、

「頭でっかちの文章(小説)」である、という箇所。そこ以外のどこでもない。

 これこそが、みのりん小説の臍下丹田における現状というわけであります。

 要は、そこに力が込められていないという状態。表面的なものをなぞっているだけという感じでご理解いただければ、よろしいかな。

 くだんの先輩少女の弁に対して、私もいくつか親馬鹿的な視点から(苦笑)批判も加えてはおりますけれども、やはり、その「臍下丹田」に相当する急所となるべき部分に力が入っていない、つまりすなわち、彼女の心の底からの「主張内容」というか、「心の叫び」というべきものがその文章に反映されていないことが、その先輩少女をしてそのような言葉を言わしめたものであると、私は考察した次第です。


 そして、その「臍下丹田」に力を込めるには、どうすればよいか。

 これこそが、一之瀬みのりという少女の現在の課題なのであります。

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