第45話 ハウジング

「あなたがシルフィーネじゃないというのは良く分かりました。シルフィーネは上級精霊でしたし……あなたは恐らく浮遊精霊から進化したばかりの様子ですからね」


 シルフに私達のここに至った経緯を説明して思ったよりすんなりと納得して貰い私はホッとしていた。


「事の経緯は理解出来ましたが……世界樹が生育するには少し寂しい環境ですね……実は世界樹には心があるのです。当面は私が居れば問題ないでしょう……ですが出来れば周囲にエルフか獣人族でも住んでくれると世界樹も慰めになるのですが……」


 シルフの言葉に私達も周囲を眺めて納得した。広場には周囲を囲む木の柵と中央にある世界樹の若木があるだけなので実際のところとても殺風景な状態なのは確かだった。


「ビスタさん、この場所にエルフの村を再建出来ないでしょうか?」


 エリスがそう言い出したのは当然の成り行きだった。エルフ達も今まで世界樹を守りながら暮らして来た訳だから昔からの生活に戻りたいと思うのは当然だろうと思われた。


「出来れば私も協力したい所だけど、肝心の離散してしまったエルフ達の行方に心当たりは?」


「それは……」


 エリスが思い付きで言っているのは分かっていたが、とても悲しそうな表情をされて気の毒になってしまった。


 実はハウジング機能が解放された事により、この広場の範囲であればすぐにでも六軒までの居住可能な建物の建築や村に必要そうなその他の施設を設置する事は可能だった。


 私のシステムメニューにはハウジングメニューが新たに追加され平屋の小さな家や井戸や水車などゲームの村造りセットのアイテムが色々表示されている。なぜ六軒かと言うとここに村人候補が6人居るからだろう。


(これゲームの機能の通りだとすると、村人が増えれば追加の施設とかも増える可能性があるよね……それか私のシステムレベルを上げるとかの条件の可能性もあるかな)


 ゲームに似た所もある私の力だったがこの世界の修正力という謎の力によって色々と変質をしているのは間違いなかった。だが、私はこの変化を歓迎している自分に気がついていた。


(私……少し楽しくなってきてるのかも……)


 私は常に管理者として狭いゲーム世界に向き合ってきていた。だが今はある意味では私もこの世界のプレイヤーの一人として生きていたのだった。


◻ ◼ ◻


 ハウジングシステムはゲームでも住んでくれる村人を集めるようなちょっとしたお遊び要素だった。


(それが随分大袈裟になってしまって……魔族達が静かに暮らすエルフ達を襲い世界樹や精霊樹の森を念入りに焼いたのには明らかに何か訳がありそうだよね……)


 私は世界樹の若木を見上げながら、世界樹等という存在の世の中に与える影響について考えずにはいられなかった。


「エリスの願いを実現するには、やはり情報収集と戦力強化は平行して行う必要がありそう……そうなるとダンジョン機能も確認しないと」


 私はもうひとつ解放された機能であるダンジョンにより期待を寄せていたのだ。


「ダンジョンコアのお陰で随分とビスタさんは規格外の存在になったと思いますけど……もしかしてダンジョン機能というのはここに?」


 さすがにセナは察しが良いようで、何となくダンジョン機能について理解しているみたいだ。


「まあ下手に説明するより見て貰った方が早いからね。さっきは門に気を取られてそのままにしてきたけど、さっきの台座があった場所に答えがあると思う」


 マナとミーナはこの広い場所が気に入ったようでロゼとヤンと一緒になって追いかけっこをして遊んでいるようだ。


「皆、楽しんでいるところ悪いけどさっきの台座の場所に向かうよ! ダンジョンを見せてあげるから!」


 物で釣るようで悪い気がしたが、大切な事なので早く確認したかったのだ。


「分かったよ! いこっ、ミーナちゃん!」


「うん!」


 そう言うとミーナとマナは台座に向かって走っていってしまった。年齢も近い事もあって二人はすっかり親友と言っても良い関係に成っていた。


 初めて出会った時のミーナの孤独な姿を知っている私は、二人が良い関係を築いている姿を見ると自分を転生させた謎の二人に感謝の気持ちすら感じてしまうのだった。


(きっとあの二人は私の幸せを願ってこの世界に送り込んだのではないのだろう……だけどあの二人が決して大事の前には小事は犠牲にしても構わないと単純に考えるほど無慈悲な存在とは思えなかった)


「あっ! 元気ですね二人とも」


 セナは笑いだし、エリスも釣られて笑いだした。すっかり二人に置いていかれる形になった私達は二人の後を追って台座のある場所に向かった。

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