第44話 システム管理AI
「何処で手に入れたんですか? もし入手可能ならミーナ達にも協力して貰って自力で回収したいのですが……」
エリスが無造作に差し出してきたダンジョンコアだったが、さすがにそんな貴重そうな品を簡単には受け取る気にはなれなかった。
金銭的な交渉を持ちかけなかったのは、エリスの雰囲気からお金は受け取りそうになかったのもあったが、実際のところ生活の目処が立ったばかりで高価そうなこの品に見会うだけの対価を支払う力がなかったからだ。
「どうか受け取って下さい。お世話になりましたし……そして何よりもどうやって見つけだそうかと思い悩んでいた精霊樹の森に私を誘って下さった事への感謝の気持ちです……」
エリスは周囲の森の木々を見渡すように眺め改めて、持っていたダンジョンコアを差し出した。
クランルームに関わるシステムは確かに私の力ではあったが、だからと言って私が何か特別な事を行った訳でもなかったので、感謝されると逆に申し訳なく感じてしまうくらいだった。
「有り難う……実際のところ私が何かをした訳ではないんだけどね……あっ!」
私がその小さなダンジョンコアを受け取った瞬間――
《条件達成により、特殊スキル【システム管理AI】の解放を行います……》
《ダンジョン機能の解放を行います……》
《……ハウジング機能の解放を行いました……管理領域の拡張を確認……》
《……完了しました。【ステータス】表示を行います》
《名称》ビスタ
《年齢》0歳
《種族》下級精霊
《システムレベル》1/5 NEXT ダンジョンコア 0/2
《特技》【ウィンドブレード】【ウィンドシールド】【鑑定】【収納】【ステータス】【契約】【分解】【合成】【浄化】【心話】【システム管理AI】
《所属》[クラン名:マーシャルS.E.N.S.オンライン]
《特記事項》システム管理AI
――クランルームが解放された時とは比べ物にならない変化が訪れた。
(システムレベル? ……それに【システム管理AI】ってスキルだったんだ……ダンジョンは台座の存在から予想していたけどハウジングまであるなんて……それに下級精霊に進化した……)
「大丈夫ですかビスタさん?」
私が余りの変化の多さに固まったようになっていたので心配したセナが声をかけてきた。
「ああ、ごめんね……実はダンジョンコアを受け取ると同時に色々とまた力を得たみたいなの。どうやら私が成長するのにダンジョンコアが必要みたいなのよね……まあ得た力については追々説明するから」
私の説明になっているのかいないのか分からないような話に、セナは頷くと「ビスタさんの力ですか……何が来るのか楽しみなような、怖いような……」なんとも複雑な表情でそう言った。
「まあとにかく確認したい事が色々と増えちゃったみたい、ほらあれ見て」
私が指差した方角に皆の視線が向いた。
――そこは白い霧が立ち込め、透明な壁がある当たりだったが……そこに石造りの門のような物が建っていたのだった。
「いつの間に門が! それに門から向こう側の景色が見えますね!」
エリスが興奮して走りだし門の側に駆け寄っていった。
「エリス様、お一人では幾らなんでも危険です!」
ロゼが慌てて動き出し、他の皆もそれに追従した。
「これは……まさか!」
エリスの声が響き、門の先には村くらいならすっぽりと収まりそうな柵に囲まれたかなり広い広場があり、その中央に他の精霊樹とは明らかに違う風格のような物が漂う巨木がそびえ立っていた。
フラフラと進み出したエリスが「間違いありません……まだ若木ですが世界樹です……」
エリスの声が少し震えているように感じた。
「エリス! 無事だったようですね。心配しましたよ」
世界樹の若木から精霊が飛んで来るのが見えた。何処かで見たような姿だと思ったらどうやら自分に似ていたのだ。
「シルフ……無事だったのですね! あの時、消滅してしまったものとばかり……」
やって来たシルフはエリスの肩に座ると感慨深げにエリスを見上げ……
「確かに一度は消滅しました……ですが不思議な事なのですが、先程この若木の根元で目覚めたのですよ」
私はこのやり取りを聞きながら、管理領域の拡張というシステムメッセージの事を思い出していた。
(私の力は現実の一部を切り取って自分の都合の良い形にして取り込んでいる……これがシステム管理AIのスキルの解放された力……)
周囲の精霊の森を含めて、今までのクランルームと周囲の小さな精霊樹の森とはその規模が違ってきている。
――下級精霊が持つには余りにも過ぎた力に思われたのだった。
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