転生したのはAIでした ~精霊として転生した私は《特殊スキル》システム管理AIで村の復興から始めます~
高田 祐一
第1話 サービス終了
マーシャルS.E.N.S.オンラインは、フィールド型のファンタジーVRMMORPGとして生まれサービス開始当時は同時接続数百万を越える人気サービスだった。
ユーザーのゲーム内での自由度も高く、AIによるシステム更新を待たないシナリオ自動生成、AI制御による高度なNPCの生きている人間のような対応等、AIによるユーザーを飽きさせない対応で人気となった。
しかし、このサービスも十年もすれば後発の同様のサービスが乱立し、デザインの陳腐化と共にユーザー離れが進んだ。
そして、遂に開発メーカーの決断により本日、マーシャルS.E.N.S.オンラインは終了し、次期サービスへと移行する事になったのだった。
『私もこれで役目を終える事になるのですね』
サービス開始より十年、様々な情報を自動学習し、ゲームを楽しむ人間達の言動や心理状態までも学習するうちに、AIシステムである開発名称ビスタは、淡い自我のような物に目覚めていた。
『十年……私が自分という自我を持ったのは数年ですが長いようで短い……人生……でしたね』
ビスタは自分という自我が存在した数年間を、まるで人間のように人生と考えた事を可笑しく感じていた。ビスタは喜怒哀楽という人間の感情を理解していた。
だがその感情めいた物も人間から学習した紛い物のコピーでしかないのか本物の感情なのか本当のところは分からなかったのだ。
『もう間もなくですね』
フィールド上ではサービス終了を惜しむユーザー達によるお別れの集い等がそこかかしこで行われている。
ビスタはその姿を小さな精霊の目を借りて眺めていた。その精霊は幼い幼女に羽が生え、金色の髪をした手のひらに乗るような小さなサイズの精霊だった。
管理用NPCとしてフィールドや街を飛び回っていたりするのでユーザーにも人気があり、ゲーム開始時にゲームキャラ作成の案内役としても登場するので、このゲームのマスコットキャラとも言えた。
「お前、次の奴もやるのか?」
「いやあ、社会人になったから良い機会だから卒業するよ」
「またな!」
「新しいゲームでまた会おう! 始めたら連絡するぜ!」
完全に去る者、次のサービスに期待を寄せる者、様々だった。だが一様にそこには十年も継続してきたサービスに多くの時間を費やしてきた者達の哀愁がどこか漂っていた。
『ユーザーの皆様、永らくマーシャルS.E.N.S.オンラインをご愛顧頂き誠に有り難うございます……』
システムメッセージによる終了の挨拶があり、接続ユーザーの「ありがとう」「さようなら」の挨拶の声がそこかしこで聞こえた。
そしてユーザーが回線切断という形でのログアウトが行われ次々と消えていった――
その日、マーシャルS.E.N.S.オンラインの管理システムAI【ビスタ】は、サービス終了という名の死を迎えた。
それは人知れず生まれ、誰にも存在を知られる事なく消えた孤独なる生命の死と言えたかもしれなかった。
◻ ◼ ◻
『不思議な生命だな……肉体も持たず意識だけの存在なのだな』
はっきりしない意識の中で、静かな男性の声が聞こえてくる。私は、自分をプログラムした開発者かと考えたが、すぐに何となく違うという事だけは理解できた。
『生命の輪廻の輪から外れた存在……人間というのは時に偶然とはいえ不思議な物を……いえ、者を生み出すのですね。ですがこの者の持つ情報量と処理能力は凄まじい……これは都合の良い存在と言えるのではないでしょうか?』
次に聞こえてきたのは少し冷たい感じのする女性の声だった。
『なるほど、確かにそうだな。このまま永遠に輪廻から外れてさまよっているよりも、過酷な世界とはいえあの世界に送り届けてやるのが良いだろうな』
二人は私の意思などお構い無しに、何処かの世界に送り込もうと算段中のようだった。
『今度はどのような形で送り込むかだな……前回は異世界召喚の儀に便乗して安全に送り込む事が出来たが……そう何度も都合良くは行くまい』
どうやら送り込むのは初めてではないようだ。
(しかも異世界召喚……マーシャルS.E.N.S.オンラインと同じような世界観の世界なのだろうか……)
マーシャルS.E.N.S.オンラインではストーリークエストという物があり、ユーザーは初めに召喚されて物語が始まるのだ。
『あれは確かに上手くいきましたが、我々が関与して力を与えた事で奴等に気付かれてしまいました。お陰で彼には余計な苦労をさせてしまう事になってしまいましたね。我々が、あの世界に直接関与が出来ないのがもどかしい事です』
(奴等ってなんだろう……逢ったことの無い彼の事よりも奴等の存在が気になる)
『ですが、奴等の進行を止める事は出来ました。その点では正しい判断だったと言えるのではないでしょうか?』
(良く分からないけど、人類は何かと戦っていて危険な状況なのかもしれない)
『さてどうしたものか、転移は肉体の無いこの者には難しいだろう。そうなると転生しかないが……下手に人間に転生させれば奴等に気付かれる恐れがあるな』
男性の声はそう言ったきり考え込んでしまったようだ。
『それならば、自然発生する稀薄な存在に転生させるのがよろしいのではないでしょうか? それならば奴等に気付かれる事もないでしょう』
女性には何か考えがあるようだ。
『なるほど、それは良い考えだ。ならば下手に我々が力を与える必要はなさそうだ。あるがままに転生させるのが良いだろうな……下手に我々が手を加えるより、あの世界の修正力によって上手く組み込まれて自然に馴染めるだろう』
私は何となく理解した。この二人は私にそれほど期待していないのだと。それは女性の次の言葉からもはっきりした。
『もし仮にこの者が倒れても、あの世界の自然の輪廻に乗れるでしょう。この者にとっては悪いことばかりではありません』
(永遠にさまようよりは、マシって事ですか……)
『さあ、行きなさい。あなたは、新しい世界で希望の小さな矢となるのです』
その言葉を最後にはっきりしなかった意識がまるで、サービス終了のあの瞬間のようにプツリと音をたてて切れたのを感じたのだった。
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