発狂頭巾アトミックわくわく動物スペシャル~発狂頭巾vsバイオ殺戮オランウータン!悲しき復讐者の猿叫が、原子力江戸に木霊する!~
デバスズメ
本文
(これまでのあらすじ:原子力江戸歴XXXX年。先の原子力奉行、吉貝狂四郎は不慮の事故によって命を落とす。だが、時の平賀アトミック源内と杉田バイオ玄白の手によって体内に小型原子炉を埋め込まれて息を吹き返す。かくして、夜な夜な世が裁けぬ悪を裁く発狂頭巾アトミックとなったのだ。)
今日も今日とて、平和な原子力江戸の町を歩く岡っ引のハチが、何かを背負って歩く吉貝を見つける。
「吉貝の旦那!その背中におぶってるのは……」
「うむ、先ほど森の方で見つけたのだ。あまりにも弱っているのでな。杉田バイオ玄白先生に見てもらおうと思う」
「い、いや、弱っているって言っても、そいつぁ……」
ハチは言葉に詰まる。吉貝が背負っているのは人間ではない。形は人に似ているが、全身が茶色く長い毛で覆われ、腕の長さは脚の倍はあるだろうか。
「うむ。バイオオランウータンであろうな」
吉貝は当たり前のように答える。
「い、いや、そりゃあアッシも分かってるんですがね。なんで原子力江戸の外れにバイオオランウータンが?」
「わからぬ。だが、救える命があるならば、それが人であろうと動物であろうと物の怪だろうと構わぬだろう」
「そりゃあ、旦那ならそうでしょうな」
実際の所、小型原子炉を埋め込まれた吉貝ならば、親近感を感じて物の怪の一匹や二匹を拾ってきてもおかしくはないだろう。今回はそれがバイオオランウータンだったというだけだ。
「とにかく急ぐぞ。ハチ、お前も来るか?」
「へい!」
それなりに人通りが多い道中、バイオオランウータンを背負った吉貝だけでは何が起こるかわからない。ハチはすれ違う人に怪しまれぬよう声をかけながら、吉貝と共に原子力江戸城に向かっていった。
……場所は変わって、原子力江戸城地下奥深くの研究室。青いの核御紋が淡く光るフスマを開けて吉貝とハチが入室する。
「杉田バイオ玄白先生!おられるか!」
吉貝の声が地下研究所全体に響き渡る。
「そんな大声出さなくても出てくるよォ」
奥のフスマを開けて出てきたのは杉田バイオ玄白。4本の腕を持つ女科学者である。
「ん?おやァ?いったい何を連れてきたんだィ?」
杉田バイオ玄白は吉貝とハチに素早く歩み寄る。
「バイオオランウータンだ。弱っている。助けてやれぬか?」
「旦那が森で見つけてきたんでさぁ」
「ほほゥ、なるほど……。とりあえず医務室に行くよォ!」
杉田バイオ玄白は医務室に向かって歩き出す。バイオオランウータンを背負った吉貝とハチもそれに続く。
……それから時間は少し経過し、医務室(という名の実験室)では、栄養点滴を打たれたバイオオランウータンが診察台ですやすやと眠っていた。
「目立った外傷も無いし、骨も内蔵も健康そのもの。ただの過労だろうねェ。一日ぐっすり寝かせて、うまいものでも食わせてやれば元気になるだろうさァ」
「杉田バイオ玄白先生、感謝する」
吉貝は深々と頭を下げる。
「ただ、問題があるねェ」
「問題ってえと?」
ハチが不安そうに問う。
「このバイオオランウータンがどこから来たのかってことさァ。原子力江戸周辺に野生バイオオランウータンが出たって話は聞いてないしねェ」
杉田バイオ玄白は首をかしげる。
「うむ。こやつの体内含有アトミックも調べてみたが、このあたりの土地の数値と一致しないみたいじゃのう」
いつのまにか横にいた白髪髷の平賀アトミック源内が、アトミック演算器の数値を見て答える。
「ということは、こやつはどこに返してやればよいか分からぬということか」
「そういうことだねェ」
「旦那、どうします?」
「……このバイオオランウータン、ひとまず俺に預からせてはくれぬだろうか」
ハチの問いに、少々の間をおいて吉貝が答えた。
「ま、あと一刻もすれば栄養点滴も終わるし、好きにしたらいいさァ」
「吉貝が世話をすると言うなら、ワシも止める理由はないしのう。なに、明日にはこやつがどこからきたのかも調べは付くじゃろうて」
杉田バイオ玄白と平賀アトミック源内は吉貝の提案を快く受け入れる。
もっとも、二人は吉貝からの申し出がなくても、バイオオランウータンを吉貝に預ける予定だった。目覚めたらどことも分からぬ場所にいるよりは、自分を助けてくれた吉貝のそばの方が安心できるというものである。
「かたじけない」
吉貝は再び深々と頭を下げた。
……翌日、吉貝の住む発狂長屋の一室。
「おお、オラ之助、目覚めたか」
吉貝はいつの間にかバイオオランウータンに、オランウータンのオラを拝借してオラ之助と名付けていた。
「ホキャ?」
ムクリと起き上がるバイオオランウータンの視界には、優しき顔の吉貝が映っていた。
「どうだ?痛むところはないか?」
吉貝はオラ之助に話しかける。無論、言葉が通じるとは思っていない。心が通じると信じているのだ。
オラ之助は部屋の中をゆっくりと歩く。まるで、自分の体の具合を確かめるように。少し歩いて体に異常がないことを確認したオラ之助は、やがて走り出し、ついには部屋の中を飛び回る。
「ホキャ!ホキャ!」
「ハハハッ!暴れるでない!」
オラ之助をなだめる吉貝であったが、その目には部屋が壊される不安の色など一切なく、ただ、オラ之助が元気であったことを喜ぶ笑みのみがあった。
「どれ、元気になったことだし、団子でも食いに行くか」
吉貝はオラ之助に手を差し伸べる。
「ホキャ!」
バイオオランウータンは吉貝の手を取った。無論、言葉が分かったわけではない。オラ之助は、敵愾心の一切ない吉貝に、本能的に心を許したのだ。
……それから吉貝とオラ之助は、原子力江戸の街へと繰り出した。途中でハチとも合流し、二人と一匹は団子屋でのんびりしていた。
「しかし旦那、そのバイオオランウータンってのは、だいぶ賢いんですねえ」
ハチは横に座るオラ之助を見る。
オラ之助は吉貝の動作を見て、見様見真似ではあるが、団子が刺さった串を掴み、串を噛み砕かぬように団子だけを食べる。
「いやあ、器用なもんですよ!」
「ハチ、動物を侮ってはならぬぞ。とくにこやつは霊長類。俺たちと近いのだからな」
驚くハチに淡々と答える吉貝。
「ヘヘっ、こいつぁすいやせん!」
「ホキャ!ホキャ!」
平謝りするハチを見て、オラ之助が手を叩いて笑ったように見えた。
「ハハハッ!ハチよ、霊長類に笑われているようであれば世話はないな」
「そんな~!ひどいっすよ旦那ぁ!」
なんて言ってはいるが、ハチも笑っている。ハチと吉貝は昔からの付き合いだ。こういった掛け合いは何度もやってきた。お互いの信頼関係におけるお約束のようなやり取りだ。
その後も、二人と一匹は原子力江戸を歩き回り、オラ之助の飼い主につながるような情報を調査した。だが、結果は芳しくなく、結局その日は成果なし。オラ之助は前日に引き続き、吉貝の発狂長屋で寝ることとなった。
何事もなく平和な日々が続くかと思われた。だが、翌日。事件は起こった。
「旦那ぁ!人斬りでさぁ!」
寝起きの吉貝の耳にハチの声が響き渡る。
「なんだと!?」
吉貝は、まだ眠っているオラ之助を部屋に残し、殺人現場へと向かった。
……
「こ、こりゃひでぇ……」
死体を見たハチは思わず息を呑む。胴体の切り傷は凄まじく、袈裟懸けに複数の切り傷がある。一撃で仕留めた後に何度も切りつけた傷だろうか。あるいは……。
「おい、目撃者はいないのか?」
吉貝は先行調査をしていた同心に問う。
「いやあ、それが誰もいねえんだ。ただ、夜中に妙な声を聞いたって証言がある」
「妙な声?」
「ああ、なんだが『キャエエエエ!』みたいな叫び声を聞いたって証言がいくつかある。時間もだいたい同じくらいだから、おそらくは被害者の声じゃねえかと思うんだが……」
「被害者の声だと?」
吉貝は不思議そうに問う。
「ああ、斬られたこいつだが、原子力薩摩藩の武士だ。数日前に参勤交代でこっちに来ていたのは調べが付いている」
「ふむ……」
原子力薩摩藩の武士と言えば示現流。恐るべき猿叫と共に浴びせられる初太刀は、受けた刀ごと相手を真っ二つにぶった切ると言われている恐るべき剣術だ。
(しかし、だとすれば妙ではないか……?)
吉貝は上の空で思案する。
(示現流の一太刀は相手を見定めて切り込む一撃必殺の太刀だ。しかし、こやつは何度も切られておる。それに……)
吉貝は被害者の手を見る。
(こいつの刀はどこにいったのだ?)
吉貝の思案の通り、被害者が握っていた刀が周辺に無いのだ。無論、金目当てに誰かが拾っていったという可能性はある。だが、吉貝の青く光る瞳は、別の可能性を“視”ていた。
体内に小型原子炉を埋め込まれた吉貝は、時折常人には見えないものが“視”えることがある。電子の揺らぎを感じてか、あるいは原子炉の極度演算が見せるのか。過去視、未来視、あるいは遠見や透視とも言えるものが、吉貝には備わっているのだ。もっとも、狙ったタイミングで視えるわけではないので、頼ることは難しいのだが。
「ハチよ、今日はひとまず帰る。お主は平賀アトミック源内先生の所に行き、オラ之助の件について確認を頼む」
そう言った吉貝の表情は、どことなく悲しいものに見えた。
「……へい」
ハチはそんな吉貝の表情を見て、何かを察したように原子力江戸城に向かった。
……場所は変わって、原子力江戸城地下奥深くの研究室。ハチが入室してから随分と時間が立ち、時刻は深夜となっていた。
「平賀アトミック源内先生、まだですか?」
「おお、ようやく結果が出たぞい……」
満身創痍の平賀アトミック源内が研究室から
「それで、あのバイオオランウータンはどこから……」
「それなんじゃがのう。バイオオランウータンの体毛に付着しておった物質が、桜島密林の物と一致したんじゃ」
「桜島密林っていやぁ、たしか原子力薩摩藩の……」
ハチは息を呑む。
「そうじゃ。半年ほど前のことじゃ。原子力薩摩藩は核高(原子力江戸っ子が生きていくために必要な核エネルギーの生産量を表す単位)を増大するために、秘密裏に桜島密林の開拓を行っておったようじゃ。桜島密林は未開の地。どんなバイオ生物がおるか分からんかったが……ともあれ、桜島密林の一部の開拓に成功。核高を大幅に増やしておる」
「なんでわざわざ、こっそり秘密でやってたんですかい?」
脳天気なハチに対して、平賀アトミック源内はどうにか答える。
「よいか?桜島密林には様々な原生バイオ生物が住み着いておった。そこを開拓するということは、彼等の生活区域を侵略するということじゃ……」
「それじゃあ、もしかして、あのバイオオランウータンは!」
「急げハチ。あのバイオオランウータンは……吉貝は……」
それだけ言うと、平賀アトミック源内は倒れるように眠りについた(杉田バイオ玄白が4本の腕で布団に運んでいった)。
「旦那ぁ!早まらねえでくだせぇよ!」
ハチは原子力江戸城から出てひた走る。目指す場所は無論、吉貝が赴く場所だ。
……場所は変わって発狂長屋。時刻は丑三つ時。吉貝はムクリと起き上がる。
「……やはり、か」
吉貝は部屋の中に誰もいないことを確認すると、どこからともなく頭巾を取り出して顔を覆い、小型原子炉の回転数を上げて、原子力江戸の夜を走り出した。
吉貝には、今回の人斬りの犯人が分かっていた。だが、信じたくはなかった。信じたくはなかったが、全ての状況証拠と、なにより吉貝の青く光る瞳が見た景色が、ただ一つの可能性を示していた。
……吉貝は走り、そしてたどり着いたのは原子力薩摩藩の江戸屋敷。吉貝の嫌な予感、もとい、原子のゆらぎが見せた未来視が、いま現実となった。
「キャエエエエ!」
聞き間違えようもない。まさしくオラ之助の声だ。
「オラ之助!?」
頭巾を被った吉貝は声のする方に向かって走る!
江戸屋敷の中は惨殺死体で埋め尽くされていた。参勤交代してきた原子力薩摩藩の薩摩武士はすべからく切り捨てられている。
「オラ之助ぇ!!」
吉貝は江戸屋敷の奥に突き進む!そこで吉貝が見たものは、刀を握ったオラ之助が、今まさに人を殺めた場面だ!
「オラ之助ぇ!!」
「ホッ……!」
呼びかけられたオラ之助が振り返る。そして……。
「ホキャーーーーッ!!!!」
オラ之助の吉貝の目が合った。刀を握るオラ之助の瞳は、殺意と興奮のあまり赤く輝き、もはやオラ之助としての意識は無いように見えた。
「左様であるか……」
吉貝は頭巾の下で涙を流す。
「お主は、復讐せねば、生きてはおられぬのだな……」
吉貝が抜刀の構えを取ったその時だ。
「だ、旦那ぁ!」
原子力江戸城から走ってきたハチが、息も絶え絶え駆けつけてきたのだ。
「そ、そのバイオオランウータンは……」
「よい。よいのだ、ハチ」
「え?」
吉貝は全てを見通したような瞳で、真実を語る。
「桜島密林の無断開拓。それによって殺されたバイオオランウータン。あやつは……オラ之助は、その恨みを抱え、遠く原子力江戸までやって来た」
過去に妻子を亡くした記憶を持つ吉貝には、オラ之助の悲しみが痛いほどよく分かった。ましてや、全ての仲間を殺され、いまやひとりぼっちとなってしまったオラ之助の心中たるや……。だが、吉貝は同心である。動機はどうあれ、殺人者が人間であらずとも、切り捨てなければならない。
「仲間の仇、討たねばならぬというのも道理。しかし、不意打ち闇討ち手段を選ばずというのであれば、もはや仇討ちにあらず!」
吉貝は自分に言い聞かせる。戦う覚悟を決めた吉貝の瞳が、青く輝く。
世に巣食う悪党たちに江戸伝説めいた噂があった。どんな悪事も見逃さない“青い眼の侍”がいるという噂。狂人じみた剣術で死体の山を築く、恐るべき始末人がいるという噂。そして、青く光るウラン刀を振るう
吉貝が、否、発狂頭巾が、抜刀したウラン刀を握りしめ、声高々に吠える!
「狂っているのは、お主の方だ!」
カァーッ!!(ビブラスラップの音)
「ギョワーッ!!」
発狂頭巾がウラン刀でバイオ殺戮オランウータンに斬りかかる!
「キャエエエエ!」
バイオ殺戮オランウータンは大振りの一撃を回避!片手で刀を持ったまま、もう片方の腕で天井のハリを掴む!
「ホギャギャギャギャギャ!!」
バイオ殺戮オランウータンは発狂頭巾に対して高さのアドバンテージを取り、そのまま連続で斬りつける!発狂頭巾の青く光る瞳とバイオ殺戮オランウータンの赤く輝く瞳が、暗闇の中で幾重にも交差し、その残像が戦いの激しさを物語る。
「ギョワーッ!! ギョワーッ!! ギョワーッ!! ギョワーッ!! ギョワーッ!!」
発狂頭巾はなんとか耐えるが、人間の数倍の握力を持つバイオ殺戮オランウータンの剣戟を受け止め続けるのは容易ではない。
「ギョワーッ!!」
発狂頭巾は大きくバックステップ!月光が照らす白洲の中庭に逃げる。
「キャエエエエ!!」
バイオ殺戮オランウータンも発狂頭巾を追ってくる。だが、この庭には掴める木や屋根がない。発狂頭巾が地の利を得たのだ!
「ギョワーッ!!」
地に足をつけたバイオ殺戮オランウータンに大上段からの脳天唐竹割りを仕掛ける発狂頭巾!だが!
「キャエエエエ!!」
バイオ殺戮オランウータンが大跳躍!
「ギョワーッ!!」
空振りした刀が白洲にめり込んだ発狂頭巾は、自らの刀を抜くことに精一杯だ!すかさずバイオ殺戮オランウータンの必殺斬撃が襲いかかる!!
「キャエエエエ!!」
バイオ殺戮オランウータンの刀が発狂頭巾の左肩から右脇腹にかけて滑り込む。……一瞬の間をおいて血飛沫が舞った!!
「ギョワーッ!!」
全身からおびただしい量の血液を噴出する発狂頭巾!バイオ殺戮オランウータンが声高々に勝ち名乗りを上げる!
「ホギャアアア!!」
ああ、もはやここまでか!?
……否!!
「ギョワーッ!!」
叫声一閃! 発狂頭巾は体内原子炉を急速稼働!劇的な核分裂で細胞分裂を活性化して、致命傷を高速修復!
「ホギャア!?」
あまりの出来事に戸惑うバイオ殺戮オランウータン。その隙を見逃す発狂頭巾ではない!
「ギョワーッ!!」
横一文字のチェレンコフ光一閃!その一撃は、油断してガラ空きになったバイオ殺戮オランウータンの腹を掻っ捌いた。
「ホギャアアアアアアアアアアアアア!?」
バイオ殺戮オランウータンは文字通り断腸の痛みに刀を落とし、腹を抱えて転がりまわる。
「ギョワーッ!!」
発狂頭巾は間髪入れずに大上段からの一撃でバイオ殺戮オランウータンを斬首し、介錯を行った。たとえそれが人でなかったとしても、仇討ちをして散っていく命には武士の魂が宿っていた。少なくとも、発狂頭巾にはそう見えた。であれば、武士として介錯してやらねばなるまい。
決着はついた。
「ギョワーッ!!」
だが、発狂頭巾は刀を納めない。否、納められないのだ。
「ギョワーッ!!」
急速新陳代謝によって、体内原子炉は限界まで稼働していた。このままでは暴走してメルトダウンだ。その時!
「旦那ぁ!!」
発狂頭巾の背後に突進する男が一人。ハチだ!その手には制御棒短刀が握られている。
「臨界御免!!」
ハチが制御棒短刀を発狂頭巾の背中から腹に貫通するように突き刺す!
「ギョワーッ!!」
発狂頭巾に突き刺さった制御棒短刀が、いい感じに体内原子炉の核反応を中和する。
「ギョワー……」
発狂頭巾の狂度が低くなったところで、ハチは制御棒短刀を引き抜く。傷口は細胞分裂によってすぐに塞がった。
「旦那、しっかりしてくだせえ!」
「お、おお、ハチか……」
発狂頭巾は……吉貝は、安定した稼働状況で納刀した。
「いつもすまねえな」
「へへ、ソレは言わねえお約束ってもんですよ!」
吉貝とハチはにこやかに笑い合った。
……翌日、原子力江戸の外れの森。吉貝は小さな石をいくつか積み重ねた簡素な墓に団子を供えていた。
「お主は罪を犯した。だが、人の法ではお主に罰を与えて罪を雪ぐこと叶わぬ。ゆえに、我が太刀でもってその罪を浄化した。成仏し、仲間の元へと旅立つが良い」
吉貝は独自の供養を行うと、墓を後にした。悲しき復讐者、バイオ殺戮オランウータンの復讐の旅路は、ここに終わりを迎えたのだ。
「旦那ぁ!こんなところでなにしてるんですか?」
しんみりした空気を突き破るようにハチがやって来る。
「おお。ハチか!いやなに、少しばかり森の顔が見たくなってな!ハハハッ!」
「森の顔……?なんのことかわかりませんが、事件なんですよ事件!早く来てくださいよ!」
「何!?そうと決まれば早速行かねばなるまい!行くぞハチ!」
言うが早いか、全速力で駆け出す吉貝。
「ま、待ってくださいよぉ!」
ハチも懸命に吉貝を追いかけていった……。
原子力江戸の町が闇に染まる時、闇を晴らす青き危険な光あり。誰が呼んだか発狂頭巾アトミック。ああ、チェレンコフ光が、今日も平和な町を照らす。
発狂頭巾アトミックわくわく動物スペシャル~発狂頭巾vs殺戮オランウータン!悲しき復讐者の猿叫が、原子力江戸に木霊する!~
おわり
発狂頭巾アトミックわくわく動物スペシャル~発狂頭巾vsバイオ殺戮オランウータン!悲しき復讐者の猿叫が、原子力江戸に木霊する!~ デバスズメ @debasuzume
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