第二話 相棒
その中で知ったのが、文輝の進学先である
厳しい気候。中央から下ってきたという異質さが生み出す敬遠。見知ったものは誰もいない。敵地にでも来たのではないかという感覚すら与えて、文輝の二年間が飛ぶように過ぎ去った。
律令の勉学はあまり得意ではなかったし、孤立している文輝には
苦労の二年が実を結び、晴れて文輝が中央復帰を果たしてからもう二年半が過ぎた。
官吏登用試験の受験資格には明確な区分がない。だから、ごく稀にだが西白国出身でないものが受験することもある。外国籍のものが国政に携わることは許されていないから、国官として登用されればその時点でそのものは西白国の籍を得る。勿論、事前に国府の然るべき機関によってそのものの身辺調査は済まされている。そのことを知ったとき、文輝は思った。美しい理念を掲げている美しい国だと思っていた自国もそれほど万能ではなかったのだ。人は人である以上、人を差別する。家族か他人か。地方か中央か。武官か文官か。結論から言えば、自分か他者か、という尺度が他の国々と少し違っているだけで、誰しもその概念の一端は受け継いでいる。
だから。
戦後処理の一環として、文輝に許された最初で最後の右官登用試験を受けるに際し、文輝の命運を託す相手が自国の出身者でないと判明したとき、どうしてだか無性に安心した。利発そうな顔つき。野望を宿した双眸。東方大陸の出身であることを隠しもしない青みを帯びた黒髪。文輝たち
国政の根幹である為の教育を受けてきたからかもしれない。
九品の生まれを未だ誇っていたからかもしれない。
生き別れた学友への罪滅ぼしか、顔見知りの国主への同情か、そういった何らかの逃避から始めたことだったのかもしれない。
それでも。
文輝は国官として本来の意味での繁栄と安寧を生み出したいと願ってしまった。
成人の儀礼――
そのことを文輝の相棒――
わかっている。人も怪異も獣たちも誰しも生れ落ちる場所を選ぶことは出来ない。人に生まれたことを呪い、嘆き、悔いながら生きるのも、それらと向き合いながら生きるのも。自分の生き様を自分で決める権利だけが人に許されている。
ただし、それは人だけが持つ自己との対峙と言う意味があってなさそうな煩悶と表裏一体なのだが、そのことを直視出来るほどには文輝はまた成熟していなかった。
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