脳髄の切除、又は指先の思考
真部博
第1話エコバックというエコじゃないもの
レジ袋の有料化が決まり1年が経った。一体何を言っているのだと思っていたのだが、月日が経ってしまえば何も疑問を持つこと無くなった。
少しでもお金を払いたくないという貧乏根性で、レジ袋は必要化の問にいらないときっぱり断り、買った商品をまるで戦利品のように周りに見せびらかすように掴み、帰路へ向かう。そんな日々を続いていた。
稀に自炊でもしようかと興が乗れば、わざわざ持っていた35Lのバックパックを背負い、スーパーへ行く。会社から帰りに何かしら買った際、リュックに入り切らない場合は、少々の支払いは仕方がないとレジ袋を買う日もあった。
絶対私はエコバックなるものを買うという選択肢はなかった。
そんな私はついに買ってしまった。エコバックを。
きっかけは、柄になくおしゃれな珈琲店に入ったことだろう。
大型ショッピングモールの中に位置するその店に、ふらりと入ってしまったことだろう。普段安物のそれらしい味が出れば良いようなものを購入していた。好みも何もなく、只々飲んでいた。
そんな私でも仕事場の上司に美味しいよと言われたものに惹かれるものがあった。これまで珈琲を美味しいと思うことなど缶珈琲の甘さでしか無い。珈琲の美味しさ=砂糖、牛乳、練乳の甘味なのだ。
店に入る。丁寧に並ばれた商品の中には、海外から輸入されただろう外国語が表記された商品が目についた。それらを物色するマダム、店から漂う珈琲の香ばしい香り。
普段行く場所がスーパー、コンビニ、本屋ぐらいしか思い浮かばない私からすれば、異世界にでも来たような気分になった。嘘だ、そこまでにはならない。ただアウェー感というか、場違い感ばかりが積もる。
どうせ洒落から縁のない、根暗で散らかった暗い部屋でただ黙々と頁を捲る根暗な人間だと、何故か劣等感が湧き上がってくるから不思議である。全然関係ないだろ劣等感。ここはスーパーとかと変わらんだろう。そう自分に言い聞かせるが、深く根付いたネガティブな魔物は簡単には引っ込んでくれないものだ。
ただひたすら、目的の品を購入して帰りたい、気持ちが溢れ出していた。穴蔵に戻りたい。上司に教わった商品を掴みレジへ向かった。このとき私はどうかしていたのだと思う。
袋はどうするか。問われたとき思考が停止していた。
もうどうでもいい。
帰りたい。
「こ、これで」
指差してしまったのは、エコバックだった。
全く無駄な買い物というのは、小学生以来だったかもしれない。
玄関に置いてある買ってしまったエコバックを見ると、なんで購入してしまったのだろうという気持ちにならざる負えない。しかし買ってしまったものだから使わないといけない。
レジ袋大が10円くらいだったはずだから、250円の元を取るには最低25回......。しかしレジ袋を使う機会なんて限られているのだから、5年経たないと、元を取ることができないと想像する。
これとの付き合いは長くなりそうだ。
脳髄の切除、又は指先の思考 真部博 @kosamehiro
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。脳髄の切除、又は指先の思考の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
浮気の代償最新/くぼ あき
★0 エッセイ・ノンフィクション 連載中 2話
ごみ箱最新/山田
★0 エッセイ・ノンフィクション 連載中 9話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます