第208話 信頼

 フィー君とファルちゃん、私の三機で飛来した所属不明機とその随伴機を迎撃すべく飛んでいく。FCSにオオカヅチの発射準備を指示し、飛行ルートと起爆座標を入力する。


「先制弾、行くよ!」


 本来ならいくら所属不明機とはいえ、無警告で発砲するなんて穏やかじゃない真似しないけど…三人とも接近中の反応が敵以外の何物でもないと確信していた。発射ボタンを押し込み、オオカヅチを切り離す。激しい炎を吐き出して加速する太いミサイルは緩やかなS字を描きながら十三の輝点へ向け飛んでいく…が、私が指示した起爆座標に到達する前に空中で爆発してしまった。


「ちぇ、やっぱり撃墜されちゃうか…」


「マッハ7.5の飛翔物体を観測、接近中の敵機はレールガンを装備しているようですね。ケイフュージュにとどめを刺したのも同一の武装であると思われます」


 既に満身創痍だったとはいえ、ケイフュージュの巨体を一瞬でバラバラにした武装…ということは今だって真っ直ぐ飛んでたらまずいんじゃないかな?


「マジかよ、戦闘機にレールガンとか…まさかこれがスタンダードになったりしねぇよな?」


「さすがにそれは無いでしょう。開発が難しい兵器ですし、砲弾も専用の物が必要になる点を考慮すると決してコストパフォーマンスのいい装備ではありませんから」


「ならいいんだがな。乱数回避しつつ接近、懐に入れば一方的に狙撃されることは無いだろう。各機、ブレイク!」


 フィー君の合図に三機がそれぞれバラバラの方向へ舵を切り、アフターバーナー全開のままS字飛行やバレルロールなどを織り交ぜて接近を試みる。


「! バンシー5よりアズライール1、敵が二手に分かれます!」


 ファルちゃんの言葉通り、前方で八機と五機の二手に分かれる機影。片方は針路を変えずこちらに向かってきて、もう片方は上昇して西を目指しているようだ。


「オレたちはデカ物の処理を優先だ、分離した方は構うな!」


 フィー君はそう言うけど、上昇していく機影とレーダーディスプレイを見て気付いた。針路の先にマホロバの三隻がいて、艦隊との最短到達距離をマッハ3で飛んでいく。もう反乱側の航空機はいないし、フィンバラに向かうわけでも無い。あの八機の狙いは明らかだ。


「アズライール2よりアマテラス、所属不明機八機がそちらへ向かう。対空防御を厳に!」


「こちらアマテラス、了解」


 発艦前、確か二個小隊が即応待機していたはず。艦隊防御を担当するツクヨミもいるから、大丈夫かも知れないけど…なんだか胸騒ぎがする。前方を行くイザナギとゼルエルの姿を見て、もう一度レーダーディスプレイに視線を落とし、思考を巡らせ…そして決断する。


「アズライール2よりアズライール1。私は後退して直掩隊と合流、艦隊の防衛にあたるよ」


「後退って…オレたち二人であのデカ物をやれってか?」


「直掩隊がいるのなら任せるべきです。敵機の方が足が速そうです、今から戻っても敵の方が先に艦隊へ到着します」


 二人ともあまり賛同的では無い返事だ。でもここまで接近していてレーダーでも捕捉しているのにファルちゃんから機種特定の報告が無い…それは相手がすべて既知の機体では無いことを意味している。アマテラスの艦載機であるカグツチはイザナギとイザナミを量産用にダウンスペックして開発された機体、私たちで追い付けないなら直掩隊だって性能差がある状態での戦闘になる。レイシャス大佐やミレットが乗っているツクヨミやメファリア准将の乗るスサノオがいると言っても、安心出来る状況ではないと私の中の何かが囁いていた。


「それでも…万にひとつも、アマテラスをやらせるわけにはいかない。戦争を無くしたいって願って立ち上がった人たちがあそこに集まってるんだもん。絶対に護らなきゃいけない、新しい世界の仕組みを作ろうって動きを止めさせたくない。それにミサイル撃ち尽くした後の攻撃手段が無いこの機体は、こういう状況なら母艦の近くで戦ってた方がいいと思うの。だからお願い、行かせて?」


 言うだけは言った、あとは編隊長であるフィー君の判断を待つ。


「……解った、なら行ってこい。こっちはなんとかする」


「うん、有難う! もう一発だけ牽制撃ったら後退するね。先行するよ!」


 スロットルレバーの側面にあるスイッチを押し込む。アフターバーナーとは別の炎がエンジンノズルから噴出し、体が決して柔らかくはないシートにめり込むんじゃないかってぐらいに押し付けられる。激しいGに意識を遥か後方へ置いてきそうになるのを必死に繋ぎ止めながら操縦桿脇のダイヤルをスクロール、兵装選択「クロカヅチ」。弾道、座標入力…っと。


「いっけぇぇぇえええっ!!!」


 発射ボタンを押し込むと同時に操縦桿を手前に引いて急上昇、そのまま機首が西を向いたところで機体を180度ロールさせて天地を戻す。


「それじゃ私は戻るね! あ、バンシー5…ファルちゃん」


 クロカヅチの外殻が外れ、中から八発のミサイルが飛び出していくのがレーダーに表示される反応から読み取れる。よかった、分離前に撃墜されずに済んだみたい。


「なんですか?」


「フィー君の援護はファルちゃんの役目なんだから、頼んだよ?」


 再びロケットブースターに点火し、加速しながら二人の頭上をフライパス。


「……はい、ここは…これだけは、他の誰にも譲れません。言われなくてもフィリルさんには傷ひとつ付けさせはしませんよ。相手がたとえ神だろうと悪魔だろうと、です」


 うん、ファルちゃんになら安心して任せられる。私たちを何度も助けてくれて、同じ人を好きになって…どこまでもひたむきで健気な彼女と恋敵になった当初は精神的に不安定になったりしたこともあったけど、今も昔も誰より信頼出来る相手だ。そんな彼女に旦那様を託し、母艦へと急ぐ。

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