第195話 誰が誰の敵なのか

 まだ開発中だったはずのロンギヌスを装備した超大型戦闘機ケイフュージュの出現により、各地で反攻戦を展開していた空は更に混乱した。手当たり次第…敵味方無関係にその場にいる航空機目掛け攻撃を仕掛けてきたのだ。


「なんだあれは!? あんな図体で、なんであんなスピードが…うぁ!?」


「レーダーに映らない…ロックオンも出来ないぞ!? 一体何がどうなってるんだ!?」


「話が違うぞ、ケイフュージュは俺達側じゃないのか!?」


 戦場から送られてくる情報から推測するに、ケイフュージュはロンギヌス以外にも特殊な装備を搭載しているようだ。光学映像を見るとステルス性を持っているとは思えない形状をしている。なのにレーダーにはその反応を見つけることが出来ない。

 そもそもステルスだからと言ってロックオンが出来ないわけが無い。機体から全方位に対してセンサーを殺す強力なECMを放出していると考えるのが自然だろう。ケルベロス第二小隊諸共グレイスティグ隊を吹き飛ばした後も、フィンバラの南で戦闘中だった部隊へもロンギヌスを放ち、双方に甚大な被害が出た。機体各所のウェポンベイ以外に主翼下にもミサイルを大量に搭載しており、それらを撃ちまくりながら姿勢制御スラスターを駆使して航空力学を無視した機動で襲い掛かっている。


「状況が混乱している、一体誰が味方で誰が敵なんだ!? 指示をくれ、HQ!」


「落ち着け、リャナンシー1! オリオン1より全機、あのデカ物に不用意に近づくな。ヴァルキューレ二機が追ってきている。なら我々は足止めするだけでいい、後はあいつらがなんとかしてくれる。回避に専念し、墜とされないことだけを考えるんだ! チャフとフレアは大事に使えよ!」


 歴戦のエースであるオリオン1が前線指揮を執ってくれるおかげで、総崩れにはならずに済んでいる。アトゥレイとソフィが全速で追っているが、ケイフュージュの進撃速度が早過ぎてまだ追い付けていない。シルヴィの乗るローレライも二人を追って南下していくが…あの子、この状況をどう見ているんだろうか。

 さっきの会話を聞くにどうやらこの状況は彼女の本意とは懸け離れているらしい。自身に背を向けて南下するゼルエルに攻撃を加えるでもなく、二人を追っているのもどちらかと言えばケイフュージュを止めようとしているようにも思える。


「…私がそう思いたい、だけかしら?」


 でもあの子がなんの事情も無くこんな反乱に参加するとは思えない。アトゥレイたちとの会話の中で「いつだってあの人のために飛び、いつだってあの人の味方です」と彼女は言った。それが反乱勢力の精鋭として彼女が現れた理由だろう。「女王が裏で行ってきた数々の非道を知りもせず、知ろうともせず…無関心の罪を重ねたこの国の国民すべてが咎人なのです!」…これはエルダ・グレイの声明にあった内容と関連があるのか。確かに国が裏で何をやっているのかなんて知らないし、知る術も無い。それを罪と言われるのはいささか理不尽な気がするが、とりあえずそこは考えないでいい。

 それがフィリル中佐と何か関連があるのか…直接中佐が関わっているのなら彼女ならむしろ手伝うとか支援する方向に行くだろうし、女王陛下に反旗を翻す側に回ったのなら国が中佐に危害を加えようとした…方がシルヴィの行動には説明がつくけど、国がなんで中佐を狙うのかには疑問が残る。考えようにも情報が少な過ぎて答えに行きつきようが無い。


「なんにせよ、考えるのは後でも出来るわね。民間人の避難状況は?」


「各地で発生した渋滞のせいで遅々として進んでいません。市街上空での空中戦は極力回避するよう伝達済みですが…」


 無理も無いか、各地の基地へ攻撃を加えた地上部隊がどれだけいるのか把握し切れていない中で避難を開始させたのも不味かった。パルスクート基地の外周も警備隊に監視させているが、基地周辺には怪しい動きは無い。先程遠くで爆発音が聞こえたという報告があったが…ここは標的にされていないのか? まぁ敵の狙いが本当に女王陛下だけなら、ここを狙うぐらいなら宮殿へ直接向かうか。

 喜んでいいのか解らないが、ケイフュージュが南東部から西進しながら敵味方関係なく蹴散らしているおかげで元々およそ二個中隊規模だった反乱勢力の航空機はその半数以上を失っている。国境線付近にいた地上部隊の制圧も完了したらしいし、後は国内に散在している地上部隊の制圧に目途がつけばだけど…そっちは手間取りそうだな。無線機に手を伸ばし、マイクを口元に寄せる。


「シュヴェルトライテ及びケルベロス1、現在ケイフュージュはマルクト地方シェキナの東50km地点でオリオン隊を始めとするアレクト艦載部隊と交戦中。状況は芳しくないわ、合流を急いで!」


「わぁってるよ、最大速度で向かってる!」


「あれだけは絶対に墜としてみせます、みんなの仇…私の手で!」


 ソフィの精神状態は気掛かりだけど、今はケイフュージュを追ってもらわないといけない。捜索隊を編成してロンギヌスの炸裂ポイント直下付近に派遣させたが…一人でも生きていてくれればいいのだけど。


「あの姿勢制御スラスターだって無限じゃないはずよ。オリオンが足止めしてくれているうちに必ず追い付いて」


「「了解!」」


 地上勤務…戦場を飛ばない気軽さがあるのかと思いきや、気軽とは程遠い。パイロットとして飛んだ経験がある分、どうしても苦戦する友軍の声を聞くと行って手伝ってやりたいという気持ちになる。おまけに前線に出ていた頃と違い、ここでは全体の戦局が解ってしまう。戦時中は何度も目の前で戦友の死を目の当たりにしたし、作戦が終わって帰還してから知るケースもあった。私は今…どこで誰が死んだか、知らせる側に立っている。なるほど…嫌なもんだな、これは。


「残存する作戦機にケイフュージュへの足止めを最優先処理させて、あれは異質な感じがするわ」


 管制室から各部隊へ指示を飛ばすオペレーターから了解の返事をもらい、また戦況モニターに視線を戻す。ケイフュージュ…闇の神様だかなんだか知らないけど、所詮はあれだってエンジンと翼で飛ぶ航空機だろう。なら撃墜出来ない道理は無い。


「神様だろうと、踏ん反り返って支配者面してたら足元掬われるってこと…教えてやらなきゃね」

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