第28話 深夜の殺戮
ケルツァーク基地より更に北へ300kmの上空、夜も明けない暗闇に突如赤々とした炎の花が咲く。
「シーフラ4よりシーフラ7、
「こちらブロラハン4、シーフラ7のカバーに入る!」
上下左右の感覚すら狂うほどの真っ暗闇にアフターバーナーやミサイルが吐き出す炎が煌き、バルカン砲から高速で発射される弾丸が大気摩擦で一直線に空間を切り裂く。
「ブロラハン4、シーカーオープン。ロックオン、フォックス…」
「ブロラハン4! 上空から敵機1、突っ込んでくるぞ。ブレイク、ブレイク!」
僚機からの警告の直後、月明かりを背負って舞い降りた敵機が放つ弾丸がヴァーチャーⅡを貫く。二機の翼が交差し、弾丸の暴風に曝されたヴァーチャーⅡの背面から炎が上がる。
「ブロラハン4、機体に炎が見える。フュエルカット、消火しろ!」
必死に無線で叫ぶが、バランスを崩しながら力なく高度を下げていく部下から返事はない。
「どうした、応答しろ! ブロラハン4、ブロラハン4!?」
その呼びかけにも応答は無いまま、燃料に引火したのか激しい爆発を起こして空中でバラバラになってしまった。断末魔さえなく、おそらくコクピットを撃ち抜かれたのだろう。
「まったく、どいつもこいつも弱っちくてつまらない雑魚ばっか。姉さん、あたし欲求不満なんだけど」
「言わないの。これも任務なんだから」
最近では通信技術が発達し過ぎたために戦闘中も敵味方共にオープンチャンネルで固定してしまうことが多い。これは敵の通信だ。くそ、余裕綽々かよ!
「ブロラハン1より全機、
「りょうか…うわぁ!」
フォーメーションを組もうとしていた僚機がミサイルの直撃を受け爆散する。
「そうですわ、お姉さま。涙ぐましいでは御座いませんか。充分とは言えない装備で絶対的な戦力差を見せ付けられても尚立ち向かおうとするその姿。彼らの高潔に応える術はただひとつ…」
月明かりに照らされて、矢のようなシルエットを持つ真紅の機体が三機。あいつらだ。あの三機のせいで二十四機いたこちらの部隊はものの数分で半数以下にまで減らされたのだ。
「そんなのわぁってるよ! 要するに…」
一分一秒無駄にせず、絶対的な力で踏み躙る。三人の女性パイロットはそう笑った。そこからは悪夢…そう、悪夢そのものだ。こちらがいくらフォーメーションを組んで抵抗を試みても、ミサイルシーカーに敵機を一秒と収めることさえも出来ない。本当に相手にしているのが三機なのかさえ疑わしくなってくるくらいのペースであちこちに爆炎が生まれ、その数だけ断末魔がこだまする。
「ブロラハン1よりAWACS! 部隊損耗率増大、作戦続行不可能! 即時撤退の許可を請う!」
「こちら空中管制機ヴィーグリーズ、撤退は許可出来ない。繰り返す、撤退は許可出来ない」
「ふざけるな、こんな状態で作戦も何もあるか! ブロラハン1より各機、無駄死にする必要はない。全機撤退しろ、全機撤退!
その時点で生き残っていた友軍機が一斉に反転し、戦闘空域を離脱しようと加速する。この惨状をレーダーの点でしか見てやがらねぇAWACSは命令違反がどうとか騒いでるが知ったことじゃない。
「こちらシーフラ9! 右エンジン損傷、速度が上がりません! 『女神』が、『女神』が後ろに…! 助けて、誰か…隊長、助けてぇ!」
「ブロラハン11、ダメだ。追いつかれ…うわぁあああああ!」
こっちはエンジン全開で逃げてるのに、あいつらは余裕で追いついてきてミサイルを浴びせてくる。
結局、命からがら逃げ延びたのは四機だけ。二個中隊で臨んだ作戦が…たった三機の戦闘機によって失敗し、一個小隊にまで減らされた。
カラーリングを真紅で揃えた最新鋭機が三機とそれらを操る三人の女性パイロットで構成されるルシフェランザ連邦空軍の切り札…運命の三女神隊。
噂には聞いていたがこれほどまでに圧倒的とは…。命令違反に対する処分は追々言い渡されるだろうが、すべてどうでもよくなった。悪夢だ、全部…。
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