黎明のソアラ

斗夢猫

プロローグ

 青々と水を湛えるオルクス海。空と変わらぬ色のその海を、古代の人は生命の根源にして生死の境界であると位置づけていた。


 そしてその大海を挟んで東西に存在する西のルシフェランザ連邦と東のフォーリアンロザリオ王国。互いに多くの同盟国を持ち、その影響力は世界を二分すると言っていいほどに肥大化していた。同盟に加盟していない国も数多く存在するがその中にこれら大国へ影響を及ぼせる国は少ない。


 肥大を続ける二つの大国は、初めは配下の同盟国に威厳を示し、またそれらを守護するため…だがすぐに互いに互いを仮想敵国として軍事力を蓄え始める。そんな大国同士がいがみ合うまでさして時間はかからず、一触即発の冷戦状態に突入した。両国の関係を決定的なものとした事件はフォーリアンロザリオ王国内のホテルやイベント会場で連続して起きた爆破テロ。


 民間人に多くの死傷者が出た一連の事件をフォーリアンロザリオ王国はルシフェランザ連邦のテロ攻撃と非難、しかしこの嫌疑をルシフェランザ連邦が濡れ衣と切り捨てたことに起因する。


 薬で癒えない傷は時間が癒す、とは誰の言った言葉か…。日に日に悪化する国際情勢…だが日々の生活を営む一般市民は、歪ではあれど平和な日々は続いていくと信じていた。



 …否、ひたすら目を背けていた。脳裏をよぎる悪夢から。

 誰もが理解していた、嵐の前の静けさの中にいるだけだということを。

 誰もが予感していた、最悪な夜明けを。

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