閑話 リーゼの誤算①
お買い物ミッション二日目、街では楽しそうに会話をしながら歩くリーゼ、メイ、ソフィーの姿があった。
「今日の午前中は二人でお買い物だよ。近くにいるから、困ったことがあったらすぐに連絡してね」
「はい、ありがとうございます。リーゼさんと連絡を取る時はソフィーのタブレットを使えばいいですか?」
「うん、学園長から連絡用に奪っ……借りた同じタブレットがあるから。うさぎのマークがソフィーちゃんと連絡できる専用アプリだって」
「リーゼさんと離れていてもお話しできるって嬉しいですね!」
「ふふふ……ソフィーちゃんといつでも通話し放題。たまには役に立つじゃない学園長、タブレットは死守しないと。まずは生徒会長専用として使えるように……」
ニコニコと嬉しそうに話すソフィーと温かく見守るメイ。一方、だらしなく緩みっぱなしの表情と悪だくみをしているような表情がコロコロ変わるリーゼ。そんな三人を相変わらず気味悪そうに避けていく人々。もはや日常となりつつある光景だった。三人がしばらく歩くと街の中心にある噴水広場に到着した。
「何かいい物が見つかると良いわね。そんなに大きな街じゃないし、私も近くにいるから何かあったらすぐ連絡するように」
「はい、お昼にここで待ち合わせですね?」
「うん、お昼ご飯はみんなで一緒に食べようね。昨日のお店も一緒に行きましょう」
「はい、楽しんできます!」
笑顔で手を大きく振りながら歩いていくメイとソフィー。優しく振り返しながら見送るリーゼ。二人が視界から消えたことを確認すると背負っていたカバンからおもむろにタブレットを取り出した。
「アプリはただの連絡用じゃないのよね。ちゃんとソフィーちゃんの今いる位置を追跡できる機能が付いているんだから。学園長もたまには気が利くじゃない。さてと起動は……」
「あれー! リーゼじゃない! いつこっちに帰ってきたの?」
いそいそと設定をしようとしたとき、背後から声を掛けられた。ショートヘアの赤い髪、青い大きな目をしたリーゼより少し背の低い女の子が笑顔で立っていた。幼馴染であるリズィ・ディクソンである。
「あ、リズィじゃない。どうしたの? こんなところで」
慌ててタブレットを鞄にしまい、平静を装うリーゼ。必死に笑顔で対応するが、その表情はぎこちない。
「遊びに来たんだよ。リーゼったら水臭いんだから! 帰ってきたなら連絡の一つくらいよこしなさいよ!」
「バタバタしていたから連絡できなかった、ごめんね」
「まあいいわ。久しぶりの再会を祝してお茶しない? 話したいことたくさんあるし」
「少しだけならね。私も用事が……」
「そうと決まれば早速行きましょう! とことん話し合うわよ!」
「あ、ちょっと人の話を聞きなさいよ!」
「ん? なんか言った? あとでゆっくり聞くから。ほら、早く行くわよ!」
リーゼの右手を掴むとずるずると引きずるように歩き出すリズィ。
(いい子なんだけど人の話を全く聞かないのよね。しかも話し出したら止まらないから……ああ、ソフィーちゃんを陰からじっくり見つめるという至福の任務が遠のいていく……)
ソフィーたちとは全く別方向にあるカフェに連れ込まれ、飲み物を注文し終えると同時にマシンガントークが炸裂し始めた。恋バナや近況報告を一方的にまくしたててくる。
「そうなんだね……」
「そうそう、リーゼの学園での話を聞きたいな」
「私のほうはね。最近すっごく可愛いうさぎ……」
「あ、いっけない! 彼氏とデートの時間に遅れちゃう。じゃあまたね! 今度ゆっくり聞かせてね」
伝票を掴むと嵐のように去っていき、ポツンと店内に残されるリーゼ。
「いったい何だったのよ! 私のこと何も話していないじゃないの!」
リーゼの絶叫が虚しく店内にこだました。その後フラフラになりながら、待ちあわせの噴水前までたどり着くとベンチに倒れこむように座る。楽しそうに通りすぎる人とは対照的にぐったりとベンチにもたれかかった。
「いいもの買えたね、ソフィー」
「うん、たくさんのお花の種もリーゼさんへのお土産も買えたよ。喜んでくれるかな?」
「きっと喜んでくれるよ! あ、リーゼさんもう着いているみたいだよ。えっ……大丈夫ですか?」
動かないリーゼに慌てて駆け寄る二人。
数分後、お土産のシュークリームを涙を流しながら頬張りすっかり元気を取り戻したリーゼにソフィーが話しかける。
「リーゼさんは何をしていましたか?」
「久しぶりに友達に会ってね。いろんな話を……聞かされただけ!」
突然叫ぶリーゼに慌てる二人。
興奮したリーゼが落ち着くまでさらに時間がかかり、危うくランチを食べ損ねそうになった三人だった。
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