第22話 忍びよる闇
語られた出来事の衝撃は大きく、その場に固まる冬夜と言乃花。二人の様子には目もくれず淡々と話を続けるレイス。
「任務の内容について明かすことはできませんが、まだ修業中の身であった自分は当主の指示のもと、リリーさんが率いる別部隊でファーストを追っていたっす。幻想世界で動いているという情報は掴んでいたのですが、
圧倒されながら黙って聞き入る冬夜と言乃花。
「知らず知らずのうちに全員が焦ってしまったのでしょうね。冷静に考えれば罠としか思えない情報でした……ファーストが街はずれの廃工場を拠点にしていると……」
「どこからそんな情報が?」
左手を口元にあて、眉間にしわを寄せた言乃花が強めの口調で質問する。
「情報の出所っすか? イノセント家が持つネットワークということにしておきましょう。ただ、あまり信用度は高くないルートから得たものでしたが、当時は誰一人として疑うことはなかったっすね」
「それだけ切羽詰まっていたってことね」
「ええ、イノセント家とファーストの因縁はずいぶん長いものになります。ヤツのせいで何度も苦渋を飲まされてきたっすからね。廃工場に向かった我々はついに対峙することになったのです。大きなミスを犯していたことに全く気が付かずに……」
レイスの手がいつの間にか強く握りしめられ、微かに震えている。全身から怒りのオーラが漏れ出し、同時に両手に大量の魔力が集束していく。
「俺がもっと早く異変に気が付くべきだった。それに、父さんは知っていたはずなんだ……それでいて何も手を出さなかった。母さんが大けがをする必要なんてなかったんだ!」
「レイス! 口を慎みなさい!」
ハッと我に返るレイス。冬夜達の後ろに悲しげな表情をしたリリーが立っていた。諭すような口調で続ける。
「今まで何度も説明してきたでしょう? 奥様は最善の選択をされたのよ。『あなたが責任を感じることはない』と意識を失う前におっしゃられたことを忘れたの?」
「……なんかダメっすね、ちょっと冷静になるために頭冷やしてくるっす」
「あ、待ちなさい!」
リリーが止めるよりも早く、薄暗くなった夕闇に姿を消すレイス。
「全くあの子は……一人で突っ走る癖はいつになったら治るのかしら……」
額に手を当て大きなため息をつくと、冬夜と言乃花へ向き直る。柔らかい笑みを浮かべると声をかける。
「お二人ともお見苦しいところを見せましてすいません。そうそう、夕食の準備ができたから呼びに来たのよ。アルさんには連絡しておいたから、ゆっくり身体を休めて明日の修業に備えてね」
夕食を済ませ、用意された客間の布団で横になる冬夜。眼を閉じて浮かんでくるのは先ほど見たレイスの姿だった。学園でのいつもニコニコしておどけている様子からは程遠い、はじめてレイスが明かした心の闇。
(レイスさん大丈夫かな……相当思い詰めていたし、あれから帰ってきた様子はなさそうだけど)
そんなことを考えていたが、慣れない修業による疲れからすぐ深い眠りに落ちていった。
翌朝ジャンさんたちと朝食を済ませると昨日と同じ道場で再び修練が開始された。
「内容は昨日の午後と同じです。私に一撃入れることを目標に向かってきてください」
「わかりました」
冬夜が闇の力を開放し、ジャンに向かっていく。道場内から打撃音が絶えず響き渡るうちに午前の修業が終わりを告げた。
「冬夜さん、お見事でした。こんなに早く一撃入れられるとは思いませんでした」
「一撃ってほんの一瞬かすっただけじゃないですか。自分はまだまだですよ」
「それだけでも十分ですよ。さて、本日はここまでです。昼食を終えたら大広間に行きましょう」
その後言乃花と合流し昼食後、大広間に向かった。中に入ると当主とレイスが待っていた。
「修練ご苦労であった。二人とも何が得るものがあったようだな」
当主が話し始めた時だった。大広間のふすまが乱暴に開けられ、リリーが飛び込んできた。
「失礼します、緊急事態です」
「何事だ! 客人の前で無作法であろう」
「すいません。ヤツが……ファーストが現れまし……」
言い終える前にリリーが固まる、まるでそこだけ時間が切り取られてしまったかのように。
「おやおや、そんなに慌てるなんてどうしたのでしょう? わざわざ御当主様にご挨拶をするため、こちらからお伺いしたというのに」
その言葉とともに、リリーの真横の空間が歪みフードを被った二人組が姿を現す。
「盛大な歓迎を期待したのに大したことはないですね。わざわざ私自ら来てあげたというのに」
不敵な笑みを浮かべるファースト。
思わぬ来訪者の目的とは一体……
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