第23話 謎の少女と近づく終焉の時

 メイを中心に眩い光が周囲を包み込み、その場にいた全員の視界が奪われた頃、冬夜は不思議な空間で目を覚ました。


(……ここはいったいどこだ? ……あ! アビーに背後から刺されて……あれ? 痛みがない? なぜ? それよりもこのふわふわと心地よい感覚はなんだろう? 前にも似たような……そうだ! メイはどこだ?)


 アビーの不意打ちに倒れ、薄れゆく意識の中で聞こえたのは悲痛なメイの叫び声だった。何度もフラシュバックして激しい後悔に襲われる。


(何をしているんだ……メイに万が一のことがあったら俺は……)


 何度も後悔の波が冬夜の心に押し寄せてくる。ふと視線を感じ、目を向けると姿が目の前にいた。長い紫の髪は足元まで豊かに広がり波打っている。象牙のように白い顔に優しい微笑みを浮かべ、冬夜を覗き込むようにしてしゃがみ込んでいた。


「また会えたね。こんな形で再会はしたくなかったけど……」

「君は……あの時九年前なのか?」


 冬夜の問いかけに目の前の少女は優しく微笑むだけで何も答えない。


「まだ私の記憶が完全に戻ることはないの。冬夜くん、あの娘たちを守ってあげて……」

「何を言っているんだ? メイと君は……」


 冬夜は霞むかすむ意識の中、まだ痛みの残る身体を必死に起こそうとした。その時彼女の顔が目前に迫り、唇に柔らかい感触を覚えると同時に冬夜の身体に変化が訪れた。アビーに刺された傷が完全に塞がり、そして、あの時九年前と同じように魔力が身体の奥底から湧き上がってくるのを感じる。


「今の私にできるのはこれが精一杯。まだ一部しか夢幻の力を使えないの。冬夜くん、どうかを守ってね。……」

「待ってくれ、君は……」


 必死に声を絞り出すが、急速に意識が刈り取られていく。あの光の空間は何だったのか、そして少女とメイの関係は……数々の疑問が浮かぶが、意識の薄れとともに遠のいていく。やがて、微かに自分を呼ぶ声がしてきた。


「……君、……夜君、冬夜君!」


 徐々に意識が戻りはじめ、うっすらと目を開ける。すると、涙を流し、必死に叫ぶメイの姿が視界に入る。


「メ、メイ……? 大丈夫か?」

「冬夜くん、目を覚ましたの? ほんとに大丈夫なんだよね?」


 そこには紫の瞳を真っ赤に腫らして、大粒の涙をぼろぼろとこぼすメイの姿があった。そのまま泣きながら冬夜を抱きしめる。


(メイに聞かなければ……って何を? あれ?)


 そんなことをボンヤリ考えていたが、必死に心配してくれるメイの姿を見たら全てが吹き飛んでしまった。


「ほんとに死んじゃうかと思ったよ……ほんとにいなくなっちゃいそうで……」

「心配かけてごめんな、おかげで助かったよ。ところでここは一体? アビーはどうなった?」

「よくわからないんだけど、気が付いたらこの不思議な空間にいて。目の前に冬夜君が倒れていて目を覚まさないから……」


 二人がいる場所は、ドーム型の、暖かな光の結界のようなものに包まれた不思議な空間の中だった。完全に外部から遮断され、二人を中心に広がっている。


「メイが無事でよかった……。さてと、学園長がいるとはいえ、ソフィーのことが心配だ。それにアビーと決着をつけないとな」

「もう動いて大丈夫なの?」

「ああ、刺されたところも治っているし、魔力も前より上がった気がするよ。よし、さっさとここから出て、アビーとの戦いに終止符を打ちに行こうぜ!」


 さっと立ち上がり、メイの右手を握る。そうして魔力を込め始めると、呼応するようにメイの身体にも魔力が流れ始める。やがて覆っていた結界にヒビが入り、ガラスが砕け散るような音を立て崩れ落ちた。


「メイ!」


 外に出るとすぐにソフィーが飛び込んできた。眼にいっぱいの涙を浮かべ、言葉にならない声で泣き叫んでいる。


「ソフィー、私は大丈夫だから……ありがとう」


 ソフィーをきつく抱きしめ、必死になだめるメイ。


「学園長、ご心配おかけしました」

「うん、いい顔になって戻ってきたね。ゆっくり話を聞きたいところだけど、ちょっと妙な雲行きになってきたよ……」


 学園長の指す方角に目を向けると、冬夜が見てもわかるほど大きなが生じている。


「あれは……なんだ?」


 歪みから伝わる嫌な予感に胸騒ぎがおさまらず、嫌な予感がヒシヒシと迫ってくる。

 バトルの決着は、思わぬ形で終焉の時を迎えようとしていた……

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