第12話 つかの間の休息と冬夜の災難

 学園長と面談を終えた冬夜。リーゼの案内で学園内にある寮へ向かうため、長い廊下を歩いていた。


「学生寮と校舎はつながっているのか? 寮と聞いたけどそのわりには他の生徒を誰一人見かけないのはどうしてなんだ?」

「冬夜くんは特別寮だから、私たち生徒会役員と一緒ね。一般生徒用の寮は窓から見える正面の建物よ」


 ちょうど向かい側に校舎と似た建物が建っていた。外を見ると数名の生徒が笑顔で話しながら入っていく姿が見える。


「俺は向こう一般生徒寮ではなくて、なんでリーゼたちと同じ特別寮なんだ?」

「冬夜くんの能力が特殊すぎる……と、いうのもあるわ。生徒会役員はいざという時に一般生徒を守る立場でもあるの。特別寮がある校舎は、わ。もちろん一般生徒寮にも厳重に防御結界は張られているけどね」

(結界か……本当に存在していたんだな)


 現実世界で過ごしていた頃、結界なんて物語の中でしか聞いたことがなかった。まして現実にあるなど考えたこともない。しかし、学園へ来るまでに起こったフェイによる襲撃、学園長の話など数々の出来事を思い返せば嫌でも納得させられた。


「そういえば学園長が言っていた迷宮図書館ラビリンスライブラリはどこにあるんだ?」

「学園内にある図書館のことよ。両方の世界に関係する古来よりの蔵書、魔道書などが保管されているわ。もっとも広すぎるがゆえに、最深部までは誰も立ち入ったことがないという噂よ。時空の狭間とつながりがあるとか、過去に幽閉されてしまった人の怨念が渦巻くという噂も……」


 迷宮図書館について説明をするリーゼに対し、冬夜は途中から上の空だった。


(あの事件と夢を結びつけるヒントがきっとあるはずだ)


 九年前のあの日から繰り返し見る夢、幽閉されている少女、箱庭という言葉……確信があるわけではないが、謎を解くパーツはこの学園内に必ずあるはず……


「ねえ? ちゃんと聞いてる?」


 考え事に没頭してほぼ話を聞いていない冬夜の顔を覗き込むようにリーゼが問いかける。


「え? あ、聞いてるよ。ところで、迷宮図書館に行ってみたいんだが、今からは無理だよな?」

「ちゃんと聞いてた? 今から? やめておいた方がいいわよ。学園内の施設だし、管理者は生徒会役員だから話はできるけど……私達だけで中を歩き回るのは危険よ。迷路みたいに入り組んでいて間違いなく迷子になるわ」


 冬夜としては一刻も早く行きたかったが、リーゼの話を聞くうちにだんだん怖気づいてきた。


(焦っても仕方がないか)


 小さく息を吐くと緊張の糸が切れたのか疲れと眠気が一気に襲ってきて、大きなあくびをしてしまう。冬夜の様子を見たリーゼはクスリと笑うと諭すように話す。


「早く行きたい気持ちは分かるけれど、部屋の案内もまだなのよ? それに魔力枯渇が完全に回復したわけじゃないんだから、ゆっくり休んでからでも遅くないわ」

「そうだな、リーゼの言うとおりにするよ」


 納得して落ち着いた様子の冬夜にリーゼもホッとする。その後、学園内の生活における説明をしながら歩いていくと『特別寮』と書かれた木の扉がみえてくる。


「ここが特別寮の入り口よ。学生証を扉にかざすと鍵が解除されて扉が開くわ。見ていてね」


 リーゼが扉の前で学生証をかざすと、青白く光り両開きのドアが自動で奥に開く。


「中からは学生証をかざさなくても開けることができるわ。学生証を忘れても職員室にマスターキーがあるから、担当の先生に言って開けてもらってね」

「ああ、わかった」


 扉から中に入ると先ほどと変わらない廊下が続いていた。右側には上の階に続く階段があり、左側には『食堂』と書かれた部屋がある。さらに奥に向かい合わせで六つの扉がある。


「左側が寮の食堂よ。特別寮の生徒しか利用しないからそんなに大きくないけどね。このフロアは男性用、上の階は私たち女性用のフロアになるわ。いくつか部屋があるけどこのフロアーは冬夜君を含めて三部屋を使用しているの。女性用は私ともう一人が使っているから特別寮で生活しているのは五人だけよ」

「そうなんだな。ところで俺の部屋はどこになるんだ?」

「右の一番奥の部屋になるわ。はい、部屋の鍵。なくさないように気をつけてね」


 リーゼから部屋の鍵を受け取り、扉を開けると部屋の様子が明らかになる。室内は八畳ほどの広さで、右側の窓際に机が置いてある。左側の壁際に寝心地の良さそうな大き目のシングルベッドが備え付けられている。


「必要な家具は揃っているから心配はないと思うけれど、何かいるものがあれば声をかけてね。食事は朝、夕は寮の食堂で用意してもらえるわ。夕食までまだ少し時間があるから少し休んだら? 時間になったら呼びに来るから部屋の鍵は開けておいてね」

「ありがとう。わかった、部屋の鍵は開けておくよ」

「あ、学生証は机の上に置いてあるから。失くさないでね」


 リーゼを見送った冬夜は荷物を机に置くとそのまま備え付けのベッドに飛び込んだ。


(つ、疲れた。、早く行ってみたい……な……)


 一気に押し寄せた睡魔に勝てず、意識を手放した冬夜。

 数時間後……夕食のため、冬夜を迎えに来たリーゼに寝ぼけて抱きついたため、フルスイングのビンタを喰らった上に説教をされることになったのは言うまでもない。

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