鳳凰京の呪禁師

円堂 豆子

序、わたしに名前をくれた人



 ――きみ、名前は?


 こたえると、その男はいった。


「ヒトリ。いい名前だね」


 だから、驚いた。


 いい名前だなんて、思ったことがなかった。


 ほかに兄弟がいなかったから、名も「ヒトリ」。


 いまは母親ともはぐれてひとりぼっちだから、ますます「ヒトリ」。


「大事な名だ。なら、私はきみに字をあげるよ」


 男は背丈を合わせるように隣にしゃがみこんで、土に「緋鳥」と書いた。


「真っ赤な鳥っていう意味だよ。これからきみが暮らす都は鳳凰京ほうおうきょうといって、真っ赤に燃え盛る炎をまとった鳥が守っているんだ」


「炎の、鳥?」


 そんな鳥が――?


 聞き返すと、男は笑った。


「大きな火の鳥で、鳳凰と呼んでいるよ。じつはね、私は鳳凰のお世話係をしているんだ。一生懸命学んだら、きみもきっとその役に就けるよ――呪禁師じゅごんじっていうんだ」

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