異世界 渋滞
山原 もずく
第1話 なのは完売
もう日付も変わる頃
悟(さとる)は終電で帰路へと着いていた
仕事は多忙を極め
ここ数日は睡眠さえままならない
会社から自宅への45分間
彼は必死に睡魔と戦っていた。
(昨日は終点まで爆睡しちゃったもんな、、、)
(おかげで、財布が寂しいよ、、、)
「座ったら、絶対に寝るからダメ!」
そう思って今日はずっと立ったままだったが
そんな努力も空しく、彼は器用にも吊り革を持ったまま寝落ちしてしまった。
...駅。終点ですぅ』
「...はっ!!また寝過ごした?!」
“終点”という【トラウマワード】に脳が反応し意識を取り戻す
そして、すぐに車内の違和感に気付いた、、、
(あれ?なんで終点なのに、こんなに人が乗っているんだろう??)
(昨日は、3人くらいしかいなかったのに)
そう、終電の終点なのに
車内はほぼ「満員状態」だった
呆然としていると
車両は少しずつ速度を落とし始めた
そして再びアナウンスが流れる
「異世界駅~異世界駅~終点です」
(え?!なんて言った?聞いたことない駅だったような...)
はっきり聞き取れなかったが
違う方面の電車に乗ったのか...
慌てて『現在地の確認』をしようとスマホを取り出す
(電波がない、、、圏外になっている)
車内を見渡すとその雰囲気がピリ付いているのに気づいた
乗客達は皆ドアが開くのを今か今かと
待ち構えているようだ
満員状態で蒸し熱く『早く抜け出したい』
そんな気持ちはわからないでもないが、、、
...電車が止まりアナウンスが流れた
『異世界駅~、右側のドアが開きま~すっ』
(え??異世界??)
『ドア開きま~す、ご注意ください』
---プシュー----
ドアが開いた瞬間だった
ダァァァーーーッ!
全員が一斉に改札に向かって走る!!
【その模様はまさに
『始発ダッシュ』さながらであった】
(※わからない人は検索しよう!)
「え!え!どうなってんの⁈」
あっという間に、車内は自分だけになった。
呆気にとられながらも
とりあえず自分も外に出る。
「何処かわからないけど…
またタクシー代かかるなぁ」
乗客が嵐の様に通り抜けていった改札
駅員さんが立っていたので声を掛ける
「すみません、電車間違えちゃったみたいなんですけど...」
自宅までの距離がどのくらいなのかを尋ねた。
駅員さんはしばらくキョトンとした後
『ポンッ』と手を叩き、笑顔でこう言った。
『あー!じゃぁ君!気が付いてないんだね??』
「え、何がですか?」
『死んじゃったんだよ!』
「へっ??」
『いやーだから、死んじゃったの!
あー、もしかして、寝ながらとかかなぁ...
最近多いんだよね、電車で力尽きちゃう人!
過労死?ってやつ?』
(何言ってんだ、この人...俺を酔っ払いと勘違いしておちょくってるのか?まぁいいか...行こう)
そのまま改札を抜けようとするが
改札にICカードをタッチしても反応がない。
「あれ?...すみませーん
ちょっと反応しないんですけどぉー」
駅員に向かって叫ぶと
またもや訳の分からない言葉を返された。
『あ!そのまま通っていいよー!
ここ「片道切符」だから!!』
「また何を言ってんだろ、、、
あのおっさん。まぁ、面倒くさいからいいや、
早く帰って寝たい...」
『グッドラック~♪j』
後ろから駅員の声が聞こえたが、
悟はリアクションを返す元気もなく
案内板を頼りにそのまま出口へと向かった。
外へ出ると、何故か明るい...
そして目の前には、見覚えのある巨大な建築物があった
『え、これって東京ビッ〇サイト??』
慌てて周りを見回す、いや違う...
違うどころか、辺りは濃い霧に包まれていて
この建物以外の建築物が見当たらない。
驚いて後ろを振り返えったが
駅もこつ然と姿を消していた
仕方なくその建物の中へと入ってる
人は見当たらず
ただただ大きな矢印の看板がいくつか立っているだけ
とりあえず、矢印に従って進んでいく
すると
とある棟に辿り着いた。
入り口には『コスプレ』をしたお姉さんが立っていた
「あれれれぇ~?!遅刻ですか~?!」
(天使?女神?見たことないキャラだけど
すごい完成度だ!!)
美人レイヤーさんは続ける
「えっと、9月18日組の方ですよね??」
『え、えっと、、あ、はい今日は9月18日です、、、』
しどろもどろになりながら今日の日付を答えた。
「んーー、もう殆んど完売してると思うんですけどぉ」
『え、何がですか?』
「人気作家さんのは早いんですよーやっぱり、、、
情報戦も激しいですからねぇ」
話の内容をまったく呑み込めずにいると
お姉さんが「ハイっ、ハイっ」っと
背中を押しながら建物内へと誘導する
入ると中には沢山の『ブース』がならんでいた
「すみませーん!この人最後なんですけどー」
お姉さんが売り子さんの様な人たちに声をかける
しかし、みんな首を横に振りながら
手でバツ印を作っていた
「うーん、もしかしたら、奥のほうは余ってるかもしれませんね!」
そう言って一緒に奥へと誘導される
もうすっかりお客さんは帰ったようで
ほとんど見当たらなかったが
途中でブースの前で倒れている人がいた
『定価の3倍出すから売ってくれーーーっ!!!』
その人は床にのたうち回りながら、そう叫んでいた。
そのブースの前の看板には大きく【完売です】と手書きの紙が貼ってあった。
(※知らない人は検索してみよう!)
よく見ると他の処も全部紙が貼ってある
【完売御礼、SOLDOUT、本日分完売、、なのは完売、、、】
お姉さんがその人を「ガン無視」しながら歩いて行ったので
自分も見えないふりをしてついていく
そして一番奥にあるブースに辿り着いた。
『あ、やっぱり、まだあるじゃないですか!売れ残り!』
レイヤーのお姉さんが嬉しそうにそう言った先のブースには
気の難しそうな男の人がふてくされた様子で座っていた
「うるせーよ、乳揉むぞコラ」
『だって、本当じゃないですか毎回ですもん』
「ふん、最近のガキはよ!わかってねえんだわファンタジーってもんを!」
『それは、関さんが時代についてってないだけでしょ?
チートとかハーレム設定とか織り交ぜないと皆見向きもしないよ?』
「俺はな!叩き直してやってんだよ!根性を!
レベル1からコツコツコツコツ戦って、やっと『はがねの剣』を手に入れた時の達成感をよ!温室育ちにも味合わせてやりてーんだよ!」
ふてくされてた男の人はいつの間にか弁に熱がこもり
ジョ〇ョ立ちをしながら、そう叫んでいた。。。
「あの...僕もう帰っていいですか?」
『ヤバい人達の所に来てしまったな』
と思い帰ろうとすると...
「ちょいまてーい!」
逃がさないぞっ!とばかりに
首根っこをガシッと掴まれる
「最後の一冊だ、買っていきな?」
『いや、俺、そーゆーの興味ないんで、、、』
「買っていきな?いや、買え!買うまで帰さん!」
『えええぇーー!!』
その時だった。
------バシッ!!------
横から突如、飛び込んできた影が
最後の一冊の『同人誌?』を奪い取る。
さっき床でのたうち回ってた人だった
「じゃぁ、もうこれでいいや、、、次回、いや、来世こそは!!」
その人はそんなことを言いながら
『同人誌?』を開くと
一瞬にして、その中に吸い込まれていった。。。。
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