賢者 夏休みを満喫する

 小学校3年生になった。


 小学3年生ともなると子供同士で遊びに行くなどが当たり前になり、親がいなくても自由に子供だけで遊びに行く事が多くなった。私も5限目で学校が早く終わるときや、休日に家の事を手伝わなくてもよさそうな時は同級生の七海ちゃんと未菜ちゃんの誘いに乗って遊びに行くようになった。女3人で遊ぶ何て事も前世では無かった事なので非常に楽しいものだった。


 私の住むエリアは自転車でちょっと行くだけで、公園もあり、スポーツ広場もあり、森も山も川も、頑張れば海もある。良くある都心の郊外型の町だった。更に山の奥まったところには一昔前に開発した跡地やら廃工場があったりして子供達の格好の遊び場になっている様だった。


 そんな地理条件もあって、夏休みになると、鈴ちゃんと、鈴ちゃんと仲のいい海斗君と一緒に裏山を探検して遊んでいた。


「それじゃ探検隊の出発だ!いくぞみんな!」

「おう!」

「おー」


 ラッキーな事に、私たちのテリトリー内に遊ぶポイントがいくつもあり、秘密基地を作ったり、廃工場の捨てられたものを使って遊んだりしていた。安全な山道と言うのは良いものだ。この日本には危険がほんとに無い。クマなんてこのエリアには出ないし、もちろん狼もいない。スズメバチだけが厄介だけどそれもそんなに遭遇するわけではない。


 今日は私がネット衛星地図で見つけたおそらく何かの工場に向かって3人で頑張って自転車をこいで向かっていた。


「こっちゃん、まだ~?けっこうしんどいんですけどー?」

「鈴香もうへばったのか?」

「むっ、まだへばってない!!」


 二人はサッカースクールで一緒のクラブらしく、なぜかよく張り合って戦っている。鈴ちゃんって体育会系の子だったんだねぇ、それにしても二人とも漕ぐのが早い、私は早く電動機つき自電車が欲しい……


「こっちゃんおそいー」

「気にするな、はぁ、はぁ、鈴香が早いだけだ、はぁ」

「二人とも早いよぉ、ぜぇ、ぜぇ」


 やっとの思いで目的のポイントにたどり着く。私は親からスマホを渡されていたのでGPSで地図をみながら案内をする。


「うーん、こっちだと思う」

「おー、いいな、もうスマホもらってるのか」

「いいなー、私はまだ早いって言われてもらえないよー」

「確かに、まだみんな持ってないね。普通は中学生くらいかららしいよ」

「勉強しなくなるからやらん!って言われてるからな~中学まで辛抱だな」

「こっちゃんは頭いいから特別なんだろうねぇ」

「うーん、親が私に甘いだけよ」


 3人でGPSだよりに廃工場らしき前にたどり着く。思った以上に大きい。3人で口を開けてぽけーっと見上げてしまった。これは探検し甲斐がある。


「与謝峯さん、ここすごいわ」

「ねー、すごい」

「思った以上ね、あ、あそこは入れそう」


 廃工場も厳重に封鎖されているのだけども、そこら中にガタが来ている様で割と入り放題な感じだった。もちろん立ち入り禁止マークがそこら中にあるが、小学生探検隊の前には意味をなさない。


「うわ、そこは入れるのか」

「立ち入り禁止って書いてあるけどいいのかな?」

「ふふっ、誰もいないから良いんじゃない?人が来たら逃げようか」

「意外と大胆だな」

「こっちゃん大人だからねー」


 壊れた柵の間から廃工場敷地内に入ると、そこは予想以上の広い敷地だった。廃工場の建物跡もガラスや扉が破壊されていて、入り放題だった。中の何かを生産していたであろう機械も風雨にさらされて良い感じに廃屋感をアップさせていた。


「あれだね、ゾンビものに出てくる場所みたいだね」

「ポストアポカリプスものね、確かにそうね」

「ポスト……?」

「ああ、世界がゾンビに埋め尽くされちゃう系の事よ」


 私は前世の遺跡の探索を思い出していた。私が罠にかかりそうなのをみんなしてフォローしてもらっていた気がする。まだ見ぬ知識や文明に触れられてすごい楽しいとまわりにはしゃいでいたら、皆げっそりした顔で、俺らは疲れたと言われてしまったのが懐かしい。


 想像以上に遊べる場所で、色々敷地内を物色してもしきれないくらいの広さを持っていた。楽しく過ごしていると直ぐに夕方になってしまった。


「あー、もうちょっと遊びたかったんだけどなぁ」

「この辺電灯無いから早めにいかないとダメかもね」

「えー、もっとあそぼうよぉ」


 鈴ちゃんが新しい廃屋の中に入ろうとすると、突然動きを止めて固まってしまう。


「え?……な、なにあれ」

「ん?なになに?」


 海斗君が鈴ちゃんが入ろうとした廃屋をのぞくと……


「ちょっ、ちょとやばいよこれ」

「うわ、わうわああ」


 鈴ちゃんと海斗君が全力でこちらにかけてくる。顔がかなりひきつっている。


「な、なにがあったの?」

「や、やばいやつだ、逃げよう」

「おばけみたいのがいた……呪いの奴よ!」

「え?」


 私は咄嗟に軽く魔力視を使ってみるが特に変な気配などはない。そんな事を考えていると後ろの方で柵をよじ登っている音が聞こえる。


「こっちゃんにげよー、こわい!」

「与謝峯さんはやく!やばいって!」

「わかった」

 

 私は原因を確かめたかったが、二人が行っちゃうのも寂しい感じがしたのでそのまま廃屋を後にし、自転車を停めてある場所まで走り抜けた。


「あそこやばいな」

「やばいやばい、もう行きたくない……本物だよね?あれ」

「わかんないけど、怖かった……」

「何を見たの?幽霊?」

「うん……ほら、呪いの映画に出てきそうなやつ」

「前髪垂らして白い服着てるの……」

「ほんとにぃ?」

「あれは見ない方が良いよ」

「私呪われちゃうのかな?」


 二人がほんとにおびえた感じで急いで自転車を漕いで家に帰る。私も見たかったなぁ……明日行ってみるか。


 家に帰ると夕ご飯の時に話をしてみた。思ったより変な反応が返ってきた。


「もしかして、コンビニ近くの廃工場?」

「え?知ってるの?」

「パパが学生の頃までは稼働してたんだけど、たしか紡績とか服飾系の工場だったような気がするよ。もしかしたらマネキンとかも残ってるのかもね」

「それの見間違いかなぁ?」

「まぁ、あれだ、一応他人の敷地なんで、余り入らないでくれよ?」

「うん、わかった」

「そんなキラキラした目で言っても説得力ないよ」


 パパがしょうがないなぁといった目を私に向けて微笑んでくる。

 

 後日私は一人で冒険に出る。幽霊のネタを発見するためだ。鈴ちゃんも誘ってみたのだけども断られてしまった。折角面白い状況になったのにもったいない。

 ただ、行ったら直ぐに終わってしまった。

 マネキンに呪われた幽霊の格好をさせたものをロープで吊るして置いてあったのだ。誰かのいたずらか、肝試しの時に使われたものがそのまま放置されてしまった感じだった。後で鈴ちゃんたちに経緯を話したけど、やっぱり怖いのであそこには行きたくないとの事だった。あそこは良い遊び場だと思ったのに残念。

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