賢者 はじめての弟が出来る

 転生してから6年がたった。


 ママのお腹が大きくなってきた。8月には弟が産まれるらしい。それにしてもこの世界はすごい。産まれる前に性別がわかるんだね……お腹の中の様子が分かる写真があったりして医療が進歩しすぎてなんか魔法のような状態になっている。実際科学が魔法なのか?とも思ってしまうが、こちらは色々な原理が作用して物理的に出来ているから魔法とは違うよな……

 

 私はこの時になると、ほぼこちらの世界の一般的な大人と同じくらいの知識量を得ていた。日本語だけではわからない事が多くなりネットで色々と調べると将来的に英語が必要らしいので、英語の勉強をしてみる。あれ?こちらの方が文法とか向こうの世界に似ているな……日本語がちょっと変わった部類だったのかもしれない。英語の本とネット動画を利用して勉強をしているとパパが私に話しかけてくる。


「なぁ、琴音は、いい小学校行きたいかい?」

「私は自分の時間を長くとれる場所だったらどの学校でも良いよ、自分で勉強したい事たくさんあるし」

「そうか……学校の勉強より、琴音の好きな事やった方がよさそうだな」

「その、いい小学校の授業はどうなってるの?教科書とか見せて」

「わかった……ちょっと準備するのに時間頂戴」


 パパが私が英語を勉強しているのをチラッと見てちょっと引いていた。


「琴音、英語までやってるんだね……」

「うん、ちょっとネットで調べたら、英語の文献にすぐ行きつくから必要かと思って」

「そうだよなぁ、やっぱ英語かぁ……」


 しばらくすると、パパが小学校の教科書の内容の資料などを持ってくる。見せてもらうと、そこまで高度な教育では無かった。


「これならしばらく一人で色々やりたいかも、小学生以上の教育はどうなっているの?」

「わ、分かったちょっと調べてくる」


 そんなこんなで色々資料を持って来てもらうと、どうやら私は高校レベルの学力をすでに身に着けていたらしい。大学レベルまで行くと難しくて色々調べる必要がありそうだった。転生前の教育レベルが低かったので、結構頑張っているつもりだったがまだまだ頂点には届いていなかったのか……この世界の文化レベルは本当に高い。賢者が大量生産されているイメージだ。私はまだまだ精進が必要のようだ。


 8月になるとママが出産のために入院をする事になった。私は残念ながら前世で出産に立ち会った事などが無いので何をしたらいいかわからない。ネットで色々調べると色々な意見が書いてるが、子供の私にはあまり手伝う意味が無い様だ。


「それじゃ、琴ちゃん、パパをよろしくね」

「うん」

「えっと、僕をよろしくしちゃうの?」

「だって、朝起きれないじゃない、琴ちゃんに起こしてもらわないとダメでしょ?」

「うーん、そうだな、僕は頑張るよ……」

「大丈夫だよ、私がちゃんと起こしてパン焼くくらいなら出来るから」

「琴ちゃん、何かあったらパパを上手い事使って何とかしてね」

「わかった」

「え~酷いなぁ」


 家族全員で大笑いしてしまう。


 ママがいなくなってからの出産前日、病院からの知らせが来てパパが病院に行ってしまう。その間ママ同士が非常に仲良くなっていた鈴ちゃんの家にお世話になる事に。お泊りセットと歯磨きなどをリュックに取りまとめてパパに手を引かれて鈴ちゃんの家に行く。


「こんにちは、おばさん。今日からよろしくお願いします」

「琴音ちゃん、よろしくね、お母さん今頃赤ちゃん産まれてると良いね」

「はい、無事に生まれるといいです」

「こっちゃんいらっしゃい、たくさん遊ぼうね!」

「うん」

「ほんと大人みたいねぇ……」

「ええ、ほんとに、今日は琴音をよろしくお願いします」


 パパが話をしてから挨拶すればよかったかな?まぁいいか。


 鈴ちゃんが自分の部屋に私を連れて行き、おもちゃの紹介をしてくれる。物凄い種類のおもちゃだ……全部何かしらのテレビで見たものな気もする。この世界の普通の子の部屋はこんな感じなのか……私の部屋はもう本だらけだな。


「こっちゃんこれ見ようよ!」


 鈴ちゃんが私に録画した番組を一緒に見ようといってくる、朝にやっている魔法少女系のアニメーションだ。私はこの世界の知識を詰め込む事しか考えていなかったのでちゃんと見るのは初めてだった。ストーリーも幼女向けとは思えないストーリーで面白かった。鈴ちゃんは変身シーンで物凄い盛り上がっていた。


「私、この番組見たの初めて、面白いのね」

「え?そうなの、園の女の子もみんな見てるよ?」

「そうね、話に出てきたり絵をかいてたりしてたわね。私も見る様にしようかな」

「琴音ちゃんは普段どんな番組をみてるの?」

「知的好奇心を満たしてくれる情報番組が多いですね。後は色々な事を知りたいのでドキュメンタリーなどを見てます」

「……え?えっと……聞いていたけど、なんかすごいのね」

「こういう番組もいいですね、ちょっと調べてみようかな」

「し、調べたりしないで楽しむものよ……多分」


 その後も私は普通の家庭を経験出来た。鈴ちゃんと遊んでいると夕ご飯に呼ばれた。

 私は準備を手伝わなきゃと思い階段を下りて行くと、既に食卓に夕ご飯の準備がされていた。


「さぁ、食べましょう、手を洗って席についてね」

「はーい」

「あの、手伝わなくて良かったんでしょうか?」

「え?……あ~いいわよぉ、まだちっちゃいんだから、もっとお姉さんになったらよろしくね」


 夕ご飯を食べ終わって食器を片そうとすると、そのままでいいのよ、と止められた。私は色々やり過ぎていたらしい。こんなに子供をお姫様のように扱っていいのだろうか?もっといろいろ家事を手伝った方がいいのでは?と思った。


 夜も9時になると鈴ちゃんが眠くなってきたらしく、お風呂に入って鈴ちゃんのベッドで二人で寝た。いつもは夜遅くまで色々やっているのでちょっと早めの就寝となった。

 

 翌日の朝、おばさんのスマホにメッセージが入り無事産まれたとの知らせが届いた、パパも帰ってくるらしいのでこのままお迎えするとの事だった。帰る準備をしているとパパが迎えに来る。


「お世話になりました。本当にありがとうございました」

「いえいえ、鈴香も楽しかったみたいなのでこちらこそありがとうございます、ママの具合どうですか?」

「ええ、夜に産まれたのですが、体調自体は問題ないらしくて元気ですね。2日もしたら退院出来るみたいです」

「それじゃ、こっちやんまたねー」

「うん、鈴ちゃん、また保育園で」

「あと、それと、パパさんちょっとこちらへ……」

「え?は、はい」


 鈴ちゃんママがパパを引っ張ってちょっと遠くで何かを話し込んでいる。なんだろうと思うが、私、何かやらかしたのだろうか?いつも通りだったから特に問題無いはずなんだけど。

 しばらくするとパパが戻ってくる。


「それではお世話になりました」

「はい、またねー」

「ばいばい!」

「ばいばい」


 帰り道パパと一緒に家に帰る。パパがじっと私を見る。何か言いたそうだなぁ?


「ん~ちょっとママと相談……いや、琴音だったら理解出来るし何とかしてくれるか……」

「鈴ちゃんママはなんて言ってたの?」

「はぁ、やっぱりわかるよね……簡単に言うと、家の手伝いさせ過ぎなんじゃないか?って話と、話の内容と喋り方が大人過ぎるから、子供っぽい感じを演じさせた方がいいんじゃないか?とのアドバイスだよ」

「え?」

「家だと琴音が自由にしゃべっても誰もなんとも思わない状態だけど、やっぱり世間に出ると、6歳の子が大人の様に喋って行動するのはとても変な事に見えるんだね」

「あ!そうか、余りに自然に受け入れてくれるものだから演じるのを忘れてた」

「注意しないパパとママのせいもあるよね……」

「これからはちょっと、外に出たら子供らしい感じを演じないとダメだね」

「そうだな、それでお願いするよ」



 そしてママが入院してから5日後に赤ちゃんを連れて無事に家に帰ってくる。


「琴ちゃん、ただいま、ほら樹、お姉ちゃんだよ」

「ち、ちっちゃい!かわいい!!」

 

 なんてかわいくてちっちゃいんだろう。手なんか握ったら潰れそうだ。私が指を軽く出すとふわっと握ってくる。ああ、可愛い、この子のためなら私頑張れる。


「琴音が新鮮な反応をしているな。あれ?子育ての経験は?」

「私、子育てとか、小さい子が周りにいた事がないから初めてだよ」

「あら、それじゃ初の赤ちゃんね、かわいがってちょうだいね」

「うん、育児書とかネットで色々調べたからばっちりよ!」

「ふふっ、あなたがそんなに興奮するの久しぶりに見るわね」

「えっ、そう?」

「あなたが赤ちゃん時代だったかしら?ベビーカー外に出るとすごいテンションだったわあの時以来ね」

「そ、そう?」


 あの時は見るものすべてが新しくて興奮した記憶がある。確かにあの時くらいテンションがあがってるかも。




 次の日から私は小さなママになった。ミルクをあげたり、あまり動けないママに代わって出来る範囲で家事もやった。身体がまだ小さくてもなんとかなるもんだ。


「琴ちゃんがいると凄く楽ねぇ……楽なはずなのに、私、琴ちゃんが赤ちゃんの時、ものすごく楽だったから今の方が大変に感じるわ」

「そうなの?確かにミルクをを3時間毎にしっかり飲ませたりする事を考えると大変ね、オムツもこんなに交換しないとダメなのね。うーん、今泣いてるのはゲップかしら?よくわからない時があるのね」

「そうね、あなたはグズると指を指して何をすれば良いか教えてくれたからとても楽だったわ」

「え?そんな事してだっけ?」


 どうやら自分の赤ちゃんの頃の記憶が曖昧の様だ。私はちょっと恥ずかしくなってしまった。


 おむつ替えなどは保育園では横目で見ていたが、やはりいざ自分でやると大変なものだった。それにしても、乳児のウンチの匂いが独特なのを初めて知った。色も違うし臭く無いのね。変な匂いだけど。



 私は前世で出来なかった子育てに参加出来る。生まれ変わって色々やりたい事があったが、その一つの願いはかないそうだ。取り合えず魔力を使わずに頑張って生き抜いていこうと自分の心に言い聞かせた。

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