転生者 魔法の種類を考える
翌日の日曜日、俺は目が覚めると案の定全身筋肉痛だった。あれくらいでもダメか……と思いつつ、身体強化を利用した筋肉トレーニングって、めっちゃ楽ですごくない?とも思ってしまった。これを毎日やっていけばムキムキになるんじゃなかろうか?そんな事を考えていたらスマホの方に与謝峰さんのメッセージが何件か来ていた事に気が付く。
【今日は本当にありがとう、普段絶対に体験できない事を色々見せてもらって楽しかった。体大丈夫?明日は筋肉痛かな?】
【疲れて寝ちゃったかな?】
【とりあえず色々考えてみたんだけど、よくファンタジー小説やゲームとかにある、回復魔法、人の心を操る魔法、時間を操る魔法、姿を変える魔法、物の大きさを変える魔法、無から何かを作る錬金魔法なんかは使える様にならないかな?そっちだったらお金儲けとかしやすいかも】
【自然魔法系だったら消防士とかも出来るね。空気中に水魔法とか、空気操作で鎮火とか……色々できそうね】
【ああ!羽雪君が魔法を今後どうしたいか聞き忘れちゃったから色々聞きたいな。なんか私だけ盛り上がっちゃってごめんなさい】
【やっぱり疲れて寝ちゃってるみたいだね、おやすみなさい】
とりあえず返信しておいた。
【疲れて寝てた、直ぐに返信できなくてすまん。全身筋肉痛が酷くて動けない……】
直ぐに返信が来た。
【おはよう、やっぱり寝てたのね、前回みたいに酷いの?お大事に。今日の練習は無理かな?】
【前回も午後からは動けたから午後には練習しようと思う。今日も来るの?】
【行きたい!】
【それじゃ前回と同じ場所でやろうか、現地待ち合わせで良いかな?時間は何時くらい?】
【分かった、2時くらいには行けると思う】
【あ、さすがにあそこは人気ないから女の子1人だと危険か……2時にコンビニ前で】
【ありがとう、気遣い感謝!楽しみにしてるよ!】
与謝峰さんのテンションが相変わらず高いなぁ……一方の俺は前世の記憶のせいか、そこまでテンションが上がらず、淡々と実験をしている感じだ。魔法を制御できるようになる度に心が落ち着いていく感じがする。魔力と記憶に因果関係でもあるのだろうか?
回復魔法に関しては怪我をする、病気になる……のを待たないと実験できないので筋肉痛を治してみる事にした。確か応急処置くらいの治療は出来たような記憶があったので、前世での成功した時のイメージを思い出しながら片足だけ治療をしてみた。健康な状態をイメージしながら魔力を混ぜて送ってみる。ゲームの様に派手なエフェクトが出る事は無かったが、足の筋肉痛が大分和らいだ。おそらく効果があったのだろう。これを他人に使えたら良い商売になりそうだ。
人の心を操る魔法は残念ながら使えなかった気がする。感情を増幅させる魔法や人の心を破壊する魔法ならあった様な?何方にしろ試す気はあまり起きないな……恋愛感情とか勇気とかだけを増幅させる事が出来れば海斗と鈴香にでも使ってみて試すのになぁ……
時間を操る魔法……は無かったなぁ……空間はあった気がするけど思い出せない……転移門なんてあったけど、複雑な術式をたくさん魔法陣の様なものに書いてやっと発動……とかだった記憶がある。錬金術はあったのを知ってる程度でやった事が無いな……あ、等価交換だ!現代知識で元素とか構成を知ってればそれを魔力流して変える事ができるかも???
俺はこれは行けるかもしれないと思い、早速やってみる事にした。昔使っていた鉛筆を机の引き出しから探し出し、炭素を抽出できるか魔力を流して試してみる。上手く行けばダイアモンドが作れるかもしれない!……が、イメージが上手くできていないのかなかなか変化がし無かった。しょうがないので魔力をさらに流し(炭素出ろ!炭素出ろ!)と念じてみると……鉛筆の芯だけが木の本体からすっぽ抜けて飛んで部屋の壁に当たり爆散した。
バァン!!!
「きゃっ!ちょっと、優斗、なにしてんの!」
「ご、ごめん,ちょっとぶつかった!」
一階のリビングにいる母ちゃんに怒られてしまった。
うわぁ……かなり派手に吹き飛んだな……俺は鉛筆の芯がぶつかった場所を掃除しようとティッシュと消しゴムを持ってくる。ん?鉛筆の芯だけ飛んで行ったってことは、鉛筆の汚れだけ動かすことが出来るかも?
「さて、どうなる事か……」
壁の鉛筆の汚れに魔力を流して浮遊して移動するイメージで動かしてみる……汚れが壁から分離し空中に浮き始める。
「おお!面白い!」
そのまま移動するイメージでゴミ箱の中まで移動させて魔力の流れを止める。鉛筆の汚れだけがゴミ箱の中に綺麗に落ちる。
「こんな事、前世ではできなかったな……」
記憶を探ってもできた記憶が無い。新たな発見だ。試しに色々なものに魔力を流し込んで浮かしてみる。色々なものを浮かせることに成功した。重さと体積に比例して魔力を消費するみたいだ。魔力が高ければ家一軒とか動かせるのだろうか……?
試しに掃除機代わりにほこりやゴミなどを移動させようとしたが、対象をイメージしにくい不確定なものに関しては動かせなかった。さっき鉛筆の芯を動かせたのは動かす対象が「鉛筆の芯」だとわかってやっていたからかなと思う。
さて、本題行くか……俺の体でやれるか……ドキドキしながら自分の体に魔力をまとわせる。そのまま浮かせるイメージで……お、なんか体が軽く……う、浮いた、浮いたよ!!このまま移動……あ、ちょ、早い、早い!!!
ドン!!!
俺は鉛筆ほどではないがそれなりのスピードで壁にぶつかってしまった。魔力をまとっているせいか全く痛くない。
「ちょっと!優斗!なにしてんの!いい加減にしなさい!」
「ごめん、壁で逆立ちしたら倒れた!」
「なに小学生みたいなことをやってるの!大人みたいな成りをしているんだから、家壊れちゃうわよ!」
体の方はもうちょっと開けた場所じゃないと練習にならないな……後でやってみよう。魔力で身体能力を強化した後に魔力で浮かせるとかやればものすごいジャンプとか出来そうだな。漫画によく出てくる空を飛び続けるなんてのも出来るのだろうか?魔力消費がきついかな?
なんだかんだ部屋で実験を続行していると、昼を過ぎて約束の時間ギリギリになってしまったので自転車に乗って慌てて待ち合わせのコンビニに向かう。
「ごめん、遅れた」
「ん?まだ時間前だよ」
与謝峰さんがにっこりとほほ笑む。なんか今日は一段と可愛い。薄く化粧しているのか??髪型もいつもと違いアップになってたりして綺麗になってる。服もちょっと綺麗な感じになってる。
「?へ、変?」
「……あ、いやそんな事は無い……似合ってるよ……すごく……」
「そ、そう、お母さんがなんか色々やってくれちゃって……」
「あぁ……それはいいお母さんだね」
照れる与謝峰さんがやたらかわいい、あれ?どうしたんだろ俺?
「それじゃ行こうか?」
「うん、あれ?筋肉痛は治った?早くない?」
「それは後で話するよ」
俺達は雑談をしながら移動し廃工場前に着いた。俺は念のため魔力感知で人がいないかを確認する。やっぱり誰もいない……ホント穴場だな。
「今、魔力感知したの?」
「そう、よくわかったね」
「目を閉じて、手を広げてるからすぐわかるよ」
「え、そんな事してたのか……」
俺は試しにもう一度やってみる。うん、してたね、目を閉じた上で手を軽く広げてる。
さすがに変な人に思われるだろうから、普通の状態で出来た方がいいな……後でちょっと身振りを入れないで練習してみるか……
「そう言えば、羽雪君は魔法を使ってなにがしたいの?目的によっては何の練習するかとか実験内容とか、変わってくると思うよ」
「……正直、突然使えるようになったから良くわからないってのが正解かなぁ……そこまで目立ちたくは無いのでひっそりと便利に楽に暮らしたい」
「今だったら億万長者とか狙えると思うけどなぁ……」
「うーん、身の丈に合わない事やると失敗が多くなる……」
そうやってお師匠様達から教えられたなぁ……転生前の俺は割とチャレンジャーだった気がする。無茶をしてたから怒られた記憶がかなり残っている。あちらの世界では魔法が使えるのが割と当たり前と言うか、それなりに練習すれば使える人が多かったので余り特別感が無かった。その記憶があるから割と冷めているのかもしれない。
「そう言う与謝峰さんは魔法が使えたらどうしたいの?」
「んー、使えたら面白いかなーと思うけど、私もあんまり目立ちたくないからひっそりと使うかなぁ……」
「へぇ~、なんか俺たち似た者同士だな……」
「へへっ……」
なんとなくお互い照れ合ってしまう。気恥ずかしい。
「そう言えば、筋肉痛はどうしたの?もしかして回復魔法的なやつできちゃった?」
「あ、そうだった、なんかそれっぽいの出来たよ。魔力流して、体よ!元に戻れー!的なイメージ流したらずいぶん軽くなった」
「自然治癒が早くなる感じ?」
「そんな感じかなぁ……?」
「他人には使えるのかな?って実験はまだか」
「うん……さすがに怪我してる人なんて早々いないもんなぁ……」
突然、与謝峰さんが肩から下げてるバックからごそごそと探しているかと思ったら中からカッターナイフを取り出す。チキチキと刃を出し始める。
「!ま、まった!だめだめ!」
「え、ちょっとだけなら頑張るよ!」
「治らなかったらどうするの、結構痛いと思うんだけど!」
俺は慌ててカッターナイフを取り上げ刃を元に戻してから与謝峰さんのバックに押し戻す。可憐で清楚系の外見なのに思った以上にアグレッシブだ、なんか研究対象に容赦ないマッドサイエンティストに見えてきた。
「んー……私で練習しないとなると……怪我とか病気した人探す……病院に行ってこっそり治す……とかかなぁ……身バレしないでやろうとすると大変だよ?」
「だからって与謝峰さんで実験はしないよ、心臓に悪い」
与謝峰さんは俺の発言を聞くと、一瞬考えた後にからかった口調で軽口をたたく。
「え?そんなに大事に思ってくれるの?ありがとう」
「お、おう……」
「……え?」
どう返せばいいかわからなくて思わず顔をそらす。与謝峰さんも思ってた反応と違ったらしくちょっと困った感じで慌てていた。さっきからなんか気恥ずかしい。何だこれ?とりあえず空気を変えるか……話題、話題っと……
「あーそうだ、錬金術出来るか試したんだけど……」
「!もしかして出来たの???」
「それが上手く行かなくて、その代わりと言っちゃなんだけど、念動力と言うか、テレキネシスっぽいやつは出来た」
「?錬金術からなんでテレキネシスになるのかがわからないかも……」
「鉛筆の芯から炭素を引っこ抜いてダイヤモンドにしようとしたら、鉛筆の芯だけ吹っ飛んで行った」
「ああ、鉛筆の芯が引っこ抜けるイメージをしたから飛んで行ったのね」
「多分そう、んで色々なものを浮かしたり飛ばしたり出来るのも実験して成功した」
そう言いながら俺は手近な石に向けて魔力を流して宙に浮かせて見せた。うん、石はやっぱり簡単にイメージできるから行けるね。
「おお!すごい、浮いてる!」
浮いた石をむき出しの土壁にめがけて飛ばしてみる。俺の部屋ではあまりスピードを出す事が出来なかったので自重無しだ。どれくらいスピードが出るか楽しみだっ!
ドォン!!!
「うおっ!」
「きゃっ!!」
ちょっと威力を上げすぎたのか、着弾地点が吹き飛び土ぼこりが舞い上がる。やり過ぎだなこれは……俺は想像以上の威力に呆然としていた。
「……ものすごい威力ね……あっ……」
与謝峰さんが突然、俺の手を引いて、慌てて廃工場の室内の方に引っ張っていく。あれ?なんで?
「羽雪君、魔力感知して人が近づいてこないか確かめて」
あ、そういう事か。確かに今の爆発音聞いたら来るかも知れないか、そこまで頭が回らなかった……俺達は見つからなさそうな工場の壁の影に隠れて魔力感知をしてみる。コントロールが上手く行くようになってきたから範囲も最大200メートルくらいまで感知できるようになっていた。
「ん、んんっ……」
与謝峰さんが相変わらずかわいい声で呻く……あれ、魔力流してないのに?ふと、手を握ったままなのに気が付く。魔力感知で魔力流れちゃったか……?慌てて俺は与謝峰さんの手を離した。
「あ、ごめ……」
「ふぅ……ありがとう、なんかほんと電気でビリビリする感じがする……魔力ってビリビリする感じじゃないの?」
「そんな感じじゃないなぁ……なんと言うかこう……熱の流れが移動する感じなんだけど……人に使うと違うのかな?」
「うーん、私以外にも被験者が必要かな?」
能力ばれしたくないのであまり知っている人増やしたくないな……と思いながら再び周囲の魔力感知をしてみる。大丈夫みたいだな。
「おそらく大丈夫、周りに人の気配は無いよ」
「それじゃぁ気を取り直して練習してみますか、しばらくは人が来る可能性があるから、ちょっとこまめに感知してくれる?」
「わかった」
それから与謝峰さんは腹の丹田ぽいところに手を当てて何やら集中しだす。魔力感知で見てみると別に変った流れはなく、魔力を練れてる形跡は見られなかった……やっぱり難しいよなぁ……痛くならないなら魔力流した方が良いんだけどなぁ?この世界の魔力の性質が前世の世界と違うのだろうか?
俺の方は昨日の自然系の操作の復習とテレキネシスで物を動かす練習をする。ある程度距離が離れると必要魔力が増える感じみたいで、体に近ければ近いほどイメージ通りにコントロールできるみたいだ。触れてさえいれば水が半分入ったドラム缶も軽く浮かせることが出来た。100キログラムくらいは持ち上げられるのだろうか?草や木などもやろうとしたが、あまりうまく行かず葉っぱや枝などをむしり取る結果になった。土などの場合は地面を丸ごと範囲で持ち上げれば何とか持ち上げられた。ターゲットを完全にイメージしていないと駄目ってことか?
「要するに目に見える範囲でエリア指定が必要……て感じか……」
「羽雪君、すごくおもしろそう……私はからっきしダメだねぇ」
「魔力感知してもうまく行ってないから、まだ駄目かなぁ……」
「はぁ……残念……やっぱり無理かなぁ……あ、他の魔法はどうなの?」
俺が一人で午前中に整理した事と試してみたことを軽く報告してみる。
「時間や物の大きさを変えるとか、物理的に無理があるものは出来ない感じかな……後どうやってやればイメージが付かないものも無理っぽい」
「錬金術とかも?特定の物質だけ抽出とかできないかな?」
「その結果がテレキネシスだからねぇ」
「あ、そうか……オレンジジュースから水だけ抽出……とかできるとなんか出来そうかもね」
与謝峰さんがちょっとがっかりした感じになってきた……
「魔法で小さくなるとか、動物に化けるとか、時間を止めるとかファンタジー小説みたいな事できるとよかったのになぁ……」
「それ、出来ちゃうと犯罪し放題だね、実際できたらバレなさそうだし……」
「確かに……」
残念そうな気分を盛り上げようと思い、やはり前世の記憶から見ても魔力流しが一番手っ取り早いんだよなぁ……与謝峰さんにはちょっとだけがんばって痛みに耐えてもらって限界までやってみるか?
「魔力流すのもう一度試してみる?確か、魔力の使い方を覚えるのはこれが一番早かったともうんだけど?」
「あ、そうなの?……え?」
「へ?どうしたの?」
与謝峰さんがかなり驚いて動揺している、目が左右に揺れて言葉を探している感じだ……あれ?俺なんか変な事言った??
「え……えーっと、今の言葉が本当……だとすると……」
「だとすると?」
「羽雪君は誰かに魔法の手ほどきを受けて覚えた……って事になるんだけど……」
「え?俺なんて言ったっけ……」
「確か、魔力の使い方を覚えるのはこれが一番早かった……って」
「……」
ああ……やってしまった……お師匠様達にもあんたはちょっと抜けたところがあるから注意しろとか、もうちょっとだけで良いからやる前に色々考えて動けとか……良く言われてたわ……前世の記憶とリンクして思わず頭を抱える。
俺の様子を見て肯定と受け止めた与謝峰さんは更に質問をしてくる。
「で、誰に教わったの?言えない感じ?この世界にも魔法が使える人沢山いるって事?一子相伝で伝わってるとか??」
与謝峰さんの目がキラキラを通り越してギラギラしだす。この人も俺と似て好奇心で身を亡ぼすタイプなんだろうな……あー……でもどうしよう……正直に言ったら引かれそう……かな?大丈夫かな……?
「あーっと…………教えてくれた人はこの世界には居ないよ……」
「……え?……えっと……なんかごめんなさい……」
変な間が流れる。あ、この言い方じゃ教えてくれた人がこの世にいないって事になるか?
「あ、別に死んだとかじゃなくて……」
「?」
「言っても引かない?」
「んー聞かないとわからないかな……」
うーん……もうすでに魔法を全部見せちゃってるわけだし、前世の記憶なんて今更感が強い気がしてきた。ただ現代の転生ならわかるが、異世界からの転生となると……ぶっ飛び過ぎだよなぁ……困ったなぁ……
俺がまごまごしていると、与謝峰さんがズイッとにじり寄ってくる。期待している目をしている……くそ……可愛いな……
「教えて?私、口が堅い方だと思うよ?」
「……前世で教えてもらった……って言って信じる?」
「!!!!すごい!!……この状況だと信じられるよ、もう信じられない事を沢山見てきてるし」
「そ、そうか……」
ちょっと言っててかなり恥ずかしい気がしてきた。ああ、よかった受け入れてもらえて。ん?演技じゃないよな……だますメリットないよね……?疑心暗鬼になってしまう。
「やっぱり異世界からの転生なの?、この世界には魔法なんて無いよね?」
「え?」
「ん?……違うの?……?」
どういう事だ?なんでこの世界じゃないなんて知ってるんだ?やばい、頭が混乱してしまう……俺はなんて答えていいかわからない状態になってフリーズしてしまった。その様子を見て与謝峰さんが慌てて俺にフォローを入れてくる。
「え、えっとね……そのね……そっち方面の趣味なんだけど……その、異世界のゲームの世界に転生するって言うジャンルがあって……それの逆なんじゃないかなぁ……と……」
与謝峰さんが耳まで真っ赤にしながら話をしてくれる。そんなに恥ずかしい事なんだろうか?俺の転生カミングアウトの方がはるかに恥ずかしいと思うのだけど?突然転生の話をしたら、こいつ頭大丈夫?と俺なら思ってしまうよ?
「あー……サッカーとゲームしかやらないから分からなった……」
「あの……友達とかに話しないでね……この事……」
「え?なんで?」
「……この趣味はカミングアウトしてなくて恥ずかしいの!」
「……あ、すんません、わかりました……」
俺は別に他人に迷惑をかけなければどんな趣味でも良いと思うけど、そうでもなさそうだなぁ……と思いつつ話を元に戻す。
「……あ……異世界じゃなくてこの世界の昔の話?」
「うーん、異世界だなぁ……この世界には居ない人種とか魔物とかいた」
「〔ポットの魔法学校〕みたいな世界?」
「あーなんか懐かしいな、あれみたいな近代的な感じではなかったな……魔法が便利なせいか、科学的な文明は栄えてなかったと思う」
「〔指輪の王様〕の方があってるかな?」
「〔指輪の王様〕……ごめん分からない……後で教えてくれる?」
「うーん……私がゲームの方詳しかったらなぁタイトル名とかわからないよ……」
「趣味がかち合わないと話が進まないねぇ……」
「ちょっとスマホで検索してみるよ」
与謝峰さんがスマホを取り出してネットで検索を始める……が直ぐに止めてしまう。すごく残念そうな顔をして俺を見上げる。
「ここ圏外みたい」
「まじか」
「う~ん、帰ったらそれっぽい魔法世界の参考になりそうなやつ、集めて送るから見てみてよ」
「おけ」
「あと、異世界とか転生の話はスマホでしない方が良いかもね……浮かれて送ったのは私だけど、確かどっかにログが残って盗み見される……とか?あった様な気がする」
「それだと、直接会って話した方が良いって事か……」
そんなことを話しをしたり、実験をしたりしている間に日が傾き始めて来ていた。ここはいい場所だけど、街灯が無いから夕方で強制的に終了になっちゃうんだよなぁ……夜は暗くてほとんど周りが見えない感じになるだろうし。
「それじゃ、色々途中な気がするけど家に帰るか」
「そうだね……なんか衝撃が大きすぎて眠れない夜になりそうだよ」
「……ああ、そう言えば、テストも近いし丁度いいんじゃない?」
「あ……完全に忘れてたかも……」
「……いつも成績良いから大丈夫……だよね?なんか成績下がったら完全に俺のせいじゃない?」
「首を突っ込んでるのは私の方だから気にしないで、ちょっと詰め込みなおし作業しないとダメだけど」
「……もう勉強終わってる感じの発言だね」
「それなりに頑張ってますから」
そんなこんなで日が落ちる前に家路につく。個人的には相談できる人が出来て気が楽になった。前世の俺の賢者みたいな頼れる存在になるのだろうか?まぁ、様子見だな。
■とある公園で
昼の雨が降り頻る公園で、かなりの雨量にもかかわらず雨具も使わずに人型のなにかが立ち止まっている。全身ずぶ濡れでも気に留めないようだ。
「お姉さん大丈夫ですか?」
レインコートを着た警官がやれやれと言う表情をしながら、さも心配したかのように話しかける。おそらく通報があって駆けつけたのだろう。一瞬、警官の方を見るも人型のなにかの反応が薄い。
「あのー?聞こえてます?大丈夫ですか?こんな所で雨の中っつ立っていると色々問題あるんですよ?」
『……! ロストしていた微弱な反応を確認』
「えーと?何語?聞いたことない発音だなぁ???大丈夫ですか?」
警官か人型のなにかの目の前で手を振る。人型のなにかは警官が目に入っていない様だった。
『調査のため移動開始します』
「え?なに?なに言ってるの?んー英語?違うよな?」
くるっと方向を変え、人知を超えたスピードで走り出し公園のフェンスを軽々と飛び越えて塀の上を走って消えてしまう。
「……えっ?、なにあれ?……もしかしてネット動画の撮影?」
警官は慌てて辺りを見回す。周りには通報した人なのかもしれない傘を差した野次馬のオバさん達しかいなかった。
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