転生者 フットサルで色々気がつく
祝日の土曜日の午前中に高校の体育館でフットサルの試合をしていた。
同好会メンバー対他校のチーム戦だった。やっぱり球を蹴るのは良い。魔力の練習も面白いがこっちも楽しい。前世でも体を動かす職業だったから今も好きなのかなぁ?とふと考えたりもした。
魔力を使って身体能力を上げて遊んでみたかったが、威力がどれくらい上がるかわからないので止めて置いた。それに実戦で使ったらかなりずるいよなぁ……と思いつつプレーする。
……が、意図せずとも普通にずるい状態になってしまっていた、記憶が戻ることにより体の使い方や反射神経、脳の使い方などが最適化されてしまった様で、人やボールの動きがゆっくり見えたり、ちょっと集中すると視界の色が消えてグレーになる代わりにスローモーションの様に見えたりするのだ。普段上手く行かないトラップなどもゆっくりな速度が流れる空間では綺麗に決まり、パスやシュートも思い通りにいく。人の動きも手に取るようにわかるのですいすいとプレーできる。達人の領域、いわゆる「ゾーン」ってやつなんじゃなかろうか?
「優斗ナイシュー!」
「ユートすげー!調子よすぎじゃね?」
「何かいいもんでも食べたか?」
「おーっと、彼女にいいところ見せる感じ?」
「ん?」
最後のはなんだ?彼女はおらんぞ?あれ?いつの間に俺は誰かと付き合ってたのか?
「ほれ、あっち、あの子、クラス一緒だろ?、たしか」
チームメイトが指をさした方向を見ると鈴香と与謝峰さんがいた。
「あー……彼女じゃない」
「あれー?そうなの?てっきり付き合ってるものかと……」
「俺まだそんなん居ないし……」
現代の日本では女子と気安く話しすぎると周りからそう思われるものだったっけ……相変わらず頭が前世と混同してしまうなぁ……と、ふと思ったが、体のコントロールや集中力の飛躍的向上の方が気になってしょうがなかった。これこそ前世と今世で感覚が混同してしまっている現象だと思った。
ハーフタイムになると早速、海斗が鈴香に話しかけに行ってる。惚れてるものの動きは早いねぇ……与謝峰さんと目が合った。手をひらひらと振ってくれたので振り返す。
一方、俺はチームの調子が良すぎで盛り上がっているチームメイトと雑談する。
「トラップすごいけどどうしたん?一流レベルじゃね?」
「あーそれ俺も思った、ムズイ球軽くさばいてたね」
「集中してたら何かできちゃったよ、なんでできたんだろ?」
「それよりも隆志の方がすごかったっしょ、何ゴール上げたの? 3,4か?」
「ああ、すげー調子いいな、今日は全部勝てそうだな」
「パスもいいとゴールも良く入るなぁ……気持ちいい!」
「いつも僅差の勝負なのにな、俺ら調子よすぎ!」
とりあえず、今世の優斗の体の操作自体にも記憶が関与する様なので慣れて置かないとダメだな……と思う。意識的に思考加速しないようにするとかしないとダメか。全力を出そうとすると自動的に意識の速度が上がる……やっぱり手を抜かないとダメか……そうすると俺が面白くないし……これは贅沢な悩みになったなと思いつつも後半が始まる。
フットサルの試合が終わり、みんなで後片付けをしていると海斗が話しかけてくる。
「優斗、終わったら飯食べに行かない?鈴香たちと」
「……あー、良いけど……午後は用事あるから手早くかな?」
「おう、わかった、誘ってくる!」
「ん?わかった」
さっき話して誘ってたから、こっち誘いに来たと思ったんだけど、今からか……と心の中で突っ込みつつ片付けを終える。3人でつるまないと勇気が出ない感じか?これは上手く後押しするべき?と考えながらバックを肩にかけて海斗達の方に歩いていく。
「与謝峰さんは家帰ってご飯作らないとダメだから来られないって、鈴香と3人だけど良い?」
「おっけ、手早くファーストフード系で済ますか……」
「えー。ゆっくりしたかったのに」
「午後から予定あんの」
「ゆっくりしようよぉー」
「あ、それじゃ私帰るね。秘密特訓の成果が出ててよかったね。それじゃ」
話しが長くなると思ったのだろうか与謝峰さんが先に帰り支度をする。
「おう、じゃあね」
「またねー」
「じゃぁね」
手をひらひらと振った後、軽く微笑んで与謝峰さんがスタスタと歩いて帰る。鈴香があれ?と言った表情をするが、思い出したようにニヤニヤしながら聞いてくる。
「秘密特訓の成果すごかったねぇ?」
「ほんと、すごかったなぁ、俺も秘密特訓するかな?」
「くっ……うるせぇ」
ファーストフード店で注文を済ませトレイを受け取ると3人でテーブル席に着席する。ポテトをつつきながら、与謝峰さんの練習方法や自分の魔法練習どうしようか?などを悩みだす……上の空で海斗と鈴香二人の会話を聞き流す。
俺の隣に座った鈴香が俺を肘で突っつく。
「反応が悪いねぇ」
「お……っと何の話?聞いてなかった……」
「明日、みんなで映画見に行かない?って話なんだけど……」
「あー、明日は色々試したいことあるからパスかな」
「えー、せっかく私、明日バイト休みなのにぃ~」
「んな事言ってもなぁ……あ~そうだ、たまには二人で映画に行って来たら?」
海斗のテンションが見るからにあがってしまう。目が輝き出したかのように見える。
「お、おう、それじゃ行くか、鈴香」
「へ?……う、うん、別にいいけど……」
ちらっと鈴香が俺に目配せをする。気を利かせた俺ってば偉いって感じ?……じゃないような気もするがまぁいいか。どうしても今日の午後の事が気になって思考がそっちに行ってしまう。
「そう言えば、与謝峰さんってどんな子なの?」
鈴香が若干、いや、かなりテンションが落ちた感じで答える。
「えーっと、あれ?あまり喋って無かったっけ?良い子だよー」
最後の方は棒読みだ、ちょっとテンション下げ過ぎじゃない?どうした鈴香?
「霊感とかそう言うのある人?」
「え?霊感??あ、そっち系の話かぁ……あるのかなぁ……あーちょっと変わったところはあったかも、昔っから妙に大人っぽい人だったかな。保育園が一緒だったんだけどさぁ、お姉さんっぽくて、小さな子の面倒よく見てたよ。ってか私も良くお世話されてた気がする」
「しっかりものの鈴香さんのお世話するくらいって、すごくね?」
しっかりものと言われて嬉しいのかテンションが元に戻る。
「えへっ……後は小さい時から頭が物凄く良くて、小学生の時は大人が読むような本読んでた気がするな、遊びに行くと難しい本読んでたりしてたし、うちの親同士が結構仲良くていつも成績が良いってママから聞いた記憶あるよ。あ……3年前にお父さん亡くしちゃって、弟と妹二人いるんだけど、家の家事とか兄弟のお世話手伝ったりで色々と大変みたいよ」
「へー……」
それで学校の集まりにあんまり出なかったり、髪の毛がぼさぼさだったりする時があるのか……苦労人だったんだな。なんでもやってくれる親と妹がいると気持ちがわからないかもな……
「霊感とか不思議な能力のある……いや、今思えば、小さい時からあんなにしっかりして頭のいい人はいなかった気がする」
「天才すぎる感じだったのね」
「天才かもねぇ、確かに」
それから海斗が男子目線での与謝峰さん情報を教えてくれる。
「俺も鈴香と一緒でちょっと付き合いあるからちょっとはわかるよ。去年俺と同じクラスだったけど、与謝峰さんは結構みんなに人気あったよ。ん~、確か放課後もあまり残らないでいなくなっちゃうし、イベント毎の集まりにもあまり出ないから残念がられてたりしてたね。文化祭でお近づきになりたい人結構いたような気がするよ」
「ふーん、海斗もその一人だったの?」
「!いや!、ち、ちがう、え?なんで?」
俺は夫婦漫才を見ながら、早く付き合っちゃえよと内心思う。その時俺のスマホに着信が入る。
【三丁目のコンビニの前で13時30分頃待ち合わせで大丈夫?】
今は13時になる前か、大丈夫そうだな……直ぐにスマホで返信する。
【大丈夫、今から帰ってから向かうよ】
「あ、悪ぃ、ちょっと急いで帰るわ」
「おう」
「はーい」
残ってたポテトと飲み物を慌てて口に詰め込んで席を立つ。さくさくっと行きますか。なんか楽しくなってきた。
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